249話
「ふんっ!あいもかわらず汚ねぇ鍛冶屋だな」
「ラッガス...!何しにきよった!」
入り口に立っている訪問者はラッガスと呼ばれたドワーフというらしく、体格は変わらないぐらい太ましいが、赤毛の髪が多く生えているためかダルガレフよりも若々しく見え、頭に乗せているものはゴーグルではなく、黒いサングラスであった。
「誰だ?」
「誰でしょうか?あまり仲は良く無さそうですが...」
「あいつはダルガレフさんと同じ二大鍛治師のラッガスだ」
見知らぬ来訪者にコウとイザベルは首を傾げながらお互いに睨み合っている2人を遠巻きから見ていると、入口から扉と共に吹き飛ばされてきたドワーフ達が立ち上がり、誰なのかを教えてくれた。
どうやらダルガレフと対立し、派閥争いをしているという二大鍛冶師の一人のようで名をラッガスというらしい。
それにしてもそんなダルガレフと犬猿の仲である人物が態々この鍛冶屋まで来たのだろうか。
「王都から刀剣の作成依頼書の調子はどうだ?」
「ふんっ...何故そんなことをお前さんに教えてやらんといかんのじゃ」
「作成の進みが悪かったら俺様が作ってやろうかなと思ってんだ」
「余計なお世話じゃ。お前さん程度の腕では良い刀剣は打てんぞい」
なるほど...ダルガレフとラッガスの言い合いを聞いている限りなんとなくだが、話は見えてきた。
どうやらダルガレフは王都にいるとある王族から刀剣を一振り作成して欲しいと依頼を受けたようだが、ラッガスにはその依頼や話は来なかったため、そのことを妬んでいるようである。
そのため嫌がらせとして採掘場の鉱石をかき集めてダルガレフの邪魔をしているのだろう。
「威勢だけはいっちょ前だなクソ爺」
「早く出て行け半人前。儂は大切な友人の相手で忙しいじゃ!」
「はっ!精々足りない鉱石で頑張るんだな」
嵐のように現れたラッガスはその場から立ち去ると、残されたのは壊された扉の残骸と気まずくなった沈黙だけである。
とりあえず弟子達は壊された扉の残骸を片付け始め、ダルガレフは後頭部をぽりぽりと片手で掻きつつ、深くため息をついていた。
「はぁ...見苦しいところを見せてすまんのう」
「いやそこまで気にしてないけど大丈夫か?」
「なーに問題ないわい。とりあえず今から料理を作るから椅子に座って待っておれ」
あのラッガスというドワーフに会ってからダルガレフはなんだか頭を悩ませている様子であった。
ただそれでも料理はご馳走してくれるようなので悩んでいることについては食事の際にでも詳しく聞けばいいだろう。
もしダルガレフにとって悩み、困っていることならば父親の友人でもあるため、手助けをしたいというのがコウの気持ちではあるのだから。
椅子に座って何だか気まずい空気のまま、暫く料理が出来るのを待っているとダルガレフが鍛冶場から大皿を片手に持ち、気持ちを切り替えたのか、笑みを浮かべながら運んできた。
「待たせたのう!これが自慢のドワーフ料理をじゃ!」
机の上にドンッ置かれた大皿の中心部には真っ白な丸い岩のような物がのっていたのでコウとイザベルの頭にはクエスチョンマークが浮かぶ。
はて...?鍛冶場から持ってきたということなので、もしかしてドワーフという種族は鉱物を郷土料理というのだろうか...?
「ガッハッハ!これから完成させるんじゃよ!」
ダルガレフの片手には鍛冶で使っていた小槌を持ち、真っ白な丸い石に向かって思いっきり振り下ろすとピキピキと亀裂が全対的に入っていき、砕け散る。
そして真っ白な丸い石の中から出てきたのは黄金色に光るまん丸とした肉の塊であり、白い湯気を立ち昇らせつつも食欲を誘うような香草の良い香りが飛び出して部屋内をいっぱいに満たしだす。
「おぉ!美味しそうだ!」
「これは...食欲をそそりますね」
「沢山食べるんじゃぞ!」
頂きますと食事の挨拶をささっと済ませるとダルガレフが手慣れた手付きでフォークとナイフを使いながら切り分け、コウやイザベルの分を小皿に取り分けてくれた。
小皿に取り分けられたドワーフの郷土料理を口に放り込むと、ミントのような爽やかな香りと肉の香ばしい匂いが鼻の中を通り抜け、噛めば噛むほどギュッと凝縮された肉汁が溢れ出す。
そしてあの真っ白な丸い石のようなものは岩塩だったようで、酒に合うほどの塩辛さが一瞬だけ舌の上に残ったが、すぐにその塩辛さは溶けるように無くなる。
確かにこれだけ美味しい料理ならば店にあってもおかしくはない。
「こんな美味しい料理ならなんでどこも出さないんだろ?」
「この料理はドワーフの鍛冶場の火力があって作れる料理での。そこらの厨房や鍛冶場だと火力が足りなくて作れないんじゃよ」
だから鍛冶場からダルガレフは出て来たのだとようやく理解した。
この料理は鍛冶屋を営んでいるドワーフ達が作り出した郷土料理であり、余程良い鍛冶場を持っている者も限られるため、他に真似ができないのだろう。
「いや~美味かった」
「ご馳走様でした。ありがとうございましたダルガレフさん」
「美味しそうに食べてくれて儂は嬉しいぞい!」
そしてある程度、ダルガレフが作った料理を堪能したということでコウは先程の件について切り出すことにした。
「そういえばさっきの件だけど...この前あげた鉱石じゃ足りないのか?」
「むぅ...確かに多く貰えたがまだ他に必要な鉱石があってちと足りないんじゃ」
「期限はいつまでなんだ?」
「あとひと月といったところかのう...そろそろ儂が直接鉱石を取りにでも行こうと思っていたところじゃが...」
あとひと月もすれば王都から使者が来て王族から依頼をされていた一振りの刀剣を受け取りに来るということらしい。
また刀剣を一振り作るのには約半月ほど時間がかかるということでそろそろ足りない鉱石を集めるためにダルガレフ自身が採掘場へ行こうと思っていたようだ。
とはいえダルガレフの留守を見て、先程のようにラッガスが邪魔をしにやって来たりすることもあり、弟子や鍛冶屋が心配な様子である。
「鉱石を取りに行けば良いんだろ?俺達に任せてくれないか?」
「むぅ...しかし儂には返せるもんはないぞい...」
「"大切な友人"だから貸し一つでいいぞ」
コウはダルガレフが先程、ラッガスに向かって言っていた大切な友人という言葉をにやりと笑いながら言い放つとぽかーんと口を開いていた。
「まったく...お前さんら親子には感謝ばかりじゃな...頼む。必要な鉱石を取ってきてくれんか?」
ダルガレフは少しだけ元気そうになってクシャッと皺を作りながら笑うとコウに頭を下げて鉱石を取って来てもらうことを頼み込む。
「任せてくれ。時間ならあるしな」
しかし問題点としてはコウ達は必要な鉱石が何なのかわからないということだ。
ただそれに関してはダルガレフから目利きが良い弟子を1人連れて行けと言われたのでそこは何とかなりそうである。
ということで王族からの依頼である刀剣を作るため、必要な鉱石の分を採掘場へ取りに目利きが良い弟子を1人、仲間として引き連れて向かうのであった...。
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