233話
コウ達はダリアの馬車が停止したため降りて商人のダリアと共にぬかるみに嵌まって身動きの取れない馬車へ近づくと騎士の格好をした数人の男達が泥だらけになりながらも必死に馬車の後ろを手で押しぬかるみから押し出そうとしていた。
ただコウ達が近づいていくと警戒しているのか騎士の格好をした男性1人が腰にある長剣をすぐに抜けるように片手を置いてこちらに向かって歩いてくる。
「なんだお前らは!」
まぁ近くで見ず知らずの馬車が止まり、見知らぬ輩が近づいてくるため警戒するのは当然いえば当然だろう。
「あぁ!僕らは怪しいものじゃないっす!ただの商人と護衛の冒険者っすから!」
ダリアは自身の加入している商業ギルドのギルドカードを手に持ち、両手を上げて敵意がないことを示すのでコウ達も同じ様に自身の持っているギルドカードを掲げてダリアと同じ行動をする。
「あなた達!おやめなさい!」
するとぬかるみに嵌まっている馬車の中から警戒している騎士達に向かって強めに女性の制止する声が聞こえたのと同時に騎士達の動きがピタリ止まった。
もしかしたらダリアの大きな声で言い放った商人と冒険者という言葉が馬車の中にいる人物の耳に入ったので手伝って貰おうと思い騎士達を制止したのかもしれない。
「この声と紋章はもしかして...会えば分かるでしょう」
そしてイザベルは警戒していた騎士達を制止してくれたこの声と馬車の扉に描かれている紋章に思い当たるフシがるようで少しだけ懐かしそうな笑みを浮かべる。
「まさか高ランク冒険者と商人だったとは...先程の非礼を謝ろう。申し訳なかった」
「いやいや大丈夫っす!馬車を押し出すのを手伝おうと思っただけなんで!」
中にいるであろう貴族の一声で冷静になった騎士達はコウやダリアのギルドカードを確認すると先程の態度について頭を下げてくれた。
「じゃあコウさん馬車を押し出すのを手伝うっすよ!」
「いや...とりあえず1人で頑張ってみてくれ」
「えぇ!コウさんそこは手伝う流れじゃないっすか!」
困っている人を助けるのは良いと思うのだが、コウ的には流石に泥だらけにはなりたくないためここはダリアに頑張ってもらうしか無いので前に立っているダリアを応援すると泣きながら足にしがみついてくる。
「足にしがみつくな。泥だらけになりたくないんだからしょうが無いだろ」
「そこを何とか!色々とあるんすよ!」
「もう...しょうが無いですね」
コウとダリアがわちゃわちゃとしだしたのを見かねたイザベルがため息を付きつつ、ぬかるみに嵌まっている馬車に向かって風魔法を使い出し、馬車がふわりと浮き上がると騎士達が声をあげて驚きの表情をしていた。
「な...何事ですのーーー!?」
そして馬車は浮き上がっているため中からは先程の女性の声が慌てたような声が聞こえてきたが馬車が宙へと浮き上がり出すのだから慌てるのは当然だろう。
その慌てた声を聞いていたイザベルは風魔法を制御しながらもくすくすと口元を片手で隠し、まるで悪戯をする子供のように笑っていた。
このようなイザベルの姿はあまり見たことがないので珍しい一面を見た気がし、ちょっとだけ得したような気分である。
風魔法によって浮き上がった馬車はぬかるみがない場所まで運ばれるとそのまま地面に下ろされ、騎士達が無事を確かめるために一斉に駆け寄っていく。
すると馬車の扉が開き、中から先程の声の持ち主であろう女性がゆっくりと出てくるのでつい注視してしまう。
出てきた女性は全体的に真っ黒なドレスを身に纏っているためか綺麗にくるくるとロールされた金色の髪が一層に目立つような女性であり、見た目的な年齢で言えばイザベルに近しい。
「一体何なのですの...それにしてもどうやって助かったのかしら...?」
「久しぶりに会いますね。マリエル」
「その声は...!イザベル!久しぶりですわ!」
やはりというかイザベルの態度から察するに友人であったようでマリエルと呼ばれる女性がスカートの端をつまみながらヒールを履いているというのにもかかわらず上手いこと駆け寄ってくる。
それにしてもイザベルの名前を親しく呼んでいるということは同程度の身分の貴族となるのだろうか。
「こんな所で会うなんて思ってもいませんでしたの!それにしてもどうしてこちらにいるんですの?」
「ドワーフの国へ向かう旅の途中なんですよ。それにしても元気だったみたいですね」
「そういうことなんですの。イザベルこそ元気そうですわね!ところでそちらの方々は?」
マリエルはイザベルの後ろに立っているコウ達の存在が気になったのか首を傾げているので初対面ということで各々は自己紹介するために一歩前に出る。
自己紹介と言っても簡単に名前を言うぐらいでそこまで各々の関係性を言う必要はないだろう。
「冒険者のコウだ」
「私も冒険者をしているライラと申します~よろしくお願いします~」
「僕は商人をしているダリアっす!以後お見知りおきをお願いしたいっす!」
貴族ということはイザベル同様身分が高い人物ということになるのだが、コウ達はついイザベルのように気さくな貴族へ話しかける感覚で自己紹介をしてしまった。
「皆様の名前を覚えましてよ。私はマリエル・リア・ケールナーと申しますの。呼び名はマリエルと呼んで下さいまし!」
しかしマリエル本人はそんなコウ達の態度を一切気にしておらず、また自身のことを名前で呼ぶようにすら言ってくるのが驚きである。
もしかしたらイザベルが仲の良い貴族は大体がこんな感じかもしれない。
そしてお互いに自己紹介も終わったということでこれからどうするか立ちずさんでいるとマリエルが口を開く。
「ここに立ち止まっているのもあれなので私の父が治めている街でお礼をしますの!着いてきてくださいまし!」
一言だけ残すとマリエルは自身の乗っていた馬車へと戻り、騎士達に指示をすると馬車はゆっくりと進み出す。
「なんだか凄い勢いのあるお嬢様だな」
「そうですね~面白い方です~」
「えぇっと...マリエルは昔からあのような感じなので気にしないで下さい」
どうやら近くにあるマリエルの父が治めているという街でぬかるみに嵌まっていた馬車を救ってくれたことに対してお礼してくれるらしい。
ダリアに聞くとその場所まではそこまで距離もなく、夕方頃には到着するようなので今日は暖かいベッドの上で寝ることができ、野宿をせずに済みそうである。
ということでコウ達一行はダリアの馬車に乗り込むとイザベルの友人であるマリエルが乗っている馬車の後をついて行き、街へ向かうのであった...。
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