336話
「ふー...無事王都に到着だな」
「キュイ!」
「この2日間は色々ありましたね~」
コウ達は昼頃に王都へ到着したということで、リリネットが手配してくれた馬車から降りつつ、この2日間の思い出を振り返るかのように話し出す。
いったい聖都シュレアから王都に向かうまでの間、どんな出来事があったのかというと見たこともない謎の虫の群れに襲われたり、小規模なコボルトの群れに襲われたりと色々なことがあった。
とはいえ無事に王都へ辿り着くことが出来たので、今となっては良い思い出なのかもしれない。
そしてこのまま休まずにローランまで向かうと思っていたのだが、この2日間馬車を頑張って引っ張った馬には疲労が溜まっており、少しだけ休息を与えたいと御者からお願いされることとなる。
コウ達としてはそこまで急いでローランに帰るつもりではなかったし、今から馬を休ませたとしても再び出発するとなると夜頃の出発になってしまうので、だったら1日王都に滞在しようということになったのだ。
「これからどうします~?」
「うーんどうしようか...」
これからどうするか?ということをライラから言われるが、元々王都には滞在する予定もなかったため、何も考えていなかった。
そのため、コウは腕を組みながらどう時間を潰そうか考えていると、不意に自身の腹部からぐぅ~...っといった音が聞こえてきた。
そんな腹の虫の鳴き声を聞いたコウとライラはお互いに目を見合わせると、その場で笑みがこぼれ、これからの予定が決まったといったところであった。
「これからすることが決まったな」
「昼頃ですし丁度いいかもしれないですね~」
「キュッ!」
昼頃ということもあってどこもかしこも混み合っている可能性が高く、もしかしたら少しだけ待ったりするかもしれないが、どこかしらにはすんなりと入れるだろうとコウ達は軽く思っていた。
「じゃあ一旦歩き回って良さげな店を探すか」
「そうですね~大通りを中心に歩きましょ~」
「キューイ!」
ライラの言う通り、基本的には大通りに料理屋は建ち並んでいる筈いるため、コウ達はそのまま大通りに向かって歩き出す。
暫くの間、コウ達は大通りを練り歩きつつ、どこか入れそうな料理屋を探すも、王都の大通りは昼頃ということもあってなのか、殆どの店が繁盛しており、残念なことに入れるようなところはなかった。
「むぅ...」
「どこもいっぱいですね~...」
「キュ~...」
そしてそれなりに歩き回ったためか、お腹が限界と言わんばかりに鳴き始めるので、ここはもう店を探すのを諦めて、収納の指輪の中にある買い溜めてある屋台の料理を出した方が良いのではないだろうかと思ってしまう。
とはいえせっかく王都に立ち寄ったというのに料理屋に入らず、今まで買い溜めていた屋台の料理を食べるのは何だか勿体ないような感じがしないでもない。
そんなコウ達はお腹を擦りつつ、大通りの中心部で途方に暮れていると、目の前の店で文字の書かれた木の板を持ちながら、呼び込みをしている小さな女の子が見えた。
呼び込みをしているということは、まだ店の席が空いている可能性があるということなので、コウ達は早歩きで呼び込みをしている小さな女の子の元へと歩いていく。
「まだ席は空いているか?」
「残り少ないですけど席はまだ空いてます!」
店の中の席は空いているのかどうか聞いてみると、小さな女の子から元気いっぱいにまだ少しだけ席の空きがあるということを教えてくれたので、このチャンスを逃す訳にはいかない。
「よし...じゃあここでいいな?」
「お腹がぺこぺこなので問題ないです~」
「キュ!」
ライラとフェニに確認すると、特にこの店で問題ないとのことなので、小さな女の子に入る旨を伝えると、喜びながらその場で飛び跳ねていた。
そのまま店の中に入ると、厨房からはリズムよくカンカンと鉄の鍋で何かしらを炒めるような音が聞こえ、ふわりと香ばしい匂いが漂ってくると同時に食欲がそそり、空腹感が加速していく。
周りを見てみると客入りもそこまで悪くないので、それなりに期待が高まり、席につくと机の上に置かれているメニューを早速確認しだす。
「今日のおすすめってなんだ?」
「はいっ!こちらのゴロルダの丸ごと煮込みになります!」
ふむ...あまり聞いたことのない食材ではあるのだが、店側のおすすめということならば基本的に間違いはない筈である。
「じゃあ果物の盛り合わせとそのおすすめを1...「2つでお願いします~」
「はいっ!果物の盛り合わせとおすすめを2つですね!」
注文を聞いた小さな女の子は厨房に向かってパタパタと足を動かしながら向かい、店の活気に負けないぐらいの大きな声でコウ達の注文を伝えているのが聞こえてくる。
「それにしてもお客さんがいっぱいですね~」
「俺達以外にも何組か入ってきてたし料理も時間が掛かりそうだな」
それなりに店の中は混み合っているため、料理が到着するのは暫く時間が掛かってしまいそうなので、コウは空腹を誤魔化すかのように机の上に置かれている水差しからコップへ水を注ぎ飲み干す。
「そういえば〜王都に1日いるなら宿も探さないとですね~」
「あー確かにそうかもな。イザベルに頼るのもあれだし」
王都に1日滞在するのであれば、まず欠かせないのが宿の確保である。
なるべく早い時間帯から宿の確保に向かわなければ、どこもかしこも埋まってしまうかもしれない。
もし宿の確保が出来ずにいると、王都を拠点としている白薔薇騎士団のイザベルに頼らないといけなくなってしまう可能性が高いため、ここはあまり迷惑を掛けたくはない。
そしてライラと軽く会話のキャッチボールをしながら暫くの間、料理が出来上がるのを待っていると、小さな女の子が料理の乗せたワゴンをガラガラと押しながらこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「お待たせしましたっ!ゴロルダに丸ごと煮込みと果実の盛り合わせになります!」
どんっ!とコウ達の前に置かれたのはフェニ用の果実の盛り合わせと、一皿からはみ出そうなぐらいの大きさをした肉団子であり、とろ~りとしたの餡のようなものが、上から肉全体を包み込むように掛けられている。
ゴロルダという食材には聞き覚えはないが、匂い自体はかなり食欲をそそるものとなっており、試しにナイフで切り分けてみると、肉の中に閉じ込められた肉汁がじわりと染み出し、皿の上に大きな肉汁の池を作り出したていた。
「わぁ~美味しそうですね~!」
「キューイ!」
「おすすめを頼んで正解だったかもな。さて...いただきます」
会話も程々にコウ達は早速、切り分けた肉団子を口の中へ放り込んで何度か噛み締めてみると、熱々の肉汁が一気に溢れ出し、口の中一杯を満たしていく。
そして熱々の肉汁が喉元を通り過ぎると共に空腹だった胃袋にじんわりと染み渡る。
そんなゴロルダの丸ごと煮込みに舌鼓を鳴らしながら、コウ達は王都の料理店で昼食を楽しむのであった...。
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