467話
ジャイアントホーン。それが今コウ達が乗っている馬車を後方から追いかけて来ている魔物の名前であり、ランクとしてはBランクに近しいCランクの魔物だ。
ではまずジャイアントホーンという魔物は何に似ているのか簡単に説明すると、北米や北ヨーロッパなどに生息しているヘラジカが見た目としては1番近しいだろうか。
ただそんな普通のヘラジカと違う部分が何点かあり、まず1つ目として頭から生やしている巨大な角である。
幾つもの枝分かれした角の先端部分は鉄の鎧を簡単に貫けるほど鋭利に尖っており、刺した獲物を逃さないためなのか、釣り針の返しもついた凶悪なものとなっている。
続いて2つ目の部分は体表である。体表は毛皮のようなもので覆われているのではなく、どちらかといえば氷の鎧のようなものを身に纏っているため、生半可な攻撃では無効化されてしまいそうな見た目となっていた、
ちなみに今現在のコウ達は知らない情報なのだが、ジャイアントホーンの身質は非常に柔らかく、脂が乗ったかなり美味しいものとなっており、角や体表の氷の鎧についても使い道が多数あるため、冬場には様々な場所から討伐の依頼を出されたりする。
そんな魔物をどう対処するのかコウ達は馬車の窓から顔を出し、馬車の上に乗っているロバーツの様子を窺うも、特に何か武器を持っているわけでもなく、神父服をバタバタと靡かせているだけであった。
「本当に大丈夫なんでしょうか〜?」
「キュ〜」
「うーん...流石に不安になってくるな」
そんなロバーツを見たコウ達は少し不安になりつつ、自身達の武器を用意して見守っていると、馬車を引いている馬の持久力が切れてきたのか、徐々に速度が落ちていき、その隙を見逃さなかったジャイアントホーンは更に加速し、馬車との距離を縮めてくる。
このままではぶつかってしまう...!とコウ達は思ったのだが、馬車の上に乗っているロバーツの方向からパンッ!という何かを軽く何かを叩く音が風切り音や馬車の車輪が回る音よりも何故か鮮明に聞こえた。
そしてその何かを叩く音が鳴った後、すぐにロバーツを中心として何やら球形の光が乗っている馬車の全体を守るかのように包み込み始めるではないか。
ただ特にその光に触れてもコウ達の身体に何か特別なことが起きる訳でもない。
「キュ?」
「何だこれ?ライラは何か知っているか?」
「聖騎士が使う結界と同じものだと思いますが何か違いますね〜」
そのため、同じ聖職者であるライラにロバーツが作り上げた球形の光は何なのかについて尋ねてみるも、どうやら聖騎士達が使う結界に似ているだけで、何かしらの違いを感じるらしい。
また聖騎士が作り出す普通の結界であれば死霊系の魔物に対して有効なだけであり、ジャイアントホーンなどの普通の魔物には特に意味をなすことはないのだが、意味がなければこんな場面で使うこともないだろうか。
きっとロバーツが自己の研鑽によって新たに作り出した何かしら意味のある結界だろうとコウ達は考え、とりあえず後方から迫り来るジャイアントホーンの様子を窺うことにした。
そしてジャイアントホーンが馬車のほぼ真後ろに迫り、自慢の鋭利な角をこちら向け、ロバーツが作り出した結界を破壊しようと下から大きく掬い上げようとしてきたため、コウ達は衝撃に備えるように馬車へとしがみつく。
「キュ?」
「ん〜?大きな音は聞こえましたけど衝撃が来ませんね〜もしかして結界のお陰でしょうか〜?」
「ちょっと様子を見るか...ってあれ?何で魔物があんなところに?」
しかし暫く馬車にしがみついて衝撃に備えていても、何かが衝突する大きな音は一度だけ聞こえただけで、一向に馬車へ衝撃が伝わってこなかったため、コウ達はどうなっているのか確認するため、窓から顔を出し、再び後方を確認することにした。
すると何故か馬車からだいぶ離れた位置にジャイアントホーンはひっくり返しながら地面に転がっており、動く気配はないのかそのまま馬車からどんどん突き放されていくではないか。
そして馬車の屋根に乗っていたロバーツはコウ達が覗いている反対側の窓から一仕事を終えたかのような表情で戻ってきたので、どういった方法であの襲いかかってきたジャイアントホーンを迎撃したのかについて聞いてみることにした。
「一体何をしたんだ?」
「私が作り出す結界は強い衝撃が加わると更に強くして返すものでして」
「なるほど...反射する結界ってやつなんだな」
どうやらロバーツの作り出す自己流で作り出した結界は相手の攻撃を何倍にして相手に返すといったもののようで、受け止められる力の限度はあるらしいが、ある程度のものは返せるとのこと。
まぁそんな技を持ち合わせているのであれば、そこらの魔物や盗賊に襲われたところで特に問題ないのはなんとなくコウは理解することが出来た。
とりあえず追いかけてきていたジャイアントホーンは何とかロバーツのお陰で追い払うことが出来たということで、コウは小窓を開けて御者にそのことを伝えていく。
そして全速力で走らされていた馬は身体から出た汗が蒸気となり、空へ立ち昇らせながら、ゆっくりと馬車と共に減速していくのであった...。
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