259話
「で...お願いってなんなんだ?」
「えぇ...貴方様にお願いなのですが私を助けて欲しいのです」
助けて欲しい...?隣で座っているアクエールに何かしらの危機が迫っているような感じはしないが、誰かに追われているのだろうか?
それとも身体の調子が悪かったりするのだろうか?
ともかく助けて欲しいということだけでは現状、抽象的すぎて何も分からないのでこれはまた深く話を聞く必要がある。
「助けて欲しいってどういうことなんだ?」
「えぇっと...その上手く説明しづらいのですが...」
詳しく事情を聞いてみると、この屋敷から少し離れた場所に池があるそうなのだが、アクエールはそこに住む精霊とのこと。
そして助けてほしいと言っていたことについては、そのアクエールが住んでいる池の水が汚れているので、その汚れをなんとかしてという内容だった。
また何故、わざわざコウに助けたを求めたのかというと、コウの持つ水魔法へ圧倒的適正のある魔力に惹かれたというのもあるが、その膨大な魔力で新たな水を作り出し、今汚れている水を全て押し流して欲しいらしい。
精霊というのならば自分でなんとか出来ないのだろうか?と思ったのだが、水が汚れているためか、大部分の力を失っているみたいである。
だったら力を失う前になんとかしろと言いたいが、汚れてしまったのならばしょうが無い。
そしてそれ以外にもどうして汚れてしまったのかという原因を特定して、それもなんとかしてほしいということであった。
「それをして俺に何か良いことはあるのか?」
「勿論タダでとは言いません。私の力を込めた精霊玉を貴方様に授けます」
「...精霊玉?なんだそれ?」
精霊玉という聞いたこともない物を渡されたとしても使い道がわかないし、まず精霊玉とはなんぞや?という疑問も出てきてしまい首を傾げ、頭を捻ってしまう。
「精霊玉というのは精霊の力を込めた宝玉となります。きっと貴方様の力になるでしょう」
「うん...?まぁ良いものというのは分かるんだけどさ。ほらよくある加護みたいなのは貰えないのか?」
まぁ水を綺麗にするだけで精霊玉という物珍しい物が貰えるのなら引き受けるのは良いだろう。
ただ精霊と言えば加護である。隣で座っているアクエールは水の精霊ということなので実際に加護というものが存在するのかどうかは知らないのだが、あるならば追加報酬として貰っておいて損はない。
「申し訳ありません...私は大精霊ではないので加護を貴方様に授けることは出来ないのです」
「そうなのか。でも加護ってのは存在するんだな」
どうやら加護という物は存在はするらしいがアクエールの持つ力では無理なようで、ここは諦めるしか無い。
「じゃあ明日に池まで案内してくれ。そうすれば綺麗にするから」
「その...出来れば今から...私もそこまで現れることが出来るほど力がないので...」
今からにでもアクエールは汚れてしまった池を何とかして欲しいようであるが、深夜帯のため、あまり動きたくはない。
とはいえ明日、行くとするならばきっとイザベルやライラ達も付いて行くというだろうし、別荘に来てバカンス中だというのに流石にそれは申し訳ない。
コウが招いた問題ではないが、迷惑をかける訳にはいかないので目も覚めていることなので、ささっとこのお願いを終わらせることに決めた。
「はぁ...じゃあ今から案内してくれ」
「ありがとうございます。では早速案内致します」
アクエールに汚れてしまった池までの案内をお願いすると、まさか今から引き受けてもらえるとは思っていなかったようで、安堵の表情を浮かべていた。
そしてコウは屋敷内の敷地からとりあえず出ないといけないので、固く閉ざされている門までアクエールと共に向かって歩き出す。
屋敷の敷地内へ出入りするための固く閉ざされた門の前に到着すると、門番が立って見張りをしているが、遠目で見る限り、昼間にいた者とは違うようである。
「ん...?こんな時間に何のようかな?」
「ミルサじゃないか。なんでここでも門番をやってるんだ?」
「はっはっは!ミルサは私の妹だよ。私はイルサというんだ」
門の近くで立っていた者はいつも白薔薇騎士団の屋敷で門番をしているミルサと全く同じ体型、同じく顔ということで勘違いしてしまったが、どうやら姉妹だったようで目の前にいるイルサは姉らしい。
「おぉ...かなり似てるな。ちょっと外に用事があるから出てもいいか?」
「問題ないよ。じゃあ帰ってきた時にこの紋章を渡してね」
門番であるイルサから外に出る前に白薔薇騎士団の紋章をかたどった通門証を渡されるので、無くさないように収納の指輪へと仕舞い込んでいく。
「あっ...」
「どうしたんだい?」
そういえば小精霊なら普通の人は見えないという話であったが、アクエールならイルサなどの一般人に見えてしまい不審者として捕まるのではないかと脳裏をよぎる。
何かしら言い訳などを考えながら振り返るも何故かアクエールはそこにはおらず、ただ様々な種類の美しい花や綺麗に剪定された木が植えられた広い庭が視界に映るだけであった。
「いや...なんでもない」
イルサは不思議そうな顔をしているので、何でもないと言いながらコウは言葉を濁しつつ、屋敷の外へ逃げるように出た。
しかし先程まで一緒にいた肝心な案内人であるアクエールが、いつの間にいなくなっているため、その場に留まるのは不信がられると思い、とりあえず人目のつかない場所まで歩いて行くのであった...。
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