280話
「いらっしゃーい!美味しく新鮮なお肉がはどうですかー!」
ローランにある肉屋のミルミートに到着すると入り口周りでいつものように小麦色の健康的な肌に綺麗な三つ編みをした若干年上の活発的な看板娘が客呼びをしていた。
ミルミートはやはりフェニのお陰なのか客入りは以前よりも良く、これなら料理が得意な人物の1人や2人ぐらいいるだろうし、もしかしたら名のある料理人を店主が紹介してくれるかもしれない。
「あっ!君は...あの鳥さんの子だ!」
「あの鳥さんの子じゃなくて俺の名前はコウだ」
「コウ君っていうんだね!私はリネッタっていうんだよー!よろしくね!」
看板娘は自身の事をリネッタと名乗り、コウの手を両手で取ると縦に振りながらブンブンと握手を交わしてくる。
「じゃあ私は忙しいからまたね!」
ある程度握手を交わすとリネッタは満足したのか手を離し、再び客寄せを始めながら大通りの人混みの中へと消えていってしまった。
「元気な子ですね〜コウさんはあれくらい元気な子のがいいですか〜?」
「いや何の話だよ...とりあえず中に入るぞ」
外からでも分かっていたが、店内に入るとそれなりの客が入っており、店主である坊主の男は忙しそうに色々な肉をせっせと切り分けていた。
また以前来た時には居なかった、看板娘と同じぐらいの年齢だと思われる女の子がカウンターに立って、客の相手をしながら切り分けられた肉を手際よく梱包している。
そんな2人は仲睦まじく仕事をしているので、もしかしたらもう1人の娘さんなのかもしれない。
「何だか忙しそうだな」
「そうですね〜少し待ちますか〜」
流石に忙しい時に話しかけるのはあまりよろしくは無いと思ったため、暫くの間、店内にある肉を見たりして忙しそうな時間帯が過ぎるのを待っていた。
そんな時間つぶしをしていると時折、コウの頭にいるフェニに向かって話しかけ、肉の切れ端をくれる客がちらほらと現れたのだ。
中にはフェニに向かって両手を合わせて拝んでいる者までいるので、訳がわからず、とりあえず近くで拝んでいた1人のお爺さんに話を聞いてみることにした。
「なんで拝んでるんだ?」
「おんやぁ?知らないのかい?君の頭に乗っている金色の鳥さんは幸運の鳥と呼ばれているんじゃよ」
どうやらいつの間にかフェニは幸運の鳥と呼ばれるものとなっており、ここらに住んでいるものからは拝まれるような存在になっているようだ。
とりあえずコウは頭の上に乗ってふんぞり返っているフェニを掴んで頭から下ろすと、近くのある台にそっと置いて新たな信仰の誕生した瞬間である。
そんなことをしていると店主は客が集まっている中心部にいた、コウ達に気がついたようで肉を切り分けている手を止め、忙しいというのに片手を上げて軽く挨拶をしてきた。
コウも同じように片手を上げて挨拶すると、拝んでいる人達の集まりから抜け出し、ここに来た目的を話すために肉の切り分けをしている店主の所まで移動する。
「おう...いらっしゃい。今日は何の肉を買いに来たんだ?」
「いや...今日は肉を買いに来た訳じゃないんだ」
だったら肉屋に何しに来たんだ?と店主の頭にクエスチョンマークが浮かぶのが、目に見えて分かり、コウはここに来た事情を事細かに説明していく。
「なるほどな...だったら腕の良い料理人を紹介してやる。魔食堂って店に行くといい」
「店をやってるなら忙しいんじゃないか?」
「いや...そいつの店はまぁなんというか...ともかく暇してる筈だ」
料理の腕が良い筈なのにお店自体の客足が少なく、暇なのは一体何故なのか...。
若干不安はあるものの肉屋の店主がわざわざ嘘をついて得になるようなことはないだろう。
まぁ店の名前からして明らかに魔物を取り扱っているような店だというのは何となく分かる。
「俺の名前はガッタっていうんだがそいつに会ったら俺の名前を出すといい」
「わかった。そういえば店は何処にあるんだ?」
とりあえず魔食堂という料理店が何処にあるのか聞いてみると意外にも近くにあるとのこと。
ただ裏路地の中に入った場所にあるようで、少し入り組んでいる道らしいが、店自体は一目見れば分かるらしい。
「ありがとな。次は肉を買いに来るよ」
「あぁ...その時はまた多めに見繕ってやる」
マッドロブスターを美味しく調理できそうな人物も見つけたということなので、とりあえず店主であるガッタと別れ、話を聞いた魔食堂という場所に向かうために店を出ると、信仰されていたフェニが多くの肉の切れ端を口に咥えて戻ってくる。
これだけ間食していたら腹が一杯になって、マッドロブスターは食べれなくなるんじゃなかろうかと思ったが、フェニに聞くとまだまだ食べれるらしい。
もしかしたら成長期なのかもしれないが、食べ過ぎに気をつけないと太ってしまうので、軽く注意はしておくことにした。
そして店から出たコウ達は大通りから路地裏へ入り込み、入り組んだ道を通ってガッタから聞いていた場所に到着すると、そこには魔食堂という名前の書いてある大きな看板が掲げられたボロボロの店が姿を現すのであった...。
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