299話
コウは両手で持っている目盛線が刻まれた水晶に向かって自身の魔力を徐々に込めていくと、ライラと同じくモクモクと湧水のように煙が出てくるが、先程と様子が違ってその煙の色は灰色ではなく、まるで黒煙のような黒へと変化していた。
「なんか灰色じゃないんだけど...」
「んん?初めて見る色だね?面白いから続けてみてくれないかい?」
人族であるのならば灰色の煙が出る筈なのに何故、黒色の煙が出てしまったのかはコウの中で少なからず心当たりがあった。
それは自身がこの世界に対して明らかにイレギュラーな存在であり、また身体に関してもハイドが作ったということである。
そのため、人族という判定がこの魔道具で正確にされておらず、結果として黒色の煙が出てしまったのではないだろうかとコウの中で考えていた。
まぁイレギュラーな存在ということや作られた身体ということについては基本的に話していないし、それを知る人はハイドぐらいで他に居ない筈であるため、コウは心の底にそっと仕舞い込む。
「じゃあこのまま魔力を込めるからな」
そして暫く魔力を込め続けると、コウが保有する魔力量は多いためか、いとも容易く7割を超えていく。
「おっ...俺の勝ちだな」
「あぁ~...私の記録を簡単に越さないで下さい~」
「人族の枠で7割は凄いことなんだけどねぇ...」
ライラの記録である7割を超えると共にがっくりと肩を落として残念そうにしているが、それでもまだまだ止まる様子はなく、コウは勝ち誇ったように笑みが溢れる。
そして徐々に黒色の煙が水晶内を満たす速度が遅くなっていき、大体9割を越えた辺りでピタリ止まったのだ。
「あ...惜しいなもう少しで満タンなのに」
コウとしては水晶内を全て黒色の煙で満たす思いだったのだが、満たせずに少し残念な気持ちになってしまう。
「う~ん...コウ君は本当に人なんだよね?特殊な生まれのエルフとかじゃないよね?」
「失礼だな...俺は人族の筈だぞ。それにしても9割って言ってもどれくらいか分かりづらいな」
とはいえこの水晶の魔道具を9割満たしたとしても、実際にどれくらい凄いことなのだろうか?
某漫画などにあるスカウターで戦闘力を表すように、今回測った魔力も数値化してくれればまだ分かりやすいのだが、残念なことに水晶に刻まれているのは目盛線のような横線だけであるため、あまりピンと来ない。
「確か魔法が得意なエルフだと大体7割ほどだったかな?つまり君達はエルフ以上に魔力を持っているということになるね」
ふむ...確かに魔法が得意そうなエルフ以上の魔力を持っていると言われると、凄いことなのかもしれない。
というか意外にもライラがそこまでの魔力を持っているとは驚きであった。
とりあえず手に持っていた自身の魔力を測れるという水晶の魔道具を壊さないようにそっと近くの安定したところへ置き、今度は周りを見渡して窓がないか確認する。
「そういえばここから外は見えないのか?」
「外?あぁ街の景色が見たいのであればこっちだよ」
今回、魔塔に入ろうと思った理由は色々とあるが、1番の理由はこの高い塔から街を見渡せばどんな景色に見えるだろうかと思ったからだ。
ベンの研究室は18階層とほぼ最上階に位置した場所ということで、態々景色の良い階層まで連れて行ってくれと言わずに済んだのは僥倖だっただろうか。
とりあえず壁側に立っているベンが手招きをして呼んでいるので、ライラと共に今度は足元にある魔道具達を踏み壊さないよう慎重に避けつつ歩いていく。
「窓も何もないんだが?」
「これじゃあ何も見えないです〜」
ただ壁側に辿り着いても窓の様な物は取り付けられておらず、2人で不思議そうな顔をしているとベンはニヤリと笑みを見せた。
そしてベンは壁側に向かって軽く握った拳をノックするかの様にコンコンと打ち付けると、その衝撃を与えた一部分が透明に透け始め、メークタリアの街並みが少しだけ視界に入る。
「おぉ凄いなこれ。どんな仕掛けなんだ?」
「面白い仕掛けですね〜!」
「ここだけの壁はオーレメロンっていう魔物の素材を使った物でね。衝撃を与えると透ける作りになってるんだよ」
オーレメロンとは過去にコウ達がドワーフ国を訪れ、ダルガレフのお願いを聞いて鉱石を取りに行った時に出会った魔物であり、鉱物を好んで食べる魔物であったのを思い出す。
とりあえずコウ達も景色をじっくりと眺めたいので、真似する様に壁側に向かって軽くノックすると小さな窓くらいの大きさまで透けていく。
そして早速覗いてみるとメークタリアの街並みを半分ほどかなり高度がある場所から眺めることができ、他に高そうな建築物もないためか遮るようなものはなく、かなり遠くまで見渡すことが出来た。
「わぁ~!綺麗ですね~!」
「フェニはいつもこんな景色を見てるかもな」
「キュイ!」
下を見てみると歩いている人達は小さく見え、街並みはモンテネグロの世界遺産であるコトルの旧市街と似たような作りとなっており、美しく建物が建てられている。
もしこんな街並みを夕方にでも見ることが出来れば、橙色の夕日が照らし、色鮮やかに彩り、もっと美しくなるだろう。
そんな美しい街並みであるメークタリアの光景を目に焼き付けていると、突然部屋内に取り付けられていたであろう警報機器のようなものが鳴り始め、強制的にコウ達の意識は振り向かされるのであった...。
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