400話
「ニコルから聞いた裏路地の入り口はここだな」
「薄暗い場所ですね〜」
ローランの路地裏。貧困層や後ろめたい者など様々な爪弾き者達が集まるような場所であり、そんな路地裏が最終的に繋がっているのはどんな街にもあるスラム街となっている。
そしてコウ達はというと、貴族街から1番近い路地裏に入っていける横道へ到着しており、中を見ると薄暗く、道が二手に分かれているのが見えていた。
「よし...暗くなる前には見つけ出したいし別れて探すぞ」
「わかりました〜!」
なるべく夜の帳が下りる前には家出してしまったティルシーを見つけ出さないと、探し出すのは困難になるということで、ここは二手に別れて捜索することにした。
ちなみにローランの街中はニコルの私兵達や従者、そして上空からはフェニが手分けして捜索しているので、裏路地やスラム街にティルシーがいなかったところで問題はない。
そしてコウ達は各々、二手に分かれて薄暗い道を進んでいくが、あまり良くない光景が視界に入ってくる。
それは空腹で道に倒れている者や虚な目で虚空を見つめている者達である。
とはいえ、コウからしてみれば当たり前ではない光景であれど、ここはスラム街に通じている路地裏であり、ここではこれが当たり前の光景なのだ。
また建物の割れた小窓からは新しい獲物が来たと言わんばかりのねっとりした不快な視線が飛んできたりするが、何故か襲ってくる気配はない。
(ライラも同じ目にあってそうだな)
そんな不快な視線を無視しつつ、ティルシーを探しながら薄暗い道を歩いていると、少しひらけた場所に到着したのだが、誰かがこちらに向かって近づいてきた。
近づいてきたのは1人の男性であり、身なりは貧相で、痩せかけた頬そして顎に無精髭生やし、薄汚れた赤いバンダナをしてぼさぼさの髪を適当に纏めている。
そして片手には武器としてなのか、手入れが行き届いていない錆びたナイフを持っていた。
「おうおう...誰の許可を得てここに入ってきたんだ...?俺様が誰か知らんのか?」
「いや知らないが」
「何ぃ!俺様を知らないだと!?ここら辺を縄張りとしてる狂犬兄弟のバリィと言えば分かるだろ!?」
「聞いたこともないな」
目の前に現れた男はきっと裏路地やスラム街では有名な男なのだろうが、この場所にはあまり来ないし、噂話なども聞かないため、コウからしてみればただ絡んできた男にしか見えない。
「嘘だろ...俺様の名を知らないなんて...」
そしてそんなバリィという男はまさかのコウの反応に地面へ両手をつきながら項垂れて傷ついていた。
しかし、ここら一帯を縄張りとしているならば、ティルシーについて何かしらの情報を持っているかもしれないし、また路地裏を案内してもらえば、すんなりと見つけ出すことが出来るのではないだろうか?ということを思いつく。
「あー傷ついてるとこ悪いけど貴族の格好をした女の子を見なかったか?」
「お前が俺様を傷つけたんじゃねぇか!知ってるけど話さねぇよ!」
そんな傷ついてるバリィに対して質問すると、ティルシーについては知っているようなのだが、話す気は無いようで、立ち上がると逆ギレしながら、片手に持つナイフを振り下ろしてきた。
しかしコウは紙一重で振り下ろしてきたナイフをひらりと躱し、カウンターとして顔面に固く握った拳を合わせていく。
「ふごっ!」
するとコウの拳はバリィの顔面の中心部。つまりは鼻辺りに向かって見事に吸い込まれていき、拳が沈み込んでいくと同時に豚の鳴き声が聞こえた。
そしてモロにコウの拳を喰らってしまったバリィは鼻から血を出しながら反動で後ろに吹き飛ぶと、地面に大きく尻餅をついてしまう。
「よいしょっと..,」
「ちょっ...!まっ...!」
そんなコウはチャンスとばかりに胴体へ飛び乗ってマウントを取ると、バリィの顔面に目掛けて追撃として連続で拳を振り下ろしていく。
「ごべん!やめで!」
暫く顔面を殴打していると、痛みの限界がきたのかバリィは両手で顔を隠し、観念したのかやめて欲しいと懇願してきたので、コウは手を止めると、マウントをやめ、汚れた手を水魔法で綺麗に洗い流していく。
「さぁ早速ティルシーの場所へ案内してもらうぞ」
「ふぁい...」
そして手の汚れを洗い流し終わったコウは、ぼこぼこにしたばかりのバリィに向かって早くティルシーの場所まで案内しろと命令すると、呂律の回っていない情けない返事が返ってくるのであった...。
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