478話
「さぁお待たせしましたぁ。暖かい飲み物ですよぉ」
孤児院の中へ入れてもらえたコウ達は暖かい部屋の中で雑談しながら待っていると、先程の老婆がお茶を淹れてくれたようで、白い湯気がふわりと立ち昇るティーカップをお盆に乗せて持ってきてくれた。
ちなみにこの老婆の正体は孤児院のマザーであるらしく、部屋に案内されるまでに子供達がマザーと声を掛けてきて懐いていたので、そこは信頼しても良い人物だろう。
「俺の分まで用意してくれて悪いな」
「ありがとうございます」
そして老婆にお礼を言いつつ、目の前に出されたお茶を手に持ち、口元へ近づけると嫌な香りではないが独特であり、きっと独自でブレンドしたようなお茶なのだと思われる。
何に似ているかと言われると、ほうじ茶に似たようなもので、とりあえず一口だけ飲んでみると、口当たりはよく、飲みやすいものとなっていた。
「そういえばロバーツの息子...ホリィはいつくらいからこの孤児院に住んでるんだ?」
「そうですねぇ...ホリィ君が来たのは1ヶ月前でしたかねぇ」
目的の人物であるホリィが戻ってくるまで、まだまだ時間はあるということで、コウは老婆に対していつ頃からこの場所に住んでいるのか聞いてみると、どうやら約1ヶ月ぐらい前に住み込みで働けないかと訪ねに来たようだ。
その際は男手も足りなかったということもあって、お試しとして雇ったのだが、数日もすれば子供達と仲良くなっていたとのこと。
そのため、今では貴重な男手ということもあり、逆に今となっては老婆からお願いして住み込みで働いてもらっているらしい。
「なるほどな」
「それにしてもお父様がいたのですねぇ...ホリィ君に聞いても教えてくれなかったものですからぁ」
ただホリィは最近になって頭を悩ませている様子が見られたようで、老婆は最初に声を掛けたが、はぐらかされてしまったみたいである。
そんな話を老婆としていると、外の老朽化してしまっている廊下がギシギシと軋む音が聞こえてくるので、なんだろうと思い、部屋の扉に視線を移すと、その足音は部屋の前に止まった。
そして部屋の扉はゆっくりと開き、そこに立っていたのはコウが午前中にサーラからお願いされたクッキーを買い出しに行った際、顔を合わせた屋台の青年であった。
「どうしてこんなところに父さんが...?」
そんなホリィはロバーツの顔を見るや否や動揺しているのか目を大きく見開き、両手に抱えていた食材や日用品などを床に落としてしまう。
まぁそれもそうだろう。喧嘩中で毛嫌いをしている父親が何故か住み込みで働いている場所に訪れたのだから。
ただホリィすぐに動揺を収めたようで、軽く息を吐いて深呼吸をすると、ロバーツのことを睨みながら口を開きかけるも、孤児院の外から何かが割れる音と男の怒号が聞こえてきた。
「何の音だ?」
「っ...!」
そんな音が聞こえてくると、老婆は不安そうな表情をし、ホリィは苦虫を噛み潰したかのような表情をしながら、床に落とした食材や日用品などをそのまま放置しつつ、部屋から出て行ってしまった。
まぁここはスラム街に近い場所ということもあり、治安があまり良くないため、明らかに何かしらのトラブルが起こったのだろう。
「なんだかあまり良くない雰囲気だな」
「そうみたいですね。私達も向かいましょう」
そのため、コウ達も外で何が起きているのか確認するため、部屋から出て行ってしまったホリィを追いかけることにするのであった...。
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