340話
ジールと出会い手紙を渡されてから数日、コウ達はリリネットが用意してくれた馬車乗って王都を既に発っており、いつの間にかローランが目と鼻の先程の距離となっていた。
「ようやく帰ってきましたね~」
「長旅だったな」
「キューイ!」
馬車から見えるローランへそのまま何事もなく辿り着くと、Bランク冒険者としての特権を活用して正門を通り過ぎ、街中へ入ると、馬車は徐々に速度を落としていき、人通りのあまりない場所で止まる。
そして御者から到着した旨を伝えられたので、コウ達は降りて御者に別れの挨拶とお礼を済ませると、そのまま元来た道を戻るように馬車は反転してゆっくりと走り去っていく。
「どうしますか~?」
そんな馬車を見送った後、ライラからこれからどうするかについて聞かれるも、これといって特に予定はない。
強いて言うのならばジールから預かっている手紙を冒険者ギルドに持っていかないといけないだろうか。
「とりあえず冒険者ギルドに寄ってもいいか?届け物があるんだ」
「いいですよ~」
「キュイ!」
そして丁度昼のタイミングということで、屋台の料理を食べ歩きつつ、冒険者ギルドへ向かい、到着すると中に入っていく。
お昼頃ということもあって冒険者や依頼者などはおらず、比較的に空いており、これならすぐに預かっている手紙を渡すことが出来るだろう。
受付にはサーラが鼻ちょうちんを作り出しながら腕を組んで寝ているので、起こすためにコウは細長い先端の尖った氷をこっそりと作り出す。
そして大きく膨らんだ鼻ちょうちんに向かって作り出した細長い先端の尖った氷で突くと、風船が破裂するかのように割れた。
「ふわぁ!なんですか!?寝てないです!仕事してます!」
するとサーラは慌てて飛び起き、寝ぼけた状態で背筋をぴんと伸ばしながら謎の言い訳を並べ始めるが、目の前で立っているのは偉い立場の人ではなく、コウである。
「って...なんだコウさんだったんですか...もー焦らせないでくださいよー!」
目の前に立っていたコウを見た途端、サーラはホッと胸を撫で下ろしたのか、伸ばしていた背筋から体勢を崩し、机の上にで頬杖をつきだす。
「ジールさんに報告してもいいんだぞ?」
「うっ...冗談じゃないですか...ってギルドマスターの居場所を知ってるんですか!?書類が溜まってるんですよ!」
どうやらギルドマスターであるジールが冒険者ギルドにいないせいか、重要な書類が溜まっていくばかりで処理が出来ていないらしい。
「いや王都で会って冒険者ギルドに届けてくれと手紙を預かったんだ」
コウは収納の指輪の中に仕舞い込んでいた薄っぺらい真っ白な封筒を取り出すと、そのままサーラに手渡していく。
中身は見ていないので、どんな内容が書かれているのか分からないがきっと上手い具合に今の状況が書かれている筈だろう
周りの職員達もギルドマスターであるジールからの手紙というのを小耳に挟み、気になったのかサーラの手元を覗き込むように群がりだす。
「ふむふむ....」
サーラは取り出した封筒をコウから受け取ると、その場で開封し始め、中に入っていた手紙を読み出すも、サーラや職員全員の眉間へ徐々に皺が寄せられていく。
「ふぅー...いったい何を考えてるんですか!あのギルドマスターーー!?」
そして手紙をひとしきり読み終わると、一旦溜め息をつき、一呼吸置いて溜めると、サーラは冒険者ギルド内から外に響くほどの大きな声でジールに対する不満を代表して吐き出した。
他の職員達も不満が爆発したらしく、各々はギルドマスターであるジールに対してあれやこれやと不満を垂れ流し始めるので、どんな内容が手紙に書いてあったのかコウは見てみることにした。
そんな手紙に書かれていた内容とは友人から王都に呼ばれたので酒を飲み散らかしてくるという一文しか書かれておらず、一番肝心な怪我をしたなどのことは一切書かれていない。
きっとジールが冒険者ギルドの職員達全員を心配させないようにするために書いた内容なのだろうが、残念なことに火に油を注いだだけであった。
「あー...これはもう当分ジールさん帰ってこない方が良いんじゃないか?」
「かもですね~...」
「キュー...」
しかし王都で怪我を治しているジールにはこの状況を伝えることが出来ないので、戻ってくる頃には職員全員の怒りが収まってることを祈ることぐらいしかできない。
「じゃあ手紙を渡したことだし俺達は宿でも取りに行くか」
「あっ!コウさんちょっと待ってください!」
とりあえずやるべきことも終えたということで、冒険者ギルドから出て小鳥の止まり木といういつもお世話になっている宿に向かおうとするも、サーラから声を掛けられた。
「手紙で思い出したんですけどコウさん宛にも手紙が届いてたので渡しておきますね!」
どうやらコウがライラを助けるためにこのローランから離れていた際、多くの手紙が届いていたとのことで、サーラは付の机にある引き出しの中から5枚の封筒を取り出し手渡される。
手渡された全ての封筒を裏返して封蝋の部分を見てみると、どれもこれもイザベルから届いた手紙だと分かった。
また手紙が届いてから時間がそれなりに経っているだろうし、これは早めに中身を見て返事を返したほうが良いだろうか。
とはいえ手紙の中身は落ち着ける場所で見たいし、返事の手紙も書きたいということなので、一旦落ち着けそうな場所である小鳥の止まり木という宿へコウ達は向かうのであった...。
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