397話
「さぁ!何処からでもかかってくると良いわ!逆にあたいが指導してあげる!」
広い庭へと移動したコウは軽く準備運動をした後、用意された訓練用の木剣を選び終わると、目の前に立っていたニコルの娘であるティルシーが木剣を手に持ちながら、切っ先をこちらに向けて挑発をしてくる。
ニコルが詳しくコウのことについて教えていないため、ティルシーの中では低ランクの冒険者ということになっており、更には同年代ということもあってなのか、本人はかなり自信満々の様子であった。
そんな彼女の自信をこれから凹ませるというのは何だか気は進んだりはしないのだが、これもニコルからの指名依頼ということなので、しょうが無いことである。
「良いんだな?」
「あったりまえよ!こう見えて同年代にもう負ける気はしないわ!」
「じゃあ遠慮なく行くぞ...っと!」
コウはティルシーに許可を得ると同時に地面を蹴り上げて、一気に距離を詰めていき、木剣の切っ先を胴体の中心部分、つまりはみぞおち辺りに目掛けて鋭い一突きを叩き込もうとする。
勿論、怪我をしないようにお互いは腕や胴体に防具を付けているため、人体の急所部分であろうと、狙ったりしても問題はないということもあっての攻撃であった。
「嘘っ...!?速っ...きゃっ!」
ティルシーは低ランク冒険者だと思っていたコウがまさかここまで鋭い一撃を打ち込んでくると思っておらず、油断していたのか、まともに喰らってしまい、その衝撃によって可愛らしい声とともに地面へ大きく尻餅をついてしまう。
そして手に持ってきた木剣はクルクルと回転しながら飛んでいき、地面へと突き刺ささり、ティルシーは何が起きたのか理解できておらず、口をパクパクとさせて驚いていた。
「俺の勝ちでいいよな?」
「ゆ...油断しただけよ!今度はあたいからいくわ!」
そんな呆気にとられていたティルシーに向かってコウは肩に木剣をトントンと察せながら、もう終わりでいいのかといった感じで挑発すると、悔しかったのかティルシーは唇をかみしめながらすぐに立ち上がり、地面へ突き刺さっていた木剣を引き抜く。
そしてティルシーは地面を蹴り上げると、今度はコウに向かってヒュン!と風切り音を鳴らしながら、剣を縦に大きく振るうも、安直な太刀筋だったせいで、コウの持つ木剣でいともたやすく受け止められてしまう。
「何であたいの剣が受け止められるのよ!他の子達は受けれないのに!」
「何でって言われてもなぁ...俺のほうが強いからとかじゃないか?」
「そんなのあたいは認めないんだから!」
本人なりに鋭い一撃を放ったと思っていたようで、たやすく受け止められてしまったということについて認められないのか、今度は様々な角度からティルシーは木剣をコウに向かって打ち込んでいく。
まぁ確かに剣技に関して同年代と比べると、きっとそれなり振りは速いし、威力もあるのだろうが、今まで様々な強敵達を倒し、戦闘経験を積んできたコウからしてみれば、これくらいの剣技を受け流すことは造作もなかったりする。
「ほら剣ばっかを振るのに集中してると足元が隙だらけだぞ」
「あうっ!」
コウは隙だらけの足元に向かって邪魔をするかのように自身の片足を突き出すと、木剣を振るのに集中していたティルシーは足がもつれてしまったためか、前のめりに倒れこんでいく。
そんな地面に倒れ込んだティルシーは手に持っていた木剣を手放し、身に纏っていた服が地面の土に触れ、汚れてしまっていた。
「コウさん~相手は女の子なんだからあまり虐めたら駄目ですよ~」
「キュ!」
「いや俺だって別に虐めてるわけではないんだが...まぁ同年代には俺みたいなのもいるしあまり偉そうにしないほうが良いぞ」
そして同年代であるコウにいとも容易く得意な剣で負けたことによって、自身のプライドがぼろぼろになってしまったのか、ティルシーは何も言い返すことはなく、服の汚れをはらいつつ、静かに立ち上がった。
そんな静かに立ち上がったティルシーの目には涙が溜まっており、地面の土で汚れていない部分の袖で涙をぐっと拭うと、その場から逃げるかのように走り出して何処かへ行ってしまうのであった...。
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