641話
さて...老人と思われる怪しい男に会ってからというものちょくちょく休憩を挟みつつ、魔道具から伸びる光の線を頼りに切り立った崖を上ったり、青々とした木々が立ち並ぶ森の中を進んでいくと、ようやく広い森の中から抜けることが出来た。
またそんな広い森から抜けると、自身の目の前には3方向に向かって別れている街道が現れ、コウが持つ魔道具から伸びる光の線がその3方向に別れている街道の内の1本へ真っ直ぐに続いていたりする。
ただ時間帯が既に夕方となっており、街道は辺り一面は夕日によって赤く染まっており、暫くすればきっと真っ暗な闇が辺りを包み込むこととなってしまうだろうか。
「うーん...あの人は誰だったんだろうか...」
それにしてもあの老人と思われる怪しい男は一言も喋ることはなく、自身の目の前からヴァンパイアが日光に浴びて灰になるかのように消えてしまったのだが、どうしてあの様な形で消えてしまった理由もわからない。
確か時間切れだと呟いていたため、もしかすると現れるには何かしらの制限があるのかもしれない。
また母であるリーゼや父であるハイドのことを知っている口ぶりだったので、知り合いだとは思うのだが、コウとしては結局のところ何者だったのかについて分からず終いである。
「次も会うみたいなことを言ってたけどなぁ...その時に誰なのか教えてくれるらしいし」
そしてあの老人と思われる怪しい人物はまた会うようなことを言っていたし、次に会った時に誰なのか教えてくれるとのことなのだが、ただそれがいつになるかもさっぱり分からない。
「そういえば誰も追ってこないな。ドールさんがうまくやってくれたのか?」
それにしてもレヴィーエルやアインが追手として来ないということはドールがあの2人を倒した若しくは撤退でもさせたのだろうか?
まぁSランク冒険者であるドールは化け物の様な力を持つ人物なので、魔族2人を倒すか撤退させるくらいは容易かったのかもしれない。
「まぁそれはそれとして...とりあえず街道に出たなら馬車に乗りたいな」
そんなことはさておき...街道に出たのなら馬車の1台ぐらいは通ってくれる筈だと思いたいので、出来ればその馬車に乗り合わせたいところではある。
ただこの3方向に向かって分かれている道で待っていたとしても、どれくらいの頻度で馬車が通るか分からないし、既に時間帯も夕方となっているため、時間を無駄にはしたくはないので、少しでも歩くべきといったところだろうか。
ということで、コウは3方向に分かれる道で自身が持つ魔道具から伸びる光の線が進む道を選び、暫くの間歩き出すことにするのであった...。
■
コウがそんな街道をのんびりと歩き始めた同時刻。
場所は変わって何処かの地にある古城にて玉座の間のような薄暗い場所で、古臭く大きな椅子へ誰かがどっしりと腰を深く掛けながら頬杖をつきつつ、座っていた。
その人物が誰なのかというと、コウが出会った真っ黒な外套を身に纏い、フード深く被って顔が見えないが老人と思われる怪しい男である。
「コウは元気そうで何よりであったな...我の力がもう少し回復すれば...」
そして老人と思われる怪しい男は先程出会ったコウが元気にしていたということに何よりも嬉しそうにしてはいたのだが、自身の力不足さに少しだけ不満げなのか愚痴をポツリと一言だけ溢す。
「まぁ...2人が帰ってくるのを暫くは目でも瞑って待つとしよう...」
またそんな老人と思われる怪しい男はどうやら誰かを待っている様子であり、その誰かが帰ってくるまで、疲れている身体を癒すために背もたれへ背を預けると、小さな寝息を立てつつ静かに眠り始めるのであった...。
いつも見てくださってありがとうございます!
次回の更新予定日は多分12月18日or19日になりますのでよろしくお願いします。




