403話
「儂の買う予定の娘はまだおるよなぁ〜?」
「えぇまだ売れていませんとも!ただ...他にも買いたいと申す者がおりまして...」
奴隷の売人はこちらに向かってちらりと視線を向けると、でっぷりと太った醜い男も釣られて同じようにこちらへと視線を向けてくる。
そして最初こそはコウに視線が向けられていたものの、何故か途中から隣のライラに向けて熱い視線が向けられていた。
そんな熱い視線を向けられたライラは不愉快な気持ちになったのかコウの後ろにサッと身を隠していく。
「ふぅむ...そこのお前ぇ〜。儂が買おうと思ってた娘が欲しいのかぁ〜?」
「まぁそうだな。出来れば欲しいかも」
「譲っても良いぞぉ〜ただし1つ賭けでもしようじゃないかぁ〜」
どうやらティルシーのことを譲っても良いらしいのだが、タダと言う訳にはいかないようで、1つ賭けを提案される。
「賭け...?お金なんて少ししか持ってないぞ」
とはいったもののコウは賭けれるようなお金などは手持ちに無いこともないのだが、あまり賭けたくはなかったりする。
ただこれはティルシーを無理矢理にではなく、救い出すチャンスなのかもしれない。
「儂は500枚の金貨と娘の購入権を賭けるぞぉ〜その代わりお前は後ろに隠れてるシスターを賭けろぉ〜」
どうやら目の前のでっぷりと太った醜い男はライラが欲しいようで、賭けの対象として指定してきた。
なるほど...先程の熱い視線の理由はなんとなく分かったような気がする。
とはいえ内容も聞いていないのに賭けることはできないし、何よりライラの意思を聞かないといけない。
まぁコウからしてみれば、あまり賭けの対象としてライラは参加して欲しくはないのだが...。
「私は問題無いですよ〜コウさんのことを信頼してますから〜」
「いや即決するなよ...とりあえず内容は?」
「むふぅ〜勿論儂の護衛と戦ってもらうぞぉ〜」
内容は至ってシンプルなもので、後ろにいる銀色のフルプレートアーマーを身に纏う護衛と戦い、勝利した方が賭けたものを得られるといったものである。
ふむ...確か護衛といえば此方にも案内人としてこき使っていたバリィとダニィがいるのだが、振り返って顔をみると、2人は勝てる訳ないと言うかのように首を横にブンブンと強く振っていた。
まぁただの試合で金貨500枚を貰い、ティルシーを買って無事にニコルの下へ連れ帰ることが出来るのであれば、願ったり叶ったりだろうか。
「俺達は問題無い」
「むっふぅ〜!交渉成立だぞぉ〜!」
交渉が成立するとともに早速、でっぷりと太った醜い男の後ろに控えていた銀色のフルプレートアーマーの護衛が前に出て来るので、コウも同じように一歩前に足を踏み出す。
するとでっぷりと太った醜い男はまさかコウ本人が前に出てくると思ってもいなかったため、驚きの表情を浮かべるが、勝ちを確信したのかすぐにニヤリと口を歪ませていた。
きっと護衛にも自信があるのだろう。
そして周りには既に野次馬と思われる路地裏の住人達が何処からかワラワラと現れており、中にはそこで更に賭けをしていたりする。
「俺は冒険者のコウ。あんたは?」
「奴隷のディーヴァだ」
どうやら目の前に対峙する銀のフルプレートアーマーを身に纏う護衛は奴隷のようで、掠れた声で返答が返ってきた。
そんなディーヴァと呼ばれる男は挨拶をし終えると、すぐに背中に背負っていた人丈程の大剣を構えるので、コウも同じように収納の指輪から愛用であるサンクチュアリを取り出して構える。
ディーヴァという男は何処からともなく取り出したサンクチュアリに動揺することはなく、銀の兜の隙間から覗かせる目は真っ直ぐとコウを見据えていた。
(まずは小手調べだな...魔法も禁止されてないし水球だ)
とりあえず相手の動きを見てみないことには何も始まらないという事なので、コウは水球を幾つか作り出すと、ディーヴァに向かって一気に放っていく。
そんの真っ直ぐと飛んでいく水球を避ける気はないのか、そのまま大剣を構えていた。
しかし水球とはいえ、命中すれば木を抉るほど威力があるもののため、直撃してしまえば無事では済まないだろう。
(舐めてるのか...?)
そんなことを思いながら、どう対応するのか様子を窺っていると、ディーヴァの姿がまるで幻のようにその場から消えた。
そして次の瞬間、コウの隣から風を切る轟音と共に人丈程の大きさをした大剣が振り下ろされるのであった...。
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