393話
「もしかしてこんな時間まで飲んでたのか...」
「おう。こいつと一緒に飲んでたんだが潰れちまって家まで送る途中だ」
どうやらジールはこの時間まで肩を貸している男と一緒に飲んでいたようなのだが、潰れてしまったため、家まで送り届ける途中だったらしい。
それにしても隣の男性は身なりからしてもそれなりに良い服装で、小物なども良いものを身に着けている。
そしてこれからジールが向かう方向とすると、貴族街だと思われるので、隣の男性は察するに貴族なのだろう。
荒くれ者のような性格のジールにまともそうな見た目をした貴族の友人がいるのは意外である。
「ん...?そういえばジールさん身体は治ったのか?」
「あんなもの唾付けときゃ治る。寧ろここに帰ってきた時の対応が大変だったわ」
以前、ジールは裏ギルドの1人である剣を扱う男から不意打ちを食らってしまい、怪我をしていたため、王都にて怪我の治療をしていたのだが、ここ最近完治してローランに帰ってきていたようだ。
しかしローランにある冒険者ギルドへ戻った際、ジールは自身が怪我をしたということについて心配させないよう一切話さず、王都で酒を飲み散らかしてくるという嘘しか書かれていない手紙でギルド職員達に伝えてしかいなかったため、怒り狂ったギルド職員達からはあれやこれやと文句を言われ、落ち着かせるのに大変だったとのこと。
そしてギルドマスター室に戻ると、大量に積み重なっていた書類が待ち構えていたようで、それをひたすら処理し、ようやくこの時間まで飲み歩けるほどの自由を手に入れることが出来たらしい。
だったら最初から怪我をしたということを伝えておけばよかったのに...と思うが、ギルド職員達を心配させないようにさせるため、ジールなりの配慮だったのだろう。
「そういやここ最近お前さんの姿が見えなかったが何処に行ってたんだ?」
「王都にちょっとな。今は宿に向かう途中だ」
「じゃあすれ違いだったかもしれんな。そうだ!悪いんだが明日の昼にでも冒険者ギルドに顔を出してくれんか?」
途中でジールは思い出したかのように明日の昼頃、冒険者ギルドに来て欲しいと言われるので、明日の予定を頭の中で考えてみるも、特にこれといってやりたいことはないため、問題はないだろうか。
「ん~...特に何も用はないから良いけど...」
「じゃあ決まりだな。とりあえず今日はもう夜遅いし話は明日だ」
ジールからのお願いを承諾すると、とりあえずはもう夜遅いということなので、その場で別れることにし、コウ達も早く休むために小鳥の止まり木へと向かうのであった...。
■
そして翌日の昼頃。
ライラやフェニは他に用があるとのことだったので、今回は一緒にはおらず、昼食を済ませたコウはとりあえず1人で昨日ジールと分かれる際に言われていた通り、冒険者ギルドへと訪れていた。
それにしても昼頃ということもあってなのか、コウ以外には冒険者はあまりおらず、ギルド職員達も暇そうにしていたりする。
そして受付には久々に見た顔であるサーラが座って書類業務をしており、冒険者ギルドに入ってきたコウに気づいたのか、嬉しそうに手を振ってきたので、手を上げて返事を返す。
「お久しぶりですコウさん!」
「1週間ぶりくらいだったか?ジールさんに会いに来たんだけど...」
「お話はギルドマスターから聞いてますので大丈夫ですよ!ではご案内しますね!」
受付に座っているサーラへジールに会いたいと伝えると、どうやら話を事前に聞いていたようで、そのままギルドマスター室へ案内してくれるみたいであるので、一緒についていくことにした。
「ギルドマスター!コウさんが到着しました!」
「おう!入ってくれ!」
そしてギルドマスター室の前に到着し、サーラが部屋の扉をノックしながら呼び掛けると、部屋の中からジールの返事がすぐに返ってきたので、コウは扉を開けて部屋の中に入っていく。
部屋の中に入ると、奥にある大きめの黒革椅子へどっしりと深く座っているジールと、手前にある柔らかなそうなソファには昨日、ジールが肩を貸していた貴族と思われる男性が待ち構えているのであった...。
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