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56話

 既に夕日は沈み周囲は暗く時々月の光が森の木々から差し込み周囲を照らしている。


「キュイキューイ!」


 上空から鳥の声が響きコウは空を見上げるとそこにはフェニが戻ってきていた。


 どうやら周囲の探索が終わってコウに報告をしに戻ってきたようだ。


「おかえりフェニ。オークの集落は見つかったか?」


 コウは肩にフェニをとめるとフェニへ探索の結果を聞くとフェニは見つけたと言わんばかりに鳴く。


「よし!でかしたぞフェニ案内してくれ!」


 フェニへとオークの集落まで案内を頼むコウの肩から飛び立ちこっちだと言わんばかりに前を先行する。


 コウもフェニへ付いて行くのだが、周囲は夜で暗いため足元や走る先に障害物があるかもしれないので慎重に走ると少し走る速度が遅れフェニと距離を離されてしまうがすぐにフェニはコウの走る速さに合わせて飛行しにくる。


「すまんなフェニ。助かる」


「キュイ!」


 気にするなと言ったような感じでコウより少し前を飛ぶ。


 暫くフェニに付いて走ると崖になった場所にコウは辿り着き下を覗くとそこには火の光がちらほら見え集落のように出来た村があった。


 よく見るとオークが大量にいるが現状外には囚われている人間の女性のような人達は居ない。


「なるほどな...これは流石にきついな。中央で肉を食ってるのが上位種だろうか?」


 村の中央では普通のオークより大きいオークがどしりと構え座っており、食事をしているのが見えた。


 側には大きな藁でできた家みたいなものがあり、そこから小さいオークが出でくる。


「あの藁で出来た家から子供?が出てきたな...最悪の場合もあるかもしれないが...」


 そうコウが想像したのは藁で出来た家の中に人間の女性が囚われている可能性というのだ。


 コウは崖から降りて集落の柵の外にある草むらの影まで移動し様子見するため魔力を周囲へ流すと薄い霧を出し藁の家まで届かせ家の中の状況を探知するが人が居るような感じはしないがオークが1体寝ているのが感じ取れた。


(とりあえずは囚われている人はいないようだ...最悪の場合は無くてよかった...さてどうするかな)


 流石にコウとフェニの1人と1匹ではこの数のオークを処理するには無謀という言葉が似合ってしまう。


 コウがどうするか考えていると遠くから女性が泣き叫ぶ声が聞こえてくるので様子を見に行くとそこにはオークに担がれた2人の村人の格好をした女性が今にも集落の中へと連れ込まれようとしていた。


 このままオークの集落へ連れ込まれてしまうと碌な事にはならないことが容易に想像できてしまう。


「ちっ!考えたり討伐隊を待ってる場合じゃなさそうだ!」


 コウはすぐに草むらの影から飛び出すと十字架のブレスレットへと魔力を流しサンクチュアリを構え女性を担いでいるオークの後ろに接近し首を跳ね飛ばすと2人の女声がオークから開放され地面へドサッと音を立て落ちる。


「えっ...?」


 2人の女性は何が起きたのか分からず放心状態の様だ。


 そして目の前の集落からオークがやられたのを別のオーク達が見ていたようで憤怒し、此方に大量のオークが押し寄せてくる。


「よし、とりあえずセーフ。オーク達にバレてしまってはしょうが無いな...氷牢結界!」


 コウが魔法を水球を上空に打ち上げると水球は弾けて女性2人を囲むように氷のドームがパキパキと作られていく。


「そこの中で大人しくしていてくれ!」


 2人の女性は氷のドームから出れるわけでもないし、出られたとしても逃げ切れる訳もないのでコウの言うことを聞くしか無い女性2人は震えながらも頷く。


「さてフェニ俺らしかいないが気合い入れろ!」


「キュイ!」


 1人と1匹は目の前の走ってくるオーク達を見て気合を入れコウはサンクチュアリを構える。


「まずは小手調べだ!水球!」


 目の前に水球を5つほど生成し前へ飛ばすと何体かのオークに当たるが猪突猛進で止まらず見た目は豚だが、まるで猪だ。


 オークに当たった水球は破裂し、走ってくるオーク達はどんどん水で濡れていく。


「フェニ!雷魔法だ!」


 フェニもコウの考えを理解していたようで雷魔法を使い水で濡れたオーク達に向かって放つとオーク達は連鎖的に痺れて転んでいく。


 痺れ転んでいくオークにコウは近づきサンクチュアリを振り切っていくが追加のオーク達が更に此方へと走ってくる。


「多すぎだろ!氷槍!」


 コウは走りながら氷槍を3本生成し走ってくるオーク達へと飛ばすとそのまま氷槍に何体も貫かれていく。


 しかしそれでも数は減らずコウとフェニはいつの間にかオーク達に囲まれてしまった。


 ジリジリと寄ってくるオーク達に流石のコウとフェニも対応できないため防御のために上空に水球を打ち上げ弾けると氷のドームで自身を囲っていく。


(どうする...?これ以上は厳しいだろうな...)


 氷のドームをガンガンとオーク達は木で出来た木で出来た棍棒で叩き氷のドームを壊そうとしてくる。


 勿論、女性達を囲っている氷のドームも叩かれており、氷のドームが破壊されるのも時間の問題だろうか。


 普通の人間やゴブリン程度なら叩いてもビクともしないようなものなのだが、流石にオークのような力のある魔物に叩かれてしまえば徐々に氷のドームは壊れてしまうだろう。


 絶体絶命...まさにこの言葉が似合ってしまうような状況だ。


 そして氷のドームに少しづつヒビが入っていく。


(しょうが無い..."切り札"を使うしか無いのか...?制御できるかわからないが...)


 コウには1つだけ切り札があり、それを使おうと思い覚悟を決めた瞬間に周囲を囲んでいたオーク達の後ろが大きく爆発し火の粉が夜の空へ散っていく。


「は...?何が起きた...?」


 コウは何が起きたのか分からずオーク達の後ろを見るとそこには大勢の冒険者達がオーク達に斬りかかり魔法を使って蹴散していた。


「よぉしギルドの嬢ちゃんが言ってた坊主は大丈夫そうだな!お前らオーク共を殲滅するぞ!」


 1人のライオンのような髪型をした筋骨隆々の男が先頭に立ち声を上げると後ろに控えていた多くの冒険者達が声を上げる。


 こうして討伐隊が到着したお陰で形勢が逆転しオーク達はコウの作り出した氷のドームへの攻撃を止め討伐隊の冒険者へと襲いかかりにいくのであった...。

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