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722話

 暫くの間、教会にある知恵の神セレズの像前で祈りを捧げていると、聞き取るのが難しいくらいの小さな女性の声で、ぼそりと耳元で一つの単語が囁かれ、背後からは謎の暖かみと人のような存在をコウは感じ取った。


 そんな耳元で囁かれた単語は死の森というものだったが、閉じていた瞼をパッと開き、すぐさま背後を振り返ってもそこに居たのは先ほど会話をしていた神父だけである。


「ん?今...」


「どうしましたか?」


「いや...何か喋ったか?」


「いえ?特に何も言っておりませんが...」


 そのため、背後に立っていた神父へ自身に声を掛けたのかと、聞いてみるも何も言っていないようで、一体何のことなのか分かっていない表情を浮かべていた。


 しかし耳元で聞こえたのは間違いではない筈なのだが、神父が声を掛けてきていないのであれば、心霊などの怪奇現象という可能性が出てきてしまうため、少しだけ背筋がぞわりと寒くなってしまう。


「あっ...もしかすると神託ではないでしょうか?」


「そうなのか...?いやまぁ...そうだよな...」


 確かにここは教会という神聖な場所なので、神父の言う通り、知恵の神セレズへ祈りを捧げたことによって先ほどコウヘ神託が降りてきたという線もなくはない。


 まぁ心霊などの怪奇現象なんかよりも神託というものの方がよっぽど良いものだと言えるし、考え方の問題なのかもしれないので、コウは先程の囁きは神託だと自己暗示を掛けていくことにした。


(死の森か...)


 それにしても耳元で囁かれた死の森という単語が知恵の神セレズからの神託なのであれば、何故そのようなことを伝えられたのだろうか?


 死の森といえば、自身の出生地であったり、ここ最近ではアルクのダンジョンが転移した場所だの言われているくらいしか思い当たることはない。


(はぁ...悩みが増えただけだったな...)


 とりあえず神託の意図が分からず、結局のところ今悩んでいることについても解決する道を示してくれるようなことはなかったし、ただ悩みが増えただけのような気がしてしまう。


 そんなことを思いつつも、小さなため息を吐きながらコウはその場から立ち上がり、固まった膝の裏の筋をグッと伸ばしていく。


「まぁいいや。じゃあそろそろ帰ろうかな」


「そうですか。ではまた祈りをお待ちしておりますよ」


 とりあえずこの世界の神様への祈りも済んだことなので、そろそろ起きていると思われるライラ達の下へ帰ることにし、神父に別れを告げると、そのまま教会の外へ出ることにした。


「おっと悪いな...ってライラじゃないか」


「いえいえ〜...ってコウさんじゃないですか〜」


 そして教会の外に出ようとすると、偶々同じタイミングで入ってきた人とぶつかりそうになってしまったのだが、それは同居人であり、パーティーを一緒に組んでいるライラであった。


 未だに家のベッドで惰眠を貪っているとでも思っていたのだが、まさかこんなところで会うとは思ってもおらず、コウはつい驚きの表情を浮かべ合ってしまう。


 また驚きの表情を浮かべていたのは自身だけでなく、ライラも同じようでコウがこんなところへ訪れているのは不思議でしょうがないといった様子。


「どうしてこんなところに~?」


「いやまぁ俺は散歩してて気まぐれで立ち寄っただけだな」


「そうなんですね〜私はここ最近お祈りしていませんでしたので立ち寄りに来たんです~」


 そんなライラからどうしてこんな教会に訪れているのかと聞かれたので、コウは散歩していたら教会を見つけたため、気まぐれとして立ち寄ったことを話していくことにした。


 ちなみにライラが教会に訪れた理由はここ最近、教会にてお祈りをしていなかったということで、特に依頼なども受けていなかったため、丁度良い機会だと思い、訪れたとのことであった。


 まぁ目の前に立っているのほほんとした存在であるライラはこんなのでも元聖女候補と呼ばれるようなものだったので祈りにくるのは不自然ではないし、寧ろ聖職者であるならばもっとお祈りに訪れたほうが良いのではないかとコウは思ってしまう。


「むっ...何だか変なこと考えませんでした〜?」


「何も考えてないって...」


 何というか口にすら出していないのに勘が鋭いものであるが、本人に対してそんなことを言うと後でどうなるか分かったものではないので、首を横に振りながら邪なことは考えていないと否定していく。


 するとライラからはジトっとした眼差しで疑いつつもコウの言葉を信じてくれたようで、それ以降は問い詰められるようなことはなかったため、ほっと胸を撫で下ろす。


「お祈りはすぐ終わるのか?」


「すぐ終わりますよ〜少しだけ待っててくれませんか〜?」


 とりあえずそんな話は切り上げて今度はお祈りはすぐ終わるのかを聞いてみると、そこまで時間は掛からないらしく、できれば教会の側で時間を潰しながら待っていて欲しいと言われた。


 まぁそこまで急いで行く場所も予定も何もないので、コウは了承しつつ、ライラの祈りが終わるまで教会の側にて暫くの間、お腹を空かせながら待つことにするのであった...。

いつも見てくださってありがとうございます!


次回の更新予定日は多分8月25日になりましたのでよろしくお願いします。

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