332話
大聖堂にある書庫でフェニに関することについて調べてから数日が経過した。
ライラの怪我は完治しており、孤児院の一角にある庭でフェニと共に子供達と走りながら遊んだりしている微笑ましい光景が目に映る。
しかしこの孤児院へずっと滞在している訳にもいかないし、怪我も完治しているならば、そろそろ拠点としているローランへ帰るべきだろうか。
とはいえ、これといって特に優先するような用はないし、ここ最近は色々と依頼をこなしてきたため、お金に余裕はあるので、実際にはそこまで急いで帰る必要はないのかもしれない。
しいてローランに帰る理由があるとするならば、ジャンのパーティーにいるリリアからフェニのことについて詳しい話を聞きたいことぐらいである。
彼らと会うのにもタイミングが中々噛み合わなければ会うことはないので、会うとするなら、なるべくローランにいたほうが良いだろうか。
色々と考えることはあれど、コウ1人では決めるようなことでもないため、子供達と遊んでいるライラを一旦呼び止めることにした。
「ライラ。そろそろローランへ帰らないか?」
「ん~私は帰る準備できてますけどコウさんは帰る準備が出来てるんですか~?」
ライラは収納の袋を持っているため、荷物もそこまではなく、いつでも聖都シュレアを発つ準備は出来ているようだった。
「そうだな...後は馬車を見つけるぐらいかな」
コウも収納の指輪を身に付けているので、着替えなどの荷物はライラと同様に殆どなく、長旅に耐えられるように食料の準備もバッチリと蓄えているのだが、実はまだ王都へ向かう馬車は探してはいなかった。
まぁ王都行きの馬車などは聖都シュレアの入り口である城門前にでも行けばすぐに見つかるだろうし、その辺りは特に問題はない。
問題があるとすれば、長旅になるということでなるべく座り心地の良い振動が少ない馬車を選びたいところなのだが、一般的な馬車の殆どは性能が悪いためか走っている際の振動が大きく、お尻が痛くなるような馬車ばかりなのだ。
そのため、王都へ向かう良さげな馬車を探すのは少しだけ時間を要するかもしれない。
個人的には最初にローランから乗ってきた馬車が一番良いのだが、逃げていたシスター達を乗せて王都へ送り返しているため、この聖都シュレアにはいない筈である。
「でしたらとりあえず馬車でも探しに行きますか~?」
「できればそうしたいな。フェニはどうする?」
「キュッ!」
フェニに話を振ると、機嫌が良いのかこの孤児院にいる子供達と馬車を探す間だけではあるが遊んでくれるようだ。
「じゃあ子供達の相手を頼むぞ」
「キュイッ!」
そして子供達の相手をフェニに任せたコウとライラは2人で王都行きの良さげな馬車を探すために城門付近まで向かうことにした。
そんなコウとライラはこれからの予定について話しながら孤児院の外に出ると、箒を片手に持ちながら掃き掃除をしている初老の神父に話し掛けられる。
「おや?何処かに行かれるのでしょうか?」
この初老の神父はライラの後輩であるチェルシーと共に孤児院の管理を任されている人物である。
以前、この孤児院を管理していた者と違って色々と実績があり、縁あってリリネットから推薦された有能な人物らしいが、どのようなことをしてきたのか詳しくは知らない。
まぁ元聖女様からの推薦ならば、きっと間違いはないのだろう。
「あぁそろそろローランに帰るつもりだから馬車を探しに行くんだ」
「なるほど...それでは子供達も寂しがるかもしれませんね」
「ん~今すぐにって訳じゃないんですけどね~馬車が見つかり次第ですよ~」
孤児院の子供達は新しく増えた遊び相手であるライラやフェニがいなくなってしまうと、神父の言う通り、寂しがる子は多いだろうか。
またライラの後輩であるチェルシーも未だに王都から帰ってこれていないので、初老の神父からすれば元気な子供達の相手は少し大変かもしれない。
「じゃあそういうことだから少し出掛けるぞ」
「えぇ。お気をつけて」
神父に出掛ける旨を伝えると、コウとライラは真っ白な建物が均等に立ち並ぶ街中を歩きながら、多くの馬車が集まるであろう城門前へゆっくりと歩いて向かうことにした。
そして聖都シュレアの入口である城門に到着すると、様々な作りの馬車が綺麗に駐車され、多く並んでいるのが見えてくる。
そんな馬車の周りには御者達が自身の商売道具である馬車の点検や出発前の準備をしていたり、これから旅立つ者達と交渉していたりしていた。
まぁ...これだけ多くの馬車があれば、1つや2つぐらいコウ達の希望に近しい馬車は見つかるだろう。
「さて...手分けして探すぞ」
「了解です~!」
コウとライラは良さげな馬車を探すため、二手に分かれようとすると、突然どこかで聞いたような声が耳に入ってくる。
「ライラさんこっちです!こっち!」
2人して声の聞こえた方向へ振り向くと、そこにはライラの後輩であるチェルシーが馬車の窓から顔を出し、元気そうに手をぶんぶんと振っているのであった...。
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