345話
「えぇー!?君は昨日会った子ー!?」
ルビィはまさか教育してくれる冒険者が昨日であったばかりのコウだと思ってもいなかったようで、手に持っていた杖を落とすと指をさしながら大きく驚き出す。
「人に向かって指をさすな指を」
そんなルビィに軽く注意をしつつ、もう1人の人物を見ると、これまたイザベルよりも深い銀色の髪を持ち、目つきがキリッとした褐色肌の女の子であり、手にはボクシングで使うバンテージのような白い布がぐるぐると巻かれているので、何となく武闘派な印象を覚えてしまう。
ただそんな銀髪の女の子はコウ達の姿を見るやいなや少しだけ残念そうに目を伏していたので、自身の想像してた冒険者像とかけ離れていたからだろうか。
「あなた達は本当にBランクとCランクなの?」
案の定、銀髪の女の子はコウ達がBランクとCランクのパーティーなのか疑問を抱いているようであり、問いを投げかけてくる。
確かにコウ達の存在を知らない新人冒険者からすれば、シスターが孤児院の子供を連れているだけにしか見えなくもない。
コウもBランクになってからローランでそれなりに活躍して既存の冒険者達には名前を覚えられ始めているとはいえ、新人冒険者達には名が伝わっていないので、まだまだ知名度が足りないのだろう。
「Bランクだぞ。ほらこれがギルドカードだ」
「私はCランクですよ〜」
コウとライラの2人は疑問を抱いている銀髪の女の子の目の前で、いつも仕舞い込んでいる収納の指輪や袋の中からギルドカードを取り出し、印籠のように突き出す。
「本当にBランクなんだ...てっきり同じ新人冒険者だと思ってた...」
そして2人のギルドカードを見たルビィは目を丸くして再び驚き、銀髪の女の子は眉を動かしながら本物かどうかじっくりと覗き込んでいた。
「ギルドカードの偽造は無理だし...でもランクを上げる方法なんて幾らでも...」
しかし銀髪の女の子はギルドカードを見たところで、コウ達がBランク冒険者というのいまいち信用していない様子でブツブツと呟き出す。
「あー分かった分かった。じゃあ模擬戦でどうだ?それなら実力が分かるだろ?」
「確かにその方が早いからいいかも」
これでは埒が明かないと思い、自身の実力を証明するなら一番手っ取り早い方法である模擬戦をしてみないかと提案すると、銀髪の女の子も賛同してくれたので、コウ達は冒険者ギルドの裏にある訓練場に向かって歩き出す。
訓練場は学校のグラウンドぐらいの広さがあり、新人冒険者を含め、多くの冒険者達が各々自身に合いそうな武器を試したり、修練したりと賑わっている。
とりあえず訓練場に到着したコウ達はある程度広さを確保できそうな隅っこまで移動し、棚に置いてあった木剣を手すると、少しだけ銀髪の女の子から距離を取って武器を構えた。
「さて...俺はいつもでも良いぞ」
そしてコウは指をクイクイと何度か折り曲げながら軽く挑発をすると、自身よりも年下の男に挑発されたということもあってなのか銀髪の女の子の眉がぴくりと動き、もとから鋭い目つきが更に鋭くなる。
「っ...後悔しても知らないよ!」
そんなコウの軽い挑発に乗ってしまった銀髪の女の子は両手に鉄で出てきたナックルを腰袋から取り出して即座に嵌めると、地面を思いっきり蹴り上げ、ものの数歩で一気に近づいてくる。
(思ったより早いな)
近づいてきた銀髪の女の子は鳩尾や人中などの急所部分に向かって容赦なく攻撃を仕掛けてくるも、コウはまるでひらりひらりと飛ぶ蝶のように軽々と回避しつつ、後退していく。
「くっ...!」
そして何度も何度も躍起になって拳を振るうが、一発も当たらないことによって焦りが生まれつつある銀髪の女の子はつい大きく振りかぶってしまった。
大きな攻撃をするためには大きな隙が生まれてしまうものである。
「足元がお留守だぞ!」
「痛っ!」
そんな隙をコウが見逃すわけもなく、足元を掬い上げるように蹴りを入れると、銀髪の女の子は今更反撃をしてくるとは思ってもいなかったのか、驚きの表情をしながら、その場で大きな尻もちをついてしまう。
「終わりだな」
コウは尻もちをついた銀髪の女の子に体勢を整わせないように首元へ剣を置くと、そのまま両手を大きくあげて降参のポーズをした。
「降参です...疑って申し訳ないです」
「ん...気にしていないからいいぞ」
どうやら銀髪の女の子は今の軽い模擬戦で実力がかけ離れていることを知り、自身の過ちを認めつつ、謝罪をしてくるがコウとしてはそこまで気にしていることではなかったので、軽くフォローをいれておくことにした。
「ルビィもやるか?」
「いえ!私は大丈夫です!」
念のため、今の模擬戦を傍から見ていたルビィにも同様に模擬戦をしてみるかどうか話しを聞いてみると、頭が千切れるのではないかと思うほど首を横にブンブンと振って断りだす。
そこまで拒絶しなくてもいいのに...と思うが、とりあえず冒険者としてのん実力は証明が出来、2人の新人冒険者は納得したということで、これから教育のために見合った依頼を選びに行くのであった...。
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