251話
「誰が連れて行かせるかよ!」
「コウさん!」
飛んでいくダルガレフの弟子を連れて行かれまいとコウは跳躍して服の袖を片手で掴むも引っ張られる力のが強いためか一緒に空を飛んでいってしまった。
「ひぃぃぃ!何か身体に巻き付いていやす!」
空を飛びながら弟子の身体周りを触ると確かにブヨブヨと柔らかい透明な何かが巻き付いているのがわかり、それは天井に向かって伸びているのでコウはサンクチュアリを目の前に向かって縦に断ち切るように振るった。
すると何かを切ったような感触がコウの手に伝わると同時に弟子の身体に纏わりついていたものは剥がれ、そのまま空中から一気に地面へと落下していく。
「よっと...」
「無茶はしないで下さい。大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。あんたは後ろに早く下がってろ」
「いてててて...分かりやした!あとはお願いしやす!」
サンクチュアリの刃先には真っ赤な液体がべっとりと付いているので触ってみると鉄臭い血の匂いがし、地面には先程切り落としたであろう何か赤い舌のようなものが落ちている。
何かしらの魔物という情報は得ることが出来たが、肝心の魔物は天井付近に張り付いているのか姿が確認できない。
とりあえずダルガレフの弟子を後ろに下がらさせて先程の天井付近を確認するが、怪しいのはあの黄色く光る2つの光球だろう。
「まぁ多分あれだろうな...氷槍」
大広間の天井に向かって氷槍を打ち込むと黄色く光る2つの光球は氷槍から逃れるように動き出し、天井からはポタポタと真っ赤な血が降ってくる。
そして氷槍が大広間の天井へ直撃すると見たことのない鉱石が含まれている大きな岩の破片がいくつも落ちてくるので、逆にこちら側が被害を受けそうになる形となってしまいコウ達は入口付近まで下がった。
またこれ以上、天井に向かってコウが氷槍などの威力を重視した魔法を撃ち込むとダンジョンと違って坑道のため、崩落しかねないのでもう撃ち込むことは出来ないだろう。
「すまん。何も考えてなかった」
「怒ってませんよ。ただ次からは気をつけてくださいね」
「...わかった」
おずおずと隣に立っているイザベルへ謝罪から入るも、どうやら怒っている訳ではなかったのだが、しっかり釘を刺されてしまったので、コウはこの場では出来るだけ坑道内に影響がない魔法を使うことにした。
「どうします?必要な鉱石は集めることが出来たのでここは撤退しませんか?」
とりあえずはダルガレフの弟子を救い出すことに成功したし、天井に張り付いているであろう魔物の動きが読めないため、確かにイザベルの言う通りにしたほうが正解なのかもしれない。
「じゃあゆっくり後ろに下がるか」
「そうしましょう」
「あっしは案内もあるんで一番先頭にさせてもらいやす...」
コウ達は無駄な戦闘を避けるために大広間の入口付近を見ながらゆっくりと逃げるように後退しつつ、移動していると大広間の方向からどしんっ!と何か上から大きな物が落ちた音と振動が坑道内に響き渡った。
「なぁ...もしかしてだけど」
「逃してくれる気は無さそうですね」
ぺたっ...ぺたっ...という何か歩く音をさせながら、大広間の方向からゆらゆらと空中に浮かぶ2つの均等に並んだ黄色い光球がこちらへと向かってくると共に透明だった何かは徐々に姿を現していく。
姿を現した魔物はカメレオンに似た、見た目ではあるのだが、全身の鱗は別の角度から見れば様々な色に変化する鉱石のようなもので出来ており、黄色く発光していた部分は目だったようで、ギョロギョロと不規則に動いていた。
また舌を切られたことがかなり気に食わなかったのか、かなりお怒りの様子である。
「あの魔物について知ってることはあるか?」
イザベルとダルガレフの弟子にあの魔物についての情報を聞くも誰も知らないのか首を横に振る。
何かしらの情報が欲しかったが、誰も知らないのであればしょうがない。
また相手はやる気満々だとしてもこちら側にはそんな気もないため、今回ばかりは見逃してほしいところではある。
しかしコウ達の願いとは裏腹に、けたたましい鳴き声で叫ぶと目の前いるカメレオンの魔物は大きな口を開き、こちらに向かって走ってくる。
「走るぞ!」
コウの掛け声と共にダルガレフの弟子を先頭にして坑道内の出口に向かって走り出すが、どうにもドワーフという種族は走るのが苦手なようでとても遅い。
「くっ...氷壁!」
これでは追いつかれてしまうと思い、コウは自身達の走り抜けた場所に向かって氷壁を作り出し、何とかカメレオンのような魔物の進行を邪魔をすると勢いよく氷壁に衝突するが、まるで薄い壁を壊すように破壊されていく。
「おいおい嘘だろ!?あれを壊せるのかよ!」
「多分勢いよくぶつかったからじゃないですか?」
「はぁ...はぁ...!これでも喰らいやがれぃ!」
何か対策方法を考えるも思いつかずにいるとダルガレフの弟子が息を切らしながら走りつつ、後ろに向かって何個かの赤いヒビが入った黒い鉱石を投げつける。
するとコロコロと転がるその鉱石に気を取られたのか一瞬だけ足が止まると、カメレオンのような魔物は美味しそうにぺろりと食べて再び、コウ達に向かって走り出す。
「ひぃ~!爆発する鉱石のはずなのに爆発しないのは何故でありやすかぁ!」
「そんなもの投げて坑道が崩落したらどうするんだよ!」
そんな危険な鉱石を持っていたのか...と思いつつカメレオンのような魔物を見ると途中途中、走りながら地面に転がっている鉱石を器用に切れた舌で拾って食べつつ、向かってくるのでもしかしたらあの魔物は鉱石が好物なのかもしれない。
「...なぁ今日集めた鉱石をばら撒いてもいいか?」
「はぁ...!はぁ...!多めに集めやしたんで多少は問題はないはずでありやす!」
ダルガレフの弟子から許可を得たのでコウは収納の指輪から次々と集めた鉱石を後ろに向かって投げていくと、それに釣られたカメレオンのような魔物は足を止めて食べ始める。
「よし!このまま逃げるぞ!」
その場から逃げるように走り出すと、カメレオンのような魔物は転がっている鉱石を夢中に食べているのか、逃げ出すコウ達に気づいていない様子である。
そのため、何とか逃げ切ることに成功したコウ達は無事に坑道の入口付近までたどり着くことに成功したのであった...。
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