263話
「なんでアクエールが...?あのバンシーはどうなったんだ?」
バンシーが居た場所を確認しようとするも、目の前にアクエールが立っているため見えず、コウは身体を傾けて覗くも、先程まで戦っていたバンシーは池の中心部におらず、凍った黒い池が目の前に広がるだけであった。
「貴方様のお陰で私は身体を取り戻せたようです。ありがとうございます」
「身体を取り戻せた...?一体どういうことなんだ?」
言われたことがいまいち理解できていないコウはアクエールに疑問をぶつけると今までの状況を事細かく說明してくれた。
時を遡ること十数分前。分身を操ってコウを案内しようとしたが、力が安定しなかったためか操る分身が消えてしまった後、アクエールはコウが来るまでに池が汚くなった原因を1人で探ることにしたらしい。
そして謎の黒いオーラを纏まとった水晶石に似た鉱物が、水に触れるように池の縁へ何個か埋め込まれており、その水晶石から黒い油のようなものをどろどろと出しているのをコウが到着する前にアクエールは見つけてしまったようだ。
その水晶石がなにか分からないが、現在進行系で池の水を汚しているので、アクエールは取り除くため近づくと、水晶石は鈍く光り輝いた。
すると残り少ない力をいくつかの水晶石の中へ分断されるように吸い込まれ、またアクエール自身も1つの水晶石に封じ込められたとのこと。
いくつかの水晶石に力を分断され、封じ込められたアクエールは外に出ることが出来ずにいると、水晶石が纏っている黒いオーラのようなものに身体を包み込み、意識がある状態で身体の自由を奪われてしまったらしい。
「じゃあさっきのバンシーはもしかしてアクエールだったのか?」
「そうなります。不完全な状態でしたし貴方様のお陰で元の姿に戻ることが出来ました」
「じゃあ水晶石を壊してなかったら...」
「あのままの状態でいましたら完全なバンシーへと変化していたでしょうね」
不完全なバンシーの状態であったとはいえ、なんとか元の姿に戻ることが出来たが、もし完全にバンシーへ変化してしまっていたら元の姿に戻す手段は無いため、水晶石の破壊は間違いではなかったようだ。
「その...出来れば池の状態をそろそろ元に戻して欲しいのですが...」
「あぁそうだったな」
とりあえず凍らせていた池の水を戻すため、サンクチュアリの石突の部分で凍った池をコンコンと軽く叩く。
すると叩いた部分から広がっていくように溶けていき、元の水へ変化していった。
ただし黒い油のようなものがまだ全体的に広がって浮いているので、次にこれをなんとかしないといけない。
「この黒いやつはどうすればいいんだ?水魔法で押し流せばいいのか?」
「これは怨念のような物です。貴方様の作り出す清浄な水魔法ならば浄化できるでしょう」
アクエールの言っていることはあまり理解出来ないが、とりあえずコウは大量の水を作り出せば良いのだと思い、池の中心部に向かって魔法で作り出した水を放水しだす。
池の中心部に放水が開始されると、水面上に浮かんでいる黒い油のようなものはコウの作り出した水に触れると同時に中和していくかのように消えていく。
そして池の水が元通りの澄んだ水になると、ふらふらと何処からか現れた多くの小精霊達が蛍のように光りながら、ふわりふわりと水面上を飛び交い始めた。
「これで良いのか?」
「えぇ助けて頂きありがとうございました。これが御礼の品です」
アクエールから3個程、手渡されたのはビー玉ほどの大きさをした宝玉であり、薄い水色で透き通るように綺麗で、中をじっくりと見てみると水のようなものが渦巻き、神秘的な何かを肌で感じる。
「これが精霊玉か...」
「精霊玉の加工に関しては森の民であるエルフが詳しい筈ですよ」
エルフか...。パッと考えても王都の冒険者ギルドでギルドマスターをしている高圧的な態度のダークエルフしか思い出せず、果たして他にエルフの知り合いはいただろうか。
そしてアクエールと話をしているといつの間にか、空は白み始めて夜が明けようとしているので、早く屋敷に帰らないといけない時間となっていた。
「じゃあそろそろ俺は帰らせてもらうぞ」
「貴方様に水精霊様の加護がありますように願って見守っていますよ」
アクエールに別れを告げると、優しさなのか森の中を迷わないように屋敷までの道案内として再び青い光の糸がふわりと宙に浮かぶので、ありがたく、その道案内に沿ってコウは急いで森の中を駆けていく。
そして屋敷の前に到着すると門番としてミルサの姉であるイルサがまだ立っており、外に出る前に渡された白薔薇騎士団の紋章をかたどった通門証を収納の指輪の中から取り出すと急いで返却して、皆が起きてくる前に与えられた自室へ戻った。
まだフェニがぐっすりと寝ている隣で横になると早く寝てしまったためなのか、睡魔が襲いかかってくるので身を委ねていく。
ベッドに入ってどれくらいの時間が経っただろうか?うつらうつらと夢の旅へ出掛けようとしていると部屋の外から白薔薇騎士団の団員達が起きてきたのか微かに小さな話し声が聞こえ始めた。
そして突然、しっかりと鍵を閉めていた筈の扉がガチャリと開き出し、イザベルとライラが突撃してきたが、夢の世界に旅立ちつつあるコウは気づくこともない。
「そろそろ朝食のお時間ですよ」
「コウさん~!朝ですよ~!起きてくださ~い!」
ベッドの上で横になりながら夢うつつの状態であったが、いつの間にか朝になっており、イザベルとライラに左右から身体を揺らされ、夢から現実に引き戻されるコウ。
そしてそんなコウを見守るかのように窓の外からアクエールや小精霊達が覗き込み、微笑んでいるのであった...。
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