281話
「え~っと...このお店で本当に合ってるんですか~?」
「キュイ~...?」
「いや...看板に書いてあるし...」
ガッタの言っていた料理屋に到着したのは良いが、店の入口に掛かっている白い布の暖簾は穴開きの状態であり、若干建物の立て付けが悪いのか全体的に斜めになってボロボロである。
そんなボロボロな店に入るような客はおらず、また裏路地という立地の悪さも相まってか、客になりそうな人すら歩いてはいない。
「なるほど。客が少ないって言っていた理由が分かるな」
「なんでこんなところでお店をやってるんですかね~?」
「さぁ?とりあえず入ってみるか」
何故こんなところで料理店をしようと思ったのか分からないが、とりあえず店の中に入ってみると意外にも綺麗なテーブルや椅子が並べられており、外観からは想像もできないような良い雰囲気の店であった。
もし店の外観が良く、大通りにこの様な店があればそれなりに流行っていたのではないだろうか。
まぁ店の外観からして客は最初からいないと思っていたが、まさか店主や店員すら不在だとは思っていなかった。
「誰もいないですね~」
「むぅ...タイミングが悪かったか?とりあえず外で待ってみるか」
流石に店の中で許可を得ずに勝手に待つのはあまりよろしくないということで、外で待つために店を出ようとすると、1人の男が穴だらけの白い暖簾をくぐって店の中に入ってきた。
「おっほ!やぁ~とお客さんが来てくれたぜ!」
その男は全身を料理人のように白い清潔そうな格好をしているが、前掛けには真っ赤な赤い血が付いており、右手には血が滴る包丁を左手には首を落とされた見たこともない鳥の魔物を持っていた。
男自体も完全に堅気の仕事をしているような顔をしておらず、目つきも鷹のように鋭いため、コウ達は少しだけ後退りしてしまう。
そんな男はコウ達を見るや否や、口を半月状にしてにやりと笑うので若干、恐怖心を煽られるが言動を見る限り、この魔食堂で働いている人なのだろう。
「あーここの店主に会いに来たんだが今出掛けてるのか?」
「んー?俺様が店主だぜ?なんだ客じゃ無いのか?」
どうやら今出会った目の前の男が店主だったようで、まさか客ではなく、尋ね人が来るとは思っていなかったのか、不思議そうな顔をしていた。
まぁ知り合いではなく、見ず知らずの人が会いに来たのだから不思議そうにするのは当然だろうか。
「ガッタからあんたのことを紹介されて来たんだ」
「おぉガッタの知り合いか!俺様はリクトンって言うんだ!よろしくな!」
ミルミートの店主であるガッタの名前を出すと嬉々とした声で、手を握られながら自己紹介をされるがリクトンの手は血で濡れているため、ぬるぬるとして気持ちが悪い。
「おっと悪りぃ悪りぃ汚れちまったな!これで綺麗にしてくれや!」
リクトンは謝りながらコウの目の前に球状の水を作り出してきたので、血で濡れた手を突っ込むと綺麗に洗い流してく。
どうやらこのリクトンという男はコウと同じで水魔法を使えるようである。
「そういや俺様に会いに来たって話だが何の用なんだ?」
「あぁそうだった。リクトンさんは料理が得意なんだよな?」
「あったりめぇよ!魔物料理なら何でもござれだぜ!」
料理が得意かどうか聞いてみるとリクトンは魔物の素材を使った料理の腕には相当の自信があるらしい。
そんなに自信があるのならば、マッドロブスターを使った美味しい料理を知っているかもしれないし、作れるのかもしれない。
「おぉ...じゃあマッドロブスターの料理を知ってるか?」
「勿論知ってるぜ!俺様の店にメニューとしてあるぜ!食材が無くて出せねぇがな!」
マッドロブスターの料理を知っていて、尚且つこの店にメニューとして存在しているのならば話は早い。
ここはこのリクトンという男に今現在、手持ちとしてあるマッドロブスターの肉を調理してもらった方がいいだろうか。
「実はマッドロブスターの肉を持ってて料理を作って欲しいんだが...」
「おぉ!食材を持ってるのならいくらでも作ってやるが条件がある!」
「条件?」
料理を作ってもらえるらしいが条件があるようなので、とりあえず話を聞くだけは聞いておいたほうが良いだろう。
お金で解決できるようなことであれば多少の出費は覚悟している。
またそれ以外のお願いでもこれまで冒険者ギルドで色々な依頼をこなしてきた経験があるため、ある程度のことならこなせる自信はある。
「俺の腕は良いんだが何故か客が来ねぇ...」
「まぁ...それはそうだろうな...」
「そうでしょうね~...」
リクトンは腑に落ちないかのように喋りだすが、客が来ないことに悩んでいるようだ。
とはいえ裏路地という立地条件が悪く、また全体的に外観も悪い店へ料理が絶品と言われても入る客はかなり少ないのは当たり前である。
寧ろ、何故こんな立地の悪い場所に店を立ててしまったのかが不思議な程である。
というかそんなに悩んでいるなら、この場所から移店しろと言いたいところであるが、大通りに店を移店するとなるとそれなりにお金が必要になるため、簡単ではないだろう。
「だから...!」
「だから?」
「俺の店に客を呼んでくれ!それが条件だ!」
リクトンは間を置き、両手をギュッと握り締めてこぶしを作り出すと、この客が1人も来ないような魔食堂へ客を呼び込んできて欲しいという難題を路地裏に響き渡るかのようにコウ達へ言い放つのであった...。
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