330話
「魔物が記されている本でしょうか?でしたらこちらにお求めの本があると思われます」
片眼鏡を掛けたショートカットのシスターはコウの話を聞くと、まるで魔物に関する本が何処にあるのか、把握しているかのように迷いなく、1つの本棚の前に立つ。
本当にコウが求めている本があるのか?と思いつつ、シスターが立っている本棚に納められた本を1冊だけ手に取って1ページをぺらりと捲り、中身を見てみると、様々な魔物に関する情報が詳しく記されている本であり、少しだけ驚いてしまう。
「まじか...」
このシスターは何処にどの本があるのかということを把握しているのではないだろうか?だとするならば恐ろしい記憶力である。
「もしかして何処にどの本があるのか覚えているのか?」
「ある程度は記憶しております」
「凄いな...ともかく助かった。ありがとう」
「いえ...また何かありましたらお呼び下さい。失礼致します」
コウはお礼を言うと、片眼鏡を掛けたショートカットのシスターは軽く頭を下げるとそのまま部屋の外へ出ていき、扉の鍵は同じようにガチャリと閉められる。
とりあえず時間も勿体ないので、幾つかの本を選び手に取ると、コウは中央にある小さな机の上まで運び出す。
そしてある程度の本を運び終わると、コウは早速積み上げられた本を一冊ずつ開き、フェニに関する情報がないか調べ始めることにした。
暫くの間は紙の擦れる音と、時たま誰か部屋の外の廊下を通る足音が聞こえるだけで、基本的には静かな空間であり、なにか調べたりするにはとても良い環境だといえる。
ただこの場に珈琲や甘味などがあればもっと良かっただろうなとコウは思うが、残念なことに収納の指輪の中にはそのようなものはない。
集中して積まれた本をひたすら開き、中身を読み続けるが、どれもこれもフェニのような魔物が記載されているような本はないため、めぼしい情報は得ることができず、ただ無駄に時間が過ぎていき、お腹の虫が鳴き始める頃合いとなっていた。
「んー...っとそろそろお昼かな?」
そんなコウはずっと椅子に座って本を読んでいたため、凝り固まった背筋を伸ばしながら収納の指輪から魔道具の時計を取り出し、時間を確認してみると予想通り、時計の針は真上を示していた。
「むぅ...お腹が空いたな」
お腹が空いたとはいえ、コウが今いる場所は沢山の貴重な本が集められている場所なので、はたして食事をしたりしてもいいものなのだろうか。
ただ今から大聖堂の外に出て料理屋を探し、食事をするのは少しだけ面倒であり、なるべく収納の指輪の中にある料理をこの場で食べて済ませたいところではあったりする。
「とりあえず呼んで聞いてみるか」
コウは扉の横に掛かっている共鳴のベルを鳴らすと、まるで近くで待機していたかのように廊下からすぐにコツコツと足音が聞こえ、扉の鍵を開けて中に入ってきた。
「どうなさいましたか?」
「少し聞きたいことがあってここで飲食はしても良いのか?」
「問題御座いませんが...もし本を汚してしまった場合はかなりのお金を払うこととなると思われます」
どうやらこの書庫内で飲食するのは特に禁止されていないが、コウの思っていた通り、本を汚してしまったらかなりの額のお金を支払う羽目になってしまうとのことであった。
とはいえコウはもとより本を読みながら食事をするつもりはないので、本を汚したりする心配はない。
「こんなことを聞くためだけに呼び出して悪いな」
「問題ありません。また何かありましたらお呼び下さい」
この書庫内で飲食が出来るかどうかを聞きたかっただけなので軽く謝ると、そこまで気にしてはない様子ではあった。
しかし何度もこれだけのために呼び出すのは何だか悪い気がするので、これ以上はあまり共鳴のベルを使用して呼び出さない方がいいのかもしれない。
片眼鏡を掛けたショートカットのシスターは最初に呼んだ時と同じようにこの書庫内から出ると扉の鍵を閉め、そのままコツコツと足音を鳴らしながら去っていく。
とりあえずこの場所で食事をしても良いということになった訳なので、コウはなるべく匂いが強くなさそうな食べ物を昼食として選び、手早く食事を済ませるのであった...。
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