442話
「あっ...おかえりなさいです~意外と帰ってくるのが早かったですね~」
「ただいま。出迎えてくれるのは嬉しいんだけどなんだかなぁ...」
小鳥の止まり木というコウがいつも利用している宿へ到着し、自室の扉をガチャリと開けると、そこにはライラがベッドの上で寝転がりながら待っていた。
出迎えてくれるのは嬉しいには嬉しいのだが、ここはコウの借りている部屋である。
まぁフェニと遊んでくれていたのかもしれないので、どうこう言うつもりはないのだが、別にフェニと遊ぶのであれば、ライラが借りている部屋でも良いのではないかと思ってしまう。
「あれ?フェニは?」
「さっきぐらいに窓から外へ出ていきましたよ~」
「あー...最近は缶詰生活だったからな。まっいいか」
そして部屋の中に入ると、ライラが1人だけベッドの上にいるだけであり、一緒に遊んでいたと思われるフェニの姿はなかった。
どうしていないのかライラに聞いてみると、どうやらフェニはライラと共にひとしきり遊んだ後、飽きが来てしまったのか部屋の窓から外に飛んでいってしまったらしい。
ここ最近はずっと部屋の中でコウやディルの従魔であるルーと共に宿の部屋の中で缶詰生活だったため、流石に飽きが来たということで、外に出て行ってしまったのかもしれない。
まぁあの2人組もディルと一緒に王都へ連れて行かれてしまい、フェニが捕まる心配はないと思われるため、外へ遊びに行くぐらいならそろそろ許可しても良いだろうか。
「そういえば話してなかったけどまた王都に行くかも」
「イザベルさんにでも会いに行くんですか~?」
コウはディルから王都にある屋敷に招待してくれると言われたことについてライラに話していなかったことを思い出し、いずれ王都に行くと簡易的に説明すると、どうやら白薔薇騎士団の団長であり、友人でもあるイザベルに会いに行くと解釈してしまったようだ。
「いやこの間の件でディルがお礼をしたいらしくて招待状を送ってくれるみたいだ」
「あぁ~なるほどですね~」
そのため、コウはライラの勘違いを正すべく、ディルからの招待状が送られてくることを補足で説明すると、すぐに自身の勘違いだっだということを理解してくれた。
まぁ王都に行くのであれば、ついでとしてイザベルに会いに行くということも考えてはいるので間違いではない。
「じゃあ少し買い物でも行きませんか~?」
「買い物?何で?」
「ほら~招待されるなら手土産の1つや2つぐらい持っていかないとですよ~」
「確かにそれは一理あるな」
知り合いとはいえ、ディルとはまだ知り合って期間も短い。
またディルは伯爵家の長男であり、屋敷に招待されるのであれば、ライラの言う通り、手土産の1つや2つ持っていったほうが何も持たずに訪れるよりかは遥かに印象は良いと思われる。
ということで、コウ達はディルの屋敷へ訪れた際に渡せるような手土産を買いに行くため、ライラと再び宿の外に出ると、多くの人で溢れかえっているローランの街中をのんびりと歩き出すことにした。
「それにしても手土産って何買えばいいんだろうな」
「う〜ん...ローランの名産品でもいいんじゃないんでしょうか〜?」
「名産品か...悪くないかもな。で...ローランの名産品って何なんだ?」
「さぁ~?私はここ最近来たばかりなので知らないですよ~?」
そしてローランの街中をのんびりと歩いている途中、コウは手土産として何を買えばいいのだろうかという疑問がふと出てくるのでライラに聞いてみることにした。
すると一つの意見としてローランの名産品を手土産として買って持っていけば良いのでは?と言われ、確かに名案だと思ったのだが、残念ながらお互いにローランの名産品は何なのか知らなかったりする。
そのため、コウとライラはディルの屋敷に持っていくための手土産は何にしようかと、うんうん頭を悩ませていると、目の前の屋台でデフォルメされたひよこのような形をしたクッキーが売られていることに気づいた。
「コウさん~これ可愛くないですか~?」
「俺も思った。鳥の魔物が好きって言ってたしこれでいいかもな」
とりあえずコウとライラの意見は一致したということで、ディルの屋敷に招待された際に持っていく手土産はこのひよこの形をしたクッキーにすることにし、屋台の人へ幾つか見繕うようにお願いしていく。
また食べ物だとしても収納の指輪の中に入れてしまえば、腐る心配はないので何一つ問題はないだろう。
そして屋台の人からひよこの形をしたクッキーが入った袋を貰い、お金を支払い終えると、コウのお腹辺りから夕食の時間であると合図が鳴り始めた。
「腹が減ったな。そろそろ夕食の時間だし帰ろうか」
「そうですね~今日は何の料理が出てくるか楽しみです~」
昼下がりに外へ出て、ローランの街中をゆっくりと歩いたためか、時間はかなり経過しており、既に夕日は西の大地に半分ほど沈み込み、空は茜色に染まっていた。
そのため、そろそろ宿では夕食が作られているだろうということで、コウ達は宿に向かって急ぎ足で多くの人混みの中をスルスルと通り抜けながら今日の夕食は何だろうと思いつつ、戻っていく。
そして宿へと無事に帰り、ライラと一緒に美味しい宿の夕食を食べ終えたコウは1日の疲れを癒やし、ゆっくりするために自室へ戻るも、まだフェニは帰ってきていなかった。
もしかしたら何処かでまだ寄り道をしているのではないのだろうかと思い、コウは自室の窓を開けたままにして、冬が近づく夜のひんやりとした空気を部屋の中に入れつつ、フェニの帰りを待つもその日のうちに帰ってくることはなく、いつの間にか朝が訪れるのであった...。
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