678話
漁師からの聞き込みを終え、市場から離れたコウ達は事前に聞いていた海岸沿いを西に向かって歩き出した訳なのだが、きめ細やかな砂浜が足元を埋め尽くしているため、以前砂漠のダンジョンにて歩いた時のことをふと思い出す。
まぁあの時はダンジョンによる擬似的な陽光の暑さもあったが、今回は海が目の前に広がっているということもあり、心地よい海風がコウ達へ吹き流れ、押しては引いてを繰り返す波の音が日々の疲れを癒やしてくれた。
「さて...入り江っぽいのはここら辺か?...ってなんか赤い岩みたいなのがいるな」
「そうですね~明らかにおかしなのが1匹いますね~」
「キュイ!」
そしてそうこうしている内に魔物が住み着いたと思われる入り江付近へ到着したということで、どんな魔物が住み着いたのかと思いながらコウ達は周囲をぐるりと見渡していく。
するとそこには岩のように巨大な1匹の赤い蟹が入り江に我が物顔でどっしりと居座り、ゴツゴツとした鋏を上手いこと使いつつ、岩場に張り付いている何かを黙々と食べており、今回の標的だとその場にいる全員がすぐに理解した。
そんな蟹の魔物が一体何を食べているのか?と思い、コウは目を凝らしてよく見てみると、それは淡い桃色でハートの形をした貝のようなものであった。
まぁ何となくではあるが、漁師から聞いていたハートシーリングという海産物の名前と見た目を頭の中で照らし合わせてみると、一致しているような気がしないでもない。
それにしても岩場に張り付いている大量のハートシーリングと思われる貝を黙々と食べているということはあの蟹の魔物の主食なのかもしれない。
そんな蟹の魔物がここに居座った理由は明らかであり、それは餌であるハートシーリングが多く生息しているからと言えるだろうか。
「蟹かぁ...きっと身がしっかりと詰まってるんだろうなぁ...」
「コウさん...もしかしてあの魔物を食材として見てませんか~?」
「ん?当たり前だよな?フェニ」
「キュ!」
しかし目の前にいる蟹の魔物を見ていると、以前ザリガニのような魔物であるマッドロブスターを魔食堂に持ち込んで料理人のリクトンに調理してもらい、みんなで美味しく頂いたという記憶を思い出す。
そして目の前にいる蟹の魔物も同じ甲殻類であるということで、味はきっと美味しいのだろうと思い、コウとしてはあの時のマッドロブスター同様に調理して食べてみたい気持ちがじわじわと湧いてきた。
そのため、目の前にいる蟹の魔物はこの入り江から追い払うのではなく、しっかりと仕留めておきたいところ。
ちなみに本来の目的はハートシーリングという海産物だけであり、目の前にいる蟹の魔物は対象外なので、丸々自身達の食料になるのもかなり嬉しさを感じるポイントではある。
「さてと...やるか」
「まぁ私も目の前にいる魔物の味は気になりますので楽しみですね~」
「キュ!」
そんな新たな食材との出会いということで、コウ達は目を輝かせながら各々愛用する武器を手に取ると、戦いやすいように陣形を整えていく。
また幸いにも蟹の魔物は未だにコウ達の存在に気付いていないのか、はたまた目の前にあるハートシーリングを黙々と食べるために無視を決め込んでいるのかは分からないが、隙だらけの背中を見せつけてきており、ここは一気に攻める好機だと言えるだろうか。
そして蟹の魔物へ三方向から駆け出して近づいていき、コウ達が浅瀬に片足を踏み入れた瞬間、青白く透明なクラゲのような何かがまるで罠の如く、自身達の周囲へ取り囲むようにふわりふわりと浮かび上がってくるのであった...。
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