227話
コウの作り出した分厚い氷壁のせいで建物の天井には既に屋根はなく、吹き抜けの状態のためか美しく輝く月が顔をちらりと覗かせ月明かりが屋内を照らす。
「喋りづらいんだけど」
「おぉっとごめんねぇ手加減できなくてさ。君は顔が良いし傷物にしたら勿体無い」
目の前に中腰で立っている男の質問に対して答えようとするが顎の部分を掴まれているため、喋りづらく文句を言うと心の篭っていない平謝りをしながら顎から手を離してくれた。
「じゃあこれで喋れるよねぇ」
とりあえずこれで喋りやすくなったとはいえ容易に口は割りたくはないし、イザベル達を売るようなことはできない。
ただ質問に対して嘘で返したところでどこかしらで矛盾が生じてしまう可能性もあるだろうし、少しの嘘を混ぜながら上手く答えた方が良いだろう。
現状、この場から無事に生きて逃げ出すことは手足を拘束されているため不可能に近く、魔法を使おうにも何故か魔力が上手く操作できず魔力を込めることができない。
助けを呼びたいところではあるがそんなことをしても他に仲間がいると知られてしまい、応援が来る前に殺されるなど自身の寿命を短くしてしまうだけである。
そのため一瞬だけでも天高く伸びた氷壁がイザベル達や誰かしらの目に入っていることを心の中で祈るばかりである。
もし目に入っていたならば何かしらを察知して応援に来てくれるはずなのだから。
まぁ実際にはイザベル達が今すぐにでもコウの元へ向かっている最中なのだが、今のコウには知らないことである。
「ギルドから頼まれたんだよ。ここまで来れたのはあんたらの仲間にわざと捕まって入った」
「なるほどねぇ...確かにそういう方法なら入れなくもないねぇ」
とりあえずまだコウは嘘は言っていないため目の前に立っている男は筋が通っていることへ納得している様子であり、別のことを考え込むように腕を組んでいた。
「そういえば最近ディザーの奴が嗅ぎ回ってたけどこのためなのかなぁ...?」
ここ最近、冒険者ギルドのギルドマスターであるディザーが裏ギルドについてコソコソと調べていたことにも気づいていたらしくそんな独り言をボソリと呟いていた。
また独り言の中では何故かディザーの名が出ており、その名を懐かしむように呟いていたりしたので過去に関わりがあるのだろうか。
「ギルドマスターと知り合いなんだな」
「ん~知り合いといえば知り合いかなぁ...あぁ!これは少し昔の話なんだけどね...」
「おい。無駄話をしている暇はないぞ」
この場のいる者達についての情報を少しでも集める必要があるだろうと思いコウはディザーのことについて質問を投げかけるも別の男が無駄話をするなと間に口を挟み釘を刺される。
なんとか話を逸したり時間を稼ぎたいところではあるが別の男が釘を刺したせいで無駄話をすらしてくれなさそうな雰囲気になってしまった。
「これだけの騒ぎを起こしてるんだから早く情報を引き出せ」
「相変わらず君はせっかちだねぇ...だったらここから移動しようじゃないのさぁ」
この場から移動するとなるとコウも一緒にこの場から連れてかれてしまうだろうし、本格的に行方不明になってしまうのでそれだけは避けたいが身動きの取れない今の状態ではまな板の上の鯉といったところだろうか。
「じゃあ皆移動するよぉ。ちゃんと君も連れてくから安心してねぇ」
「ここから移動してたまるか!」
「困るねぇ...悪いけど少し大人しくしてもらうよっと!」
コウは先程、連れ戻された時と同じように腰へ抱えられるもこの場から移動してたまるかとジタバタと体を左右に動かして抵抗するが男はコウの鳩尾の部分に向かって握った拳を軽く打ち込む。
すると口から「かはっ!」っと唾液と息を吐き出し、息が一瞬だけ出来なくなったのと共に声も出せない悶絶するような痛みが身体中を電気のように走った。
気絶するほどではないがジタバタと抵抗するように身体を動かしていたのをコウはやめて痛みに耐えるようにくの字に身体を曲げてしまう。
(痛ってぇ...!素直に助けてればこんなことにはならなかった筈なのに!)
もし新しい出口なんかを探さずに女性冒険者達を助け出しながら最初に入ってきた場所から出ていればこんなことにはならなかったのではないかと後悔してしまうがもう遅い。
正直、助けは来ないと思い諦めて身を任せるようにしているとビュン!と何かが飛んでくる音とともに抱えられていたコウはいきなり放り投げられて宙を舞い、落ちるとその場を捨てられた石ころのようにゴロゴロと転がる。
「いてて...一体何なんだ...?」
何故、急に放り投げられたのか分からずコウは顔をあげると裏ギルドの3人組の背後にある壁にはまるで銃痕のような跡があり、吹き抜け状になっている天井を見上げ、各々は武器を構えていた。
「やはり先程の氷の壁はコウさんでしたか。来て正解でした」
「コウさ~ん!応援に来ましたよ~!」
「キュイキューイ!」
「コウよ...お前さんにそんな趣味が...」
上から聞き慣れた声が聞こえ、裏ギルドの3人組が見ている方向に視線を向けるとそこには崩れた壁上に立っている3人と1匹が目に入る。
その者達の背後には月が浮かび、逆光によって顔は見えないが声だけで何処の誰が助けに来てくれたのかコウはすぐに理解し、胸の中で助けに来た者達に感謝するのであった...。
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