261話
「何だこれ?もしかしてこれのことか?」
確かに謎の黒いオーラを纏まとった水晶石から出てくるドロドロとした黒い油のようなものによって池の水が汚染されているように見える。
ただこれは果たして素手で触れても大丈夫なのだろうか?いや...見るからに危険なものにしか見えないので、素手で触れるのは遠慮した方が良いかもしれない。
とりあえず原因の元でありそうな地面に埋まっている水晶石を取り除かないといけないということで、いつも愛用している武器であるサンクチュアリをスコップのように使い、地面から掘り起こすことにした。
「よい...しょっと」
水晶が埋まっている地面の近くに向かってサンクチュアリを突き刺し、何度か周りの土を掘って水晶石を掘り起こそうとするも、しっかりと埋まっているためか全てを掘り起こすのはそれなりの時間がかかりそうである。
「全然掘れる気がしないな」
このままのペース原因の元であるであろう水晶石を掘り起こそうとしていたとしても、いくら時間があっても足りないため埒が明かず、これでは夜が明けてしまう。
また水晶石にサンクチュアリの先端が触れたり、多少なりとも衝撃を与えたとしても何も起きることはなかったので、コウは物は試しということで水晶石の破壊を試みることにした。
「よし...いくぞ」
サンクチュアリを両手でしっかりと握って思いっきり、水晶石に向かって振り下ろすと呆気なく、砕け散ると共に水晶に纏っていた黒いオーラが夜空に向かってすっと消えていくが、今のところ何も起きる気配はないし、ドロドロとした黒い油のようなものも出てこなくなっていた。
あとは全部破壊して汚染されている水の部分だけを水魔法で掬い上げて、何処かに捨てれば終わるだろう。
「特に問題無さそうだな。残りの水晶も壊しておくか」
次々とコウはもぐら叩きのようにサンクチュアリを振り下ろして水晶石を破壊していくと、先程と同じように夜空に向かって黒いオーラが昇っては消えていく。
全部の水晶石を破壊し終えたコウはサンクチュアリを元のブレスレット状態に戻すと、ひと仕事を終えたかのように身体を伸ばして夜空を見上げる。
「...ん?何だあれ?」
コウの視線の先には少し見づらいが、満月に重なるかのように水晶石に纏っていた黒いオーラが集まってタバコの煙のようにふわりと浮かんでいた。
その浮かんでいる黒いオーラは生き物かのように動き始めて徐々に球状へと変化していき、その中にはぐるぐると何かが動き回っているが、正直あまり良いものではないということが分かる。
「氷槍!」
その場で立って見ていて良くないと思ったコウは一瞬で思考を切り替え、先手必勝と言わんばかりに氷槍を撃ち込む。
そして一直線に勢いよく氷槍は飛んでいくも、到達する前にその球状の黒いオーラが水風船のように膨らみ、弾けると中でぐるぐると動き回っていた何かが甲高い声で叫びながら飛び出してきた。
残念なことに飛び出してきた何かは空を飛ぶ氷槍を軽々と避けると池の中心部でゆらゆらと浮かんでいた。
「あー...もしかして水晶石を壊すのは良くなかったか...」
まさか水晶石を壊すだけでこんなことになると思っていなかった。
やはり変なものには手を出していけないということを少し反省しつつ、出てきてしまったものはしょうが無いと諦めて、ブレスレット状態に戻していたサンクチュアリに再び魔力を流し、しっかりと握って戦闘態勢を整える。
「あの飛び出してきたやつ本で見たことあるな...確かバンシーっていう魔物だったか?」
池の中心部で浮かんでいるのはバンシーと呼ばれている魔物だ。
見た目は人間の幽霊に近しい姿をしているが、ボロボロの黒い布を身に纏い、小枝のように細い両腕は身体と同じぐらい長く、乱れた長い黒髪が風によってゆらゆらと揺れて隙間から血走った瞳が見え隠れしている。
事前にバンシーという魔物の情報を知っておらず、真夜中にあんな魔物を見てしまえば、夜中といことも相まって恐怖に駆られてしまい、その場から逃げ出してしまったとこだろう。
通説によれば元々、バンシーは妖精と呼ばれているものだったらしいが目の前で浮かんでいるバンシーにはそのような神秘的な存在の感じはせず、寧ろ禍々しい。
池の中心部で浮かんでいるバンシーは自身の長い腕を伸ばして真下にある池の水に触れると、その部分から先程の黒い油のようなものが波紋のように広がっていく。
黒い油のようなものが池全体に広がりきると、今度は何本もの黒い触手がウネウネと空に浮かぶ満月を落とすかのように立ち昇り始め、ある程度の高度に到達すると全ての触手がピタリと動きを止めた。
するとバンシーは血走った瞳でコウを捉え、甲高い声で叫び声を上げながら指をさされる。
「どうやら見逃してくれる気は無さそうだな」
すると先程まで動きを止めていた全ての黒い触手が再びウネウネと動き出し、次々とコウに向かって伸びていくのであった...。
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