289話
王都で一晩を一泊した後は再びコウ達はルーカスの馬車に早朝から乗り、今回の目的地である魔導国メークタリアに向かって走り出していた。
「いや~良い宿でしたね~」
「そうだな。やっぱルーカスに任せれば大体良い宿には泊まれるな」
馬車内では前日に王都で一泊した宿の話題となっており、ルーカスの選んだ宿はかなり満足いくサービスを提供してくれた。
それなりの宿には何処もお風呂があったりするのだが、今回泊まった宿は普段そこらでは置いていない石鹸などが風呂場に置かれ、自由に使えたり、料理人をローテーションで雇っているためかどんな時間に頼んでも作って貰えたりなどだろうか。
まさかそんな質の良い宿へ、旅の途中にタダで泊まれるとは思っていなかったので、少しだけ得をした気分になる。
暫くの間、昨日泊まった宿から朝食として貰ったサンドイッチなどを食べつつ、雑談をしていると大きな湖の近くを通っていた。
そして少しずつではあるが、先程まで快晴だった空は、いつの間にか分厚い雲に覆われた空になっていき、なんだか雲行きが徐々に怪しくなっていく。
「うぅ〜これは雨が降りそうですね~」
「雨か...濡れるしあんまり好きじゃないんだよな」
コウがこの世界に産まれ、ローランや王都など様々な場所を行ったり来たりしているが、あまり雨が降った記憶は無い。
もしかしたらこの地域は雨が元々降りにくい地域なのだろうか。
コウとライラの2人は馬車に付いている窓から空を見上げているとポツポツと小さな雨粒が馬車の窓に張り付いていき、御者をしているルーカスは予想していたのか早々に合羽のような外套を羽織っていた。
また雨が降ってきたことにより、馬車の周囲を飛び回りながら、そこらにいる低ランクの魔物を蹴散らしていたフェニが中に入れろと窓をコツコツと外から小さな嘴でノックをしてくる。
馬車の中に入りたそうにしているため、とりあえず窓を開くとフェニはようやく開いた窓の馬車の中へ入ってくる。
「意外と濡れてないんだな」
「キュイッ!」
コウは一応、フェニが雨で濡れているのではないかと思い、収納の指輪から清潔な布を取り出して濡れているであろう羽根を拭く準備をしていたが、実際には水滴が羽根の隙間に入り込んでいるぐらいで、そこまで濡れていなかった。
鳥の特有として羽根に油が付いているため、殆どの水を弾いており、そこまでしっかりと拭いてあげる必要性は無いのかもしれない。
そして暫くすると先程までの小さな雨粒は徐々に大きな雨粒へと変化していき、窓へ大きな水滴がへばりついていく。
「うへぇ~こんなの外出たらずぶ濡れですね~」
「一応何かあった時のために合羽を着ておけよ」
「何もない事を祈りますよ~」
現状、フェニが馬車の周りを飛び回っていないため、いつでも魔物に襲われる危険性があり、ライラに何かあった時のために旅の準備として用意していた大きめの外套を手渡しておくことにした。
今回手渡した外套は水棲の魔物から作られた物となっており、雨程度ならフェニの羽根と同様に水を弾き、水の耐性が高いためか弱めの水魔法なら受け切ることが出来る。
ただそんな雨具でも足元がぬかるんでいる場所で大きく動けば足は濡れてしまうので、ライラの格好からしたらあまり外には出たくないだろうか。
その点、コウの格好は元々全身を包み込む様な外套を羽織って、膝より下までの長さがある長靴に似た靴を履いているため、地面が多少ぬかるんでいたとしても問題はない。
とはいえ雨の中、外にはわざわざ出たくはないので、何も起きないことが1番である。
しかし何も起きないでと祈っている時に限ってこそ、何かしらのトラブルが起きたりするものだ。
現在、馬車は大きな湖から約10m程離れた場所を走っているのだが、突然馬車自体が ガタンッ!と大きく横に揺れ動き、窓にはまるでバケツで水を掛けられたかの様な濡れた跡ができる。
「びっくりしました〜...」
「なんなんだ一体?」
「キューイ?」
何が起きたのかと思い、濡れた窓を開けて外を見渡すも馬車自体には何処も壊れている様子はないため、何が起きたかの確認をするために馬車の前に付いている小窓を開けて御者のルーカスへと話しかける。
「何があったんだ?」
「どうやら魔物のようです。振り切れるかどうかわかりませんが...」
どうやら先程の振動は魔物の仕業らしく、ルーカスは湖の方面に視線を向けているので、そちらの方向に問題の魔物がいるのだろう。
コウも同じようにルーカスの視線を向けている湖の方面を馬車内の窓から見ると、水面からひょっこり馬の頭が顔を出しているのが見えた。
しかも1頭だけではなく、2頭3頭と水面から顔を出し始め、馬車と並走するかの様に泳いでくる。
「ウォーターホースに似てるけど違う魔物だな」
「頭に魚のヒレが付いてますね〜」
コウは過去にウォーターホースという魔物が引く馬車に乗ったことがあり、最初はその魔物に少しだけ似ていると思ったがよく見てみると色々と違う部分が多い。
並走しながら泳いでいる魔物の頭には魚のヒレの様なものが付いており、また下半身は馬のような脚ではなく、人魚に似たヒレの形をした脚を持っていたのだ。
そのためウォーターホースではなく、別種の魔物だと判断することが出来た。
とはいえそんな呑気に魔物の観察をしている場合ではないようで、水面から頭だけを出していた馬の魔物達は並走しながら大きく口を膨らますと、コウ達が乗っている馬車に目掛けて大量の水を吐き出してくるのであった...。
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