482話
「じゃあ話を聞こうかな」
書類を処理する手を止めたニコルは今座っている椅子に深く座り直し、話を聞く体制に入ったということで、コウも同じ様に家具として置いてあった高級そうな柔らかい革椅子に座ると、1つ1つ丁寧にそして細かく、事の経緯を話し出すことにした。
そんな孤児院のことを話し始めると、最初はニコニコとしていたニコルの表情は次第に曇ったような表情へと徐々に変化していき、コウの話を最後に聞き終える頃には眉間に深く皺を作り出していた。
ちなみに話した内容は孤児院で起こった出来事について、そして以前協力して捕まえた貴族であるデモンが多分ではあるが関わっていたこと、その孤児院が毎月の集金に苦しんでいることなどである。
「ふー...なるほどね。それでコウ君は出来ればその孤児院を助けたい訳だ」
「関わった以上見て見ぬふりをするのは後味が悪いからな。で...何とかしてくれるのか?」
「話を聞いた以上見捨てる訳にもいかないし引き受けるよ」
そしてある程度の話を聞いたニコルはどうやら察しがいいようで、コウの考えを汲み取ってくれた。
そのため、再確認としてこの件を引き受けてもらえるかどうかを聞いてみると、領主として話を聞いた以上、対応しない訳にもいかないということで、快く引き受けてくれるとのこと。
これでとりあえずはコウの役目も終わりであり、後の話については孤児院のマザーである老婆とホリィに任せるべきだろう。
「じゃあ善は急げと言うし今から孤児院を見に行こうかな?馬車を用意するから一緒に来てもらってもいいかい?」
「あぁ問題ないぞ」
どうやら現状を把握するためにニコルは孤児院の視察に今から向かいたいということであり、領主としては素晴らしいフットワークの軽さである。
まぁ確かに話だけ聞くよりも現状の孤児院の状態などを見てもらったほうが良いだろうか。
そしてニコルは机の上に置いてあった銀のベルを何回か振りつつ、壁に掛かっていた暖かそうな外套を羽織ると、すぐに部屋の扉が開き、そこには執事であるジェリエルが背筋をしっかりと伸ばした状態で立っていた。
「お呼びでしょうか?」
「今から孤児院を視察するから馬車を1台用意してくれ」
「畏まりました」
そんなジェリエルに対してニコルは馬車を用意するようにと、一言だけ伝えると、綺麗な角度でお辞儀をしながら二つ返事で答え、主人の馬車をすぐに用意するため、その場で踵を返すと、急ぎ足で去って行ってしまう。
「じゃあ行こうか」
そしてニコルも準備ができたということで、一緒に屋敷の外へ出ると、驚くことに玄関前へ綺麗な装飾が施された貴族向けの馬車が既に1台止められており、御者としてジェリエルが御者席に乗って待っているではないか。
何という仕事の速さだろうか。もしかすると部屋の側で聞き耳を立てていて、ニコルの行動を予測して既に準備していたのではないかとすら思ってしまう。
まぁ仕事が速いことは悪いことではないので、そのまま馬車へと乗り込むと、御者席にいるジェリエルから何処の孤児院だと聞かれるので、大体の位置とティラン孤児院という場所をコウは伝えると、ゆっくり馬車は動き出す。
ただスラム街付近ということもあり、優秀な執事であるジェリエルとはいえ、伝えたところで詳しい位置まではわからないということだったため、移動しながらではあるが、コウがナビゲーターとして孤児院の場所まで案内をすることとなった。
「到着しました」
そのままコウの案内通り、街中を馬車で進んでいき、問題の孤児院へ到着した旨をジェリエルから伝えられたため、馬車から降りていく。
馬車から降りて目の前に現れたのは先程も見た老朽化してしまっている屋敷や広い庭を駆け回る子供達の姿であり、現実を知ったことによって、ため息を1つ吐くと、申し訳無さそうな表情をニコルは浮かべる。
「ふぅ...じゃあここを管理している人の部屋まで案内をお願いしてもいいかい?」
「あぁ分かった」
そしてニコルは両手でパチンと頬を軽く叩き、気を引き締めると、案内を頼まれるので、コウは孤児院の中へと入っていき、マザーである老婆やホリィなどが待っている部屋まで案内するのであった...。
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