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692話

 さて...冒険者ギルドの裏手にある訓練場へ到着した訳なのだが、道中ではルビィとトゥリッタが見知らぬ少年の誤解を解こうとするも、コウとしてはそれは面白くならなさそうだったということで止めたりしていた。


 そのお陰でなのか道中では見知らぬ少年から敵意がこちらにしっかりと向けられていたりしたのだが、この様に街中で見知らぬ人物から絡まれたりするのは久しぶりのことなので、何というか少しだけ心が躍ってしまう。


 そんなことはさておき...訓練場では自身が普段から扱っている武器は使えないので、まず最初に貸出用として用意されている武器の中から自身が使うものを選ばなければならない。


 もちろんどれもこれも安全性のために刃が潰されている代物なのだが、生身の身体に当たれば勿論痛いし、怪我をするリスクもあったりする。


 そのため、お互いにある程度は手加減をしないといけないし、身に付けている防具部分へ当てないといけないのだが、果たして目の前にいる見知らぬ少年はそのことを守ってくれるのだろうかが甚だ疑問ではある。


 とはいえ、全力で攻められたとしても自身とは実力差がかなりあると思われるため、どちらかと言えば怪我をさせないように気を付けないといけないのは自身の方と言えるだろうか。


「じゃあ武器は先に選んでも良いぞ」


「...僕よりも実力が上と言いたいんですか?」


「じゃなきゃこんなことを受けないしな」


 ということで、見知らぬ少年に対して先に選んでも良いと武器の選択を譲ってみると、上から目線の扱いを受けたことによってムッとした表情を浮かべていた。


 まぁ格下だと扱われれば、誰だってそのような反応をするのも当たり前だろうし、何よりも冒険者というものはプライドの塊のような者達ばかりなので、思っている以上にカチンと頭に来ていると思われる。


「じゃあ僕はこれにします。後悔しないで下さいね」


 そんなカチンと頭に来ているであろう見知らぬ少年が手に取ったのはオーソドックスな剣であり、誰であっても扱いやすい無難な代物であった。


 そういえば見知らぬ少年の腰に刺していたのも剣だったような気がするので、きっと手に馴染んだ使い物やすい武器を選んだのだろう。


「じゃあ俺はこれにするか」


 そしてコウが選んだ武器は自身の位置から1番近しい場所に置いてあった槍であり、普段はあまり使わない種類の武器なのだが、自身の扱うサンクチュアリも突きなどの動きを絡めて使っているため、多少なりとも使い方は同じ筈である。


 とりあえずお互いに武器を選び終えたため、向き合いながら武器を構え出したのだが、見知らぬ少年はこのような立ち会いに慣れていないのかそれとも緊張しているのか分からないが、身体の動きが少しだけぎこちなく見え、自身も昔はあぁだったのかもしれないとも思ってしまう。


「そっちから来ないならこっちから行くぞ?」


「...っ!」


 とりあえず動く気がないのであれば、自身から攻めた方が良いと思い、一言声を掛けながら足を前に一歩踏み出すと、見知らぬ少年は強気なコウに対して腰が引けているのか少しだけ後退りをしだす。


 そんな剣を構えた見知らぬ少年へコウは一気に近づくと、まずはどれくらいの実力なのかを確かめるために小手調べとして槍で数回ほど軽く素早く突きを繰り出してみることした。


「わっ...わわっ!」


 するとコウが繰り出した素早い突きを見知らぬ少年は当たり前だが、新人冒険者ということで捌き切れる訳もなく、肩や腹部などの防具で守られている部分に全て当たっていく。


 とはいえ、コウが手加減していることもあってか、防具で守られている部分へ当たったとしても見知らぬ少年が痛がっている様子は無いので、これぐらいが丁度良い加減なのかもしれない。


「くっ...!やめろぉ!」


「おっと...危ないな」


 そしてコウが連続して当ててくる槍の突きがあまり痛くもないことを理解してなのか、少し強引に手に持っている剣で大きく振り回してきたので、半歩程下がってひらりと回避することにした。


「このっ!僕が反撃してこないと思うな!」


 そんな見知らぬ少年はコウから繰り出されていた槍の突きが中断されたということで、反撃としてなのか、こちらに向かって隙だらけの状態で剣を大きく縦振りしてくる訳なのだが、無論そんなものに当たりはしない。


 正直なところ隙だらけということなので、再び反撃に転じても良いのだが、新人冒険者相手に自身の持つ槍で永遠と突き続けるのもどうかと思い、コウは反撃をせずに暫くの間、避け続けることを選択した。


「なんでっ...はぁ...当たらないんだっ...!」


(うーん...流石にこれ以上は...そろそろ切り上げるか)


 そして暫くの間、見知らぬ少年の剣を避け続けたのだが、疲れの色も見えてきたし、これ以上やり続けたところで各下相手への虐めと何ら変わらず、周りからの印象も悪くなってしまいそうなので、そろそろ終わらせてあげた方が良いだろうとコウは判断した。


 ということで、コウは巧みな槍捌きで見知らぬ少年が大きく振ってきた剣を絡め取りながら上方向に向かって弾き飛ばすと、剣はクルクルと宙を舞い、刀身が地面へずぶりと深く刺さった。


「これで詰みだな」


 そして槍の先端に付いている潰れた刃を見知らぬ少年の首元へコウが突き付けると、誰が見ても決着がついたと分かるような状況を作り上げていくのであった...。

いつも見てくださってありがとうございます!


次回の更新予定日は多分5月20日になりますのでよろしくお願いします。

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