471話
「コウさんお待たせしましたーどうぞー」
暫くの間、コウは冒険者ギルド内にある酒場で待っていると、受付の方向からサーラが淹れたての紅茶が入ったティーカップ2つと、樹の実が練り込まれた幾つかのクッキーをお盆の上にまとめて乗せながら、落とさないよう慎重に運んでくる。
そしてサーラはお茶やお菓子などを零すこと無く、無事にコウの元へ到着すると、手に持っていたお盆を机の上に置き、淹れたての良い香りのする紅茶が入ったティーカップを目の前にそっと出される。
「ん...ありがとう」
そのため、お礼を言いつつ、手に取って一口飲もうとするも、紅茶は淹れたてのためか、とても熱く、唇に触れると火傷してしまいそうなので、マナーとしては悪いだろうが、ずずっと音を立て、冷ましながらゆっくりと口に含む。
すると最初は茶葉の良い香りが鼻を通り抜けるが、ディルから貰った美味しいお茶を作り出せるティーセットと比べてしまうと、舌の上に若干の渋みを感じてしまう。
とはいえ、わざわざ淹れてくれた本人の前で渋みがあるとは言えるわけもないし、とりあえずその渋みを誤魔化すためにコウは一緒に用意されたクッキーを1つだけつまむことにした。
「あっ!コウさんクッキーを食べましたね?今食べましたよね?」
「あぁ...?食べたけど駄目だったのか?」
「ふっふっふ...食べて良いとは言ってないですよ!これは私のお願いを聞いてもらわないとですね!」
するとサーラはコウがクッキーを口の中に放り込んだのを確認すると、目をキラリと光らせながら、食べたことを指摘してきたため、もしかしたらこのクッキーは食べてはいけなかったのだろうかと思ったがそうではないらしい。
話の意図をコウなりに汲み取ると、どうやらサーラは何かしら頼みたいということで、何とも言えない罠を仕掛けていたようである。
別に頼み事があるのであれば、そんなことをしなくても話ぐらいは聞いてあげるのにとコウは思いつつ、とりあえずサーラに話を聞いてみることにした。
「で...お願いってなんなんだ?」
「おっ!話が早いですね!実はここ最近ローランではとあるクッキーが流行ってましてそれを買ってきて欲しいんです」
「クッキー?どんなやつなんだ?」
「魔法のクッキーって呼ばれてるものですね」
話を聞いてみると、お願いというのはどうやらコウにお遣いを行って欲しいようで、その買ってきて欲しいものとはクッキーであった。
しかしそれはただのクッキーでは無いようで、食べると美容効果があり、またそれ以外にも病気に効いたり、はたまた呪いなどにも効いたりするという噂もあるためか、魔法のクッキーと呼ばれているとのこと。
また味も良く、長持ちもするためか商人達がこぞって目をつけ始めているようで、噂が噂を呼び、今となっては並ばないと買えないものとなっているようだ。
それだけ聞いてみると、何かしら怪しい物がクッキーの中に混じっているのではないか?と思ってしまうが、領主であるニコルが詳しく調査したところ怪しい物は入っておらず、特には問題は無かったみたいである。
まぁそうでもなければローランで売ることは出来ないので、まともなクッキーなのかもしれないが、果たしてそんな完全食が存在するのだろうか?と思ってしまう。
ちなみにそのクッキーを売っている場所はローランにある観光場所である噴水広場のようで、時間的にもう少ししたら売り始めるということもあって、そろそろ向かい、人が集まる前には並んで方が良いらしい。
「まぁそれぐらいならまぁ良いけどさぁ...じゃあ買ってくる」
「ありがとうございます!これはお遣いの代金なのでお願いします!」
ということで、お願いされた魔法のクッキーとやらを買いに行くためにコウは少しだけティーカップに残ったお茶を一気に飲み干して席から立ち上がると、サーラからお遣いの代金を受け取り、そのまま冒険者ギルドから出てローランにある噴水広場へと向かうことにするのであった...。
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