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380話

 あれからというもの、早く買い物を終わらせるためにライラやイザベラが持ってきた服を試着して見せると、満足気な顔をしていたのが、今度は逆にイザベルの(しゃく)(さわ)ったのか、対抗意識を燃やしてしまい、別の服を持ってくるという出来事があった。


 そのお陰でまだ1軒目だったというのにかなりの時間を要してしまったが、勿論2軒目3軒目と残りの店を巡るという予定は変わらず、イザベル達の求める女性物の服を取り扱っていた店へと訪れたりした。


 幸いにもコウには収納の指輪があったし、イザベルにも収納の袋が合ったお陰で購入した服などの荷物持ちをするのには困らなかったりする。


 正直なところ服であれば、以前ドワーフの国へ向かう途中で訪れたルガルの街でそれなりに買い込んでいただろうという言葉が口から出そうになったが、それを口にしてしまうと楽しんでいる彼女達に水を指してしまうということで、喉元でグッと堪えた。


 とまぁ色々とあったものの、無事に何事もなく2軒目3軒目とイザベル達の買い物が終わったのだが、コウが白薔薇騎士団の屋敷に帰ることが出来たのは夕食前の時間帯であり、非常に疲れた1日だったと言えるだろうか。


 そんなこんなで日は過ぎていき、数日後の晩餐会当日。


 今現在、コウが1人で向かっている場所というのはイザベラの屋敷であるのだが、イザベルが拠点としている白薔薇騎士団から真反対の位置にあるせいで、かなり王都内を歩かされてしまい、馬車を借りればよかったと少し後悔しながら歩いていた。


 どうしてこんなところにコウが1人だけで来ているのかというと、以前イザベラからお願いされていた、ピィアリの実という桃のような香りのする果実を届けに来たためである。


「おっ...?あれが聞いていたイザベラさんの屋敷だな」


 そしてようやく目的地であったイザベラの屋敷が見えてきたのだが、ここでも案の定、門番らしき人物が正門の近くで立っていた。


「ん...?坊主何か用があるのかい?」


「えーっとイザベラさんにピィアリの実を届けに来たんだけど入ってもいいか?」


「イザベラ様に...?依頼書か何かしらの証明は持ってるかい?持ってなければ屋敷の敷地内に入れることは出来ないんだけど...」


 いつもならその場で突っぱねられることが多いのだが、今回の門番は誠実そうな男性であり、多少なりとも話を聞いてくれるみたいである。


 ただコウはイザベラから口頭でピィアリの実を取りに言って欲しいとお願いしかされていないため、依頼書などを持っている訳がない。


 できれば身内であるイザベルがこの場にいてくれれば、すんなりと屋敷の敷地内へ入れたかもしれないが、残念なことに数日分の溜まった白薔薇騎士団の仕事で忙しく、一緒についてくることはなかった。


 ともかく屋敷の敷地内に入れなければピィアリの実を納品できないので、なんとか入れてもらえるようにしないといけないと思い、頭の中でどうするか考えていると、とある物を思い出した。


「あー...依頼書は無いけどこれはあるぞ」


 コウが収納の指輪の中から取り出したのは今日の夜に予定されている晩餐会の招待状であり、それを門番に手渡していく。


 門番は手渡した晩餐会の招待状を見ると、目を大きく開き、コウと招待状を交互にみて驚いていた。


 それはそうだろう。身分の高い貴族などが参加する予定をしている晩餐会に冒険者の格好をした人物からその招待状を手渡されたのだから。


「あいや失礼。まさか坊主...いや君が晩餐会に招待されてると思わなかったよ」


「これで入れたりはしないか?」


「う~ん...ちょっとイザベラ様に聞か「その子なら入ってもいいわよ。私が案内するから」


 屋敷の敷地内に入ってもいいかと聞くと、たとえ晩餐会に招待されている人物だとしても気軽に入れないということで、門番は少しだけ渋ろうとすると、何処からか入ってもいいという許可が聞き慣れた声で聞こえてきた。


 その聞き慣れた声の持ち主とはコウに対してピィアリの実を頼んできた人物であり、また今夜この屋敷で開催するという晩餐会の招待状をくれた女主人のイザベラが正門の奥から姿を現すのであった...。

いつも見てくださってありがとうございます!


評価やブクマなどをしてくださると嬉しいですm(_ _)m


次回の更新は6月28日になりますのでよろしくお願いします。

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