717話
「んっ...」
いつの間にか睡魔に負けてしまったコウは何だか瞼の裏からでも分かるくらいには明るさを感じたため、もう朝かと思いつつ、横になっていた身体を起こし、目を擦りながら閉じていた重りが付いているような瞼を開く。
そして視界に入って来たのは青々とした草の絨毯が広がる広大な大地であり、美しい茶器や出来立ての美味しそうな菓子などが置かれた長机と椅子が綺麗に並べられた空間ということで、夢がはたまた寝ぼけているのかコウは再び目を擦る。
「ここは...何処だ...?どうなってるんだ?」
しかし目を擦ったところで、目の前に広がっていた光景は変わらず、自室ですらないということもあって、そんな状況に戸惑いを隠せなかった。
そのため、コウは頬を抓ればこの夢から覚める筈だと思い、自身の餅のように柔らかな頬を抓ってみるも、ヒリヒリとした痛みを感じるだけであり、夢だと思っている現状から目を覚ますようなことはなく、時が止まったかのように思考がフリーズしてしまう。
「っ...!」
そして頬を抓りながら思考をフリーズさせていると、今度は目の前の草原に黒い渦の様なものが目の前に作り出されたため、フリーズしていた思考が一気に戻され、コウはそれが魔族が扱う移動魔法のそれとすぐに気付く。
「収納の指輪が無い...!?」
そのため、コウは出てくるのが魔族だと予想し、愛用している武器であるサンクチュアリを構えようとするも、指に嵌めていた筈の収納の指輪がないことに今度は気付き、切迫を詰まらせながらどうするか頭の中でぐるぐると考えていると、黒い渦の様なものの中から見覚えのある真っ黒な外套を身に纏い、フード深く被って顔が見えない怪しい人物が出てきたではないか。
「あんたは...この間の...」
そんな黒い渦から出てきた人物は以前、コウが魔族であるレヴィーエルやアインに捕らわれ、逃げ出した際に森の中で出会った老人の声がする者であり、あの時は吸血鬼が日光に浴びたかのように全身がサラサラとした灰のように変化していき、時間切れだと言いながらその場から消えてしまったため、何の種族なのか分からなかったが、ようやく魔族であるとコウは知ることとなる。
「久しいな。しっかりと手紙は開いてくれたようで安心したぞ」
「あの手紙のせいか...魔族が俺に一体何のようだ?」
「以前別れの際に我と再開すると以前も言っただろう?」
一応、目の前の魔族の目的について警戒しながら聞いてみると、以前別れ際に再び出会うといた約束をしただろうと伝えられた。
確かに初めて出会った時のことを今思い返してみると、別れ際にそんなことを言っていたような気がしないでもない。
しかしそれにしてもあの机の上に置いてあった手紙を開いてしまったせいで、このようなことになってしまったため、自身の不注意ということもあり、なんとも言えない気持ちになってしまう。
「...じゃあ目的は何なんだ?」
「目的がないと会ってはならんのか?少し話をしに来ただけだ」
とりあえず今までのことを思い返すと、魔族と関わっても碌なことが無かったので、一応警戒しながらも今回の目的について聞いてみると、どうやら少しだけ話をしに来ただけのようだ。
「その言葉本当だろうな?」
「敵対の意思は無いから安心すると良い。ではそこの椅子に座り給え」
そのため、本当なのかと確認してみると、両手を上げながら敵対の意思は無いという返答が返ってきたのだが、まぁ目の前の人物の言う通り、もし本当に敵対の意思があるのであれば武器すら持っていない無防備なコウに対して既に何かしら仕掛けていた筈である。
ということで、敵対の意思は無いといった言葉を信じたコウは過去のことに目を瞑り、並べられた幾つかの椅子の1つへ座ることとするのであった...。
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