268話
無事ローランに到着したコウ達はエルフであるリリアに精霊玉を加工してもらいたいので、とりあえずはジャン達の行方を知るため、冒険者ギルドへと訪れていた。
昼食を食べてからということもあってかギルドで働いている者達は眠たそうに動いており、昼過ぎはまだ冒険者達が依頼から戻って来ていないためか閑散としているようだ。
そのためか今はそこまで忙しく無いようで、中には休憩後の休憩をしようとしている者までいたりする。
まぁ冒険者ギルド側は働く時さえしっかりと働いて貰えば良いというスタンスなのだろう。
そしていつもの受付を見ると誰もいないので、何処に受付をしている者がいるか周りをぐるりと見渡すと、冒険者ギルド内にある酒場の机ですやすやと寝息を立てながら昼寝を楽しんでいるのを見つけた。
あれだけ気持ちよく寝ているのを見るとなんだか悪戯をしたくなるのは何故だろうか。
「面白いこと思いついた」
「面白いことって何をするんですか~?」
「まぁ見てろって」
コウは何かしら思いついたようで、ニヤリと笑みを浮かべながら気持ちよく食後の昼寝をしているサーラへこっそりと近づき、静かに魔法で小さな氷の結晶を作り出すと、隙だらけの背中の中へ放り込む。
「ひゃん!なっ...何なんですか!?」
すると気持ちよく寝ていたサーラは艶っぽい声で鳴き、跳ね起きると背中に入り込んだ異物を取り出すため、シャツテールという腰の裾周りの部分をバタバタと必死に扇ぎだした。
そんな必死な姿を見たコウとライラは悪戯が成功したということで、カラカラと2人で笑っていると背後から殺気を一瞬だけ感じ取り、頭の上に乗っていたフェニは危機を感じたのか何処かへ飛んでいってしまう。
「何するんですか!」
「いでっ!」
「痛いです~!」
そして怒気のこもった怒りの言葉をサーラが言うと同時に、コウとライラの頭目掛けて思いっきり、げんこつが飛んできた。
突然、現れた痛みに頭を抱えながらコウとライラはその場でしゃがみ込んでしまい、目に涙を溜めながは振り向くとそこには氷の結晶を取り出し終えた鬼の形相のサーラが立っており、心地よく寝ていたのを邪魔されたのが、かなりご立腹のようだ。
「とりあえず正座して下さい」
2人はサーラからその場で正座するようにと指示が出されるので、素直に従い正座して次の言葉を待つ。
「何か言うことがあるんじゃないんですか?」
さて...悪いことをしたらまず最初に何を言うべきか?それは謝罪である。
「...ごめんなさい」
こういうのは早めに謝れば謝るほど良いと古事記にも書いてあった気がしないでもないのでコウはすぐに謝ることにした。
「コウさんが悪いんですよ~コウさんが...」
「ライラさん?」
「え〜っと...すみません~私も悪かったですって~」
ただライラは少しだけ口答えして主犯であるコウが悪いと責任逃れをしようとするが、一緒に笑って止めなかったというのは同罪ということになり、サーラからの圧を感じるとすぐに謝っていた。
「全くもう...今回だけですからね!次はもっと怒りますから!」
とりあえずは許してもらえたが、釘をしっかりと刺されたコウとライラは昼寝をしているサーラに今後は悪戯をしないと胸の中に刻む。
「それにしてもお久しぶりですね」
「あぁ。ずっと遠出してたからな」
ここ最近は王都やドワーフの国へ向かったり、イザベルの別荘に行ったりと約2週間ほどローランから離れていたので、確かにサーラと話すのは久しぶりといえば久しぶりである。
「よいしょっと...本日のご用件はなんですか?Bランクの方があまりいないので良い依頼も余ってますよ!」
酒場から受付まで話しながら移動し、年寄り臭いことを言いながら椅子に座ったサーラからBランク向けの依頼書を次々と見せられる。
とはいえ今回の目的は依頼を受けることではなく、ジャン達が今はどこで何をしているのかを聞きたいだけである。
「依頼は今のところいいや。Dランクのジャンって奴の居場所を知りたいんだけど...」
「あーなるほど人探しでしたか...わかりました。Dランクのジャンさんですね」
コウに「調べるのでちょっと待ってくださいね」と言い足したサーラはまず最初にジャン達が何かしらの依頼を受けていないか、受付の机の上に積み重なるように束ねて置いてある依頼書をパラパラとめくり、速読をするかのように確認していく。
「ありました。んーっと...本日の早朝から依頼を受けているみたいですねー」
「なんて依頼なんだ?」
「大量発生したコーラスフロッグの討伐みたいです」
コーラスフロッグ?なにやら聞き慣れない魔物の討伐依頼を受けているようだが、Dランクの依頼ということも考えると難易度的にそこまで難しくないだろうし、早朝に出ていっているのならそこまで時間は掛からない筈である。
「じゃあここでのんびり待っていればいずれ帰ってきそうですね~」
「確かにそうだな。ここでのんびりお茶でもしながら待つとするか」
「おっ!いいですねー!お茶なら用意しますのでお菓子お願いします!」
ライラの言う通り、ここでお茶会をしてのんびり待っていればジャン達の実力ならDランクの依頼ならすぐに終わらせてくるだろうと思い、コウ達は酒場の隅を借りて暫く待つことにした。
というか先程まで昼休憩後の昼寝をしていたサーラも参加しようとしているが、もう何も言うまい。
しかしいくら待てど暮らせどジャン達が依頼から戻ってくることはなく、いつの間にか時間帯は夕方に差し掛かっていた。
まだローランに戻ってきたばかりで、宿も取っていないコウ達は泊まれる場所を確保するため、一旦仕切り直していつもお世話になっている小鳥の止まり木へ向かい、明日の早朝にもう一度ジャン達が戻ってないか冒険者ギルドに訪れることにしたのであった...。
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