222話
「ら...ライラさん!」
「キュイキューイ!」
イムピュアグールキングが吐き出した黒い瘴気に包まれ、消えてしまったライラに大きな声を出して名前を呼ぶが、少し距離が離れているため聞こえていないのか返事はない。
これほど広範囲にしかもそれなりの速度で広がり続ける濃い瘴気の中に囚われ続けてしまえば元聖女候補のライラが自身の信仰している神に願って瘴気へ多少なりとも抵抗出来るようにしたとしても長くは持たないはずである。
またその場から離れようにも黒い瘴気に包まれたことによって視界は悪く、方向感覚も狂ってしまっているので抜け出すのは厳しいだろう。
「どうにかして助け出さないと不味いですね...」
瘴気は上空に風魔法で巻き上げて散らしたり、瘴気を浄化出来るほどの神聖な力を使えば消し去ることが出来るだろうがあいにくここは王都内ということでイザベルが風魔法を使って瘴気を散らしたりすると散っていった瘴気が大通りなどの場所まで運ばれてしまい何かしらの問題が起こる可能性があるため使いづらい。
どうにかして瘴気に包まれたライラを助け出せないかと思考するが思いつかず、焦りだけが募っていくとフェニが鳴きながら金色の翼を動かし、瘴気に向かって勇敢にも飛んでいく。
「フェニさん!その瘴気に触れるのは危険です!」
「キュイ!」
フェニはイザベルに制止されるが無視をしてそのまま瘴気の側まで近づくと全身が先程のライラと同じ様に光り輝き始め、自身を中心に球状の薄い光の膜が作られた。
それはライラが身を守るために自身の信仰している神に祈り願って瘴気に抵抗出来るようにした光と同じ物のように見える。
「キューーーーーイ!」
そしてフェニはそのまま瘴気の中に入っていくと自身を中心に作り出していた球状の薄い光の膜が風船のように一気に膨張してここら一帯を包み込む。
膨張する球状の薄い光の膜に瘴気が触れると浄化されているのか何もなかったかのように消え去っていき、同時にフェニは自身の力を全て使い果たしたのか翼すら動かさず空から真っ逆さまに地面へ落下していく。
「フェニさん...あなたは一体...とりあえず受け止めないといけませんね」
イザベルは落ちていくフェニを受け止めるため、足に風魔法を付与すると何故か普段よりも体が軽く一気に落下地点まで移動でき、地面にぶつかる寸前に風魔法を駆使して両手で優しく受け止めることに成功した。
「キュ...!」
「お疲れ様です。フェニさん後は私達に任せて下さい」
自身の役目は終えたから後は任せたぞ!と疲れ果てたように返事をするフェニに対してイザベルは労いの言葉を伝え、しっかりとバトンを受け取ったので近くにある木の側へそっと寝かせる。
フェニがここら一帯にあった瘴気を浄化したことの副産物なのかイムピュアグールキングを見ると全身が燃え上がるような炎に包まれ、雄叫びを上げながら苦しんでいた。
また肉の卵から這い出ていた新しい手駒であるグール達も同じように炎に焼かれ、弱いものは既に灰になっていたりする。
そしてフェニの放った光に触れたイザベル達はアンデット達とは逆に薄っすらと光を纏って身体の底からふつふつと力が湧き出てくるような感覚すら覚えていた。
「ライラさん大丈夫ですか?」
「大丈夫です~逆に身体の調子が良いんですよ~」
「それは良かったです。今が好機みたいなので一気に終わらせましょう」
イザベルはライラの近くに寄ると瘴気によって身体に何かしらの怪我や不調がないか聞いてみるが特に問題はないらしく、イザベルと同じように身体の調子が良いらしい。
現状、イムピュアグールキングは苦しんでいるがそれでも徐々に回復しようとしているのでフェニが作ってくれたこの機を逃せば再び振り出しに戻ってしまう。
イザベルとライラは一気にこの戦いを終わらせるためにイムピュアグールキングに向かって駆け出し、仕留めようとするがそれをヨシとしない者も勿論いたりする。
「儂がみすみす見逃すと思うのかの?土人形戦線!」
アーロウェルは自身が召喚したイムピュアグールキングの態勢を整えさせるために時間を稼ごうと手に持っている杖を地面へ軽く先端をトントンと叩くと不完全な人型の泥人形が大量に作り出されていく。
「お主らだけがあの鳥の恩恵を受けていると思わぬことだの!」
どうやらフェニの放った光は敵であるアーロウェルにも恩恵があったようでイザベル達と同じく薄っすらと光を纏っている。
その恩恵を受けているためこんなにも大量の泥人形を作り出せたのだろう。
「その程度で今の私達を止められるとでも思っているんでしょうか?」
「お爺さ~ん甘いですよ~!」
作り出された泥人形は魔力は込められているが所詮は泥で作られた泥人形であり、耐久力もそこまで無いため、フェニの恩恵を受けている2人とっては何の問題もなく容易に突破していき、時間稼ぎにすらならない。
「ライラさん!あのお爺さんの相手をしてきて下さい」
「はい~!私に任せてくださ~い!」
これ以上、邪魔されるのも面倒なのでアーロウェルの相手はライラに任せ、イザベルは一直線にイムピュアグールキングへと向かっていく。
「待て!お主らぁ!」
「は~い!お爺さんの相手は私ですよ~!」
「小娘が邪魔をするな!」
ライラは上手いことアーロウェルの邪魔をしているようで追加に作り出された泥人形はなく、先程よりもイザベルが前に進んでいく速度がグングンと上がっていく。
そしてイザベルはまだ回復しきっていないイムピュアグールキングの前に到達するとレイピアの刀身を2本の指でなぞって風魔法を付与し、片足を一歩前に力強く踏み出す。
「ふっ!」
一気にレイピアを振り抜くと爆風が吹き抜けると同時にイムピュアグールキングの全身に綺麗な切れ込みが入り、ずるりとズレていくと胸の中央から魔石がちらりと顔を覗かせたのでとどめの一閃を振るうと魔石はパキンと小さな音を発して半分に割れた。
「あぁ...儂の...儂の作り出した研究の成果が...」
イムピュアグールキングの再生していた身体は少しづつ、キラキラと光の粒子へと変わっていき、何故かその一つ一つの光の粒子からは「ありがとう」という声が聞こえた気がしたのであった...。
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