334話
馬車から降りてきたリリネットは丁度その場に居合わせたコウの存在に気づいたのか、こちらに向かって近づいてくる。
「あらあら?...こんな所でお会いするとは奇遇ですね」
「数日ぶりだな。それにしてもリリネットはどうしてこんな所にいるんだ?」
「これから旅立つシスター達をこの城門前まで送り届けに来たところになります」
どうやらリリネットは大聖堂で生活していたシスター達がこれから各地にある教会へ旅立つということで、自身のよく使う馬車を呼び、この城門前まで送り届けに来たところだったらしい。
「可愛い教え子達の門出ですもの...これくらいさせて欲しいのよねぇ」
パンパンに詰められたリュックを背中に背負い、あちらこちらへ停車している馬車に向かって散り散りに向かっていくシスター達を見ながらリリネットはポツリと呟き、目には若干の寂しさを感じる。
「辛気臭くなちゃったわね。そういえばコウ君はどうしてこちらへ?」
「あぁそれなんだがローランに帰ろうと思ってできれば乗り心地の良い馬車を探してたんだ」
コウはリリネットからどうしてここにいるのか?について聞かれ、特に隠すようなことでもないため、詳しい事情を話すことにした。
「ローランに向かう乗り心地の良い馬車ですか...心当たりがありますのでもしよろしければ明日にでもご用意しましょうか?」
「良いのか?」
「えぇ問題ありませんよ。ただ少しだけお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」
リリネットはコウが目的としている馬車に心当たりがあるようで、明日までには用意してくれるらしい。
コウとしては馬車を探すために必要な時間や手間が省けるので、是非お願いしたいところではあるのだが、リリネットから何かしらのお願いがあるようだ。
「お願い?」
「ライラさんと少しお話がしたくてですね。あの子ったら全然大聖堂に来ないものですから」
馬車を用意する代わりにライラと少しだけ話す時間がほしいとのことであり、そんなことでよければライラの1人や2人ぐらいなら、なんら問題はない。
寧ろ、シスター達が攫われていた件に関して相談なく、1人で勝手に行動したということをついでにリリネットから多少なりとも怒られてしまえば良いのかもしれない。
ライラからは拒否権はないのですか?といった声が出るかもしれないが、残念ながらそんなものは存在しないし、ほぼ強制である。
「いいぞ。なんだったらライラも馬車を探してる筈だし今から会いに行くか?」
「あらそうでしたのね。では是非お願いします」
会いに行くと言っても城門前は多くの馬車を並べられるように広く作られており、街の入口ということもあってそれなりに人が多く、シスターや神父の格好をした人もいるため、普通に考えればこの中からライラを探し出すのは一苦労するだろう。
しかし今回ばかりはコウにとってライラを探し出すのは容易である。
何故なら、相手の位置を知ることが出来るイヤーカフの魔道具を持っているからだ。
そのため、馬車を探すのを一度中断したコウはライラの今いる場所を知るために収納の指輪からイヤーカフの魔道具を取り出すと、魔力を込めることにした。
「こっちだな」
魔力を込めると、イヤーカフの魔道具からは細い光の線が真反対の方向へ真っ直ぐに伸びていくので、それを頼りに辿りながらリリネットと共に歩き出す。
多くの人達とすれ違うと、細い光の線が1人のシスターの格好をした綺麗な金髪の女性に繋がったのですぐにライラだと理解する。
そんなライラの隣には先程、聖都シュレアに帰ってきたばかりである後輩のチェルシーもいるので、きっと一緒に馬車を仲良く探してくれていたのだろう。
「ライラ。馬車の宛を見つけたぞ」
「え~馬車をもう見つけたんですか~?って...なんでこんな所にリリネット様が~...?」
ライラは自身の背後からコウの声が聞こえたため、こちらへ振り返るが一緒にいるリリネットに気づき、一瞬げっとした表情を浮かべるも、取り繕うようにニコニコとした笑顔へ切り替わる。
ちなみに一緒にいたチェルシーはいつの間にかライラの背後に隠れており、こっそりと様子を窺っていた。
「お久しぶりですね。ライラさんとチェルシーさん」
「あはは~...お久しぶりです~...」
「お久しぶりです...聖女リリネット様...」
ライラとチェルシーの2人はどうしてこんな所にリリネットがいるのか状況が飲み込めていない様子であり、困惑しているようだった。
「では約束通りライラさんと...ついでにチェルシーさんもお借りしていきますね」
「ん...分かった。またな」
挨拶も程々にリリネットは早速2人の首根っこを掴みだし、コウのやり取りを聞いているライラとチェルシーの頭の上にはクエッションマークがまるで浮かんでいるように見えた。
「え~っと...コウさん?約束っていったいなんですか~...?」
「そうです!せめて事情を説明して下さい!」
「悪いなライラとチェルシー。また明日にでも会おう」
そしてそんな首根っこを掴まれた2人の疑問には答えず、手を振りながら別れの挨拶をすると、リリネットは黒い馬車が停車していた方向へ2人をずるずると引きずりながら歩き始める。
すると少し離れた位置から助けを求めるような声が聞こえたが、コウはライラの声と似たような人のものだろうと思い、孤児院へ戻ることにするのであった...。
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