399話
ニコルに色々とコウ達が今まで体験したことや見たことについて話をしていると、いつの間にか時は経っており、窓から見える空は茜色に染まっているので、そろそろお開きの頃合いとなっていた。
「いやー色々と面白い話が聞けて楽しい時間だったよ」
「まぁ楽しんでくれたなら良いけどさ」
ひたすらコウは今まで見たこと体験したことについて物語のようにニコルへ話しており、喋り疲れて乾いた喉を潤すため、ティーカップに淹れてあった残り少ないお茶を一気に飲み干す。
そして小腹も空いていたので、用意されていた果実の盛り合わせに手を伸ばそうとするも、残念なことに皿の上には何一つ残されてはいなかった。
机の上に用意された果実を食べ尽くした犯人はフェニであり、満足しているのか、ライラの膝の上ですやすやと寝息を立てている。
「お腹が空いたならうちで食べていくかい?うちの料理人が作る料理は絶品だよ」
「そこまでしてもらう訳には...」
そんなことを話し合っていると、部屋の扉が大きな音とともに開くので、何事かと思ったコウ達は振り返ると、そこには初老の執事であるジェリエルが息を切らせながら焦っていた。
何故、こんなにも焦っているのかについては分からないが、よっぽどのことが起こってしまったのだろう。
「大変です!旦那様!」
「何があったんだい?」
「ティルシーお嬢様がお部屋にいらしゃいません!」
ジェリエルが焦っていた理由とは、模擬戦で負けたことによって部屋の中に引き籠もっていた筈のティルシーがいつの間にかいなくなっていたらしい。
「屋敷の敷地内は隈なく探したのかい?」
「残念ながら...窓から外に出られたようでございます」
そんな報告を耳に入れたニコルは屋敷内にはいなかったのかと冷静に聞き返すも、ジェリエルは既に屋敷の敷地内をしっかりと探していたのか、目を伏せながら首を横に振っていた。
「はぁ...まさか家出をするとは思わなかったなぁ...」
そしてニコルはまさか自身の娘が家出をすると思っていなかったのか、額に手の甲を置き、ため息を付きながらぽつりと呟く。
どうして家出をしてしまったのかについはコウに模擬戦で負けてしまったからということが察することは出来るのだが、そこは本人に確認しないことにはわからない。
「どうするんだ?」
「...コウ君。依頼の報酬を追加で出すから娘を探すのに協力してくれないかい?」
どうやらティルシーを探すのを協力して欲しいらしく、もし受けてくれれば追加で依頼の報酬を割増してくれるとのことであった。
自分のせいではないのだが、もし攫われてでもいれば寝覚めも悪いし、特に断る理由もないのでライラをちらりと横目で見てアイコンタクトすると、問題ないという返事が帰ってきた。
「わかった。何処に行くかもしれないとか予想は立てれないか?」
「ありがとう。そうだな...娘のことだからきっと特訓だとか言ってた路地裏にいってるかもしれない」
とりあえず闇雲にこの広いローランを探したところで見つからないため、ニコルに娘のティルシーが行きそうな場所について予想は立てることは出来ないかと聞いてみると、どうやら治安の悪い路地裏へ行っているかもしれないとのことであった。
ローランの路地裏はつまはじきにされた者達が蔓延っており、街の人達はあまり近づかないような場所である。
そんな危険な場所に子供が行ったところで、鴨がネギを背負ってきたようなものであるため、危険な目に遭う前に連れ戻す必要がある。
またじわりじわりと空が暗くなっており、早めに探し出さないと、見つけ出すのは困難になるため、コウ達は急足で屋敷から出ていくのであった...。
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