211話
雰囲気の暗い路地裏から抜け出し、賑やかなローランの大通りを歩いて到着した場所はコウのよく知っている冒険者ギルド。
あまり他の人に聞かれたくない話ということでジールが話をする場所として選んだのは冒険者ギルドであった。
確かにジールの私室であるギルドマスター室なら冒険者ギルドで働く者達に重要な話をするから近づくなと言ってしまえば誰も近寄らず、また他の人に聞かれることも完璧ではないが少ないだろう。
ジールと共に冒険者ギルドへと入ると昨日はミラが受付で仕事していたが今日は休日なのかおらず代わりとしてサーラが受付業務を淡々とこなしている。
久々に会えたということで少しロスガニアに行った際の土産話をしたいところであるが、優先はジールとの話であるため時間があれば後にでも話をすればいい。
「まぁソファーに座れ」
受付をスルーしてギルドマスター室に入るとジールは自身がいつも座っている椅子に腰を下ろすと座るように促されたので近くにある座ると腰が沈み込む柔らかなソファーへとコウも座った。
「で...詳しい話って何なんだ?」
「ここ最近ローランにいなかったから知らないだろうが低ランクの女性冒険者が多々行方不明になってる」
「行方不明?」
冒険者は危険と隣合わせの仕事であり、依頼等で死ぬ可能性があったりするも女性の冒険者だけが行方不明になるとはなんともおかしな話である。
とすると何者達かが女性の冒険者だけを狙って誘拐をしているかもしれないのだが、考えてもその誘拐する理由は分からない。
またその行方不明になるという出来事が最初に起き始めたのは王都であり、少し前から問題としてギルドマスター同士では話題に上がっていた。
そして王都を中心に起きていた行方不明事件であったのだが、いつの間にかそれはローランや少し離れた聖都シュレアそしてダンジョン都市アルクでも起きているという報告があった。
そのため前々から密かにギルドマスターであるジール達はこの問題に対して自身から動き出し、色々な場所を調査をしていたらしい。
大体のギルドマスターは現役時代Aランク冒険者として活動していたため、そのような調査は自身の経験などを活かしてお茶の子さいさいなのだろう。
「ちなみに誰がそんな事をしているとかって分かったのか?」
「あぁ大体は目星がついている。裏ギルドの奴らだ」
「裏ギルド?もしかして暗殺ギルドとかのこと?」
裏ギルドとは暗殺ギルド、盗賊ギルドなどのことであり、冒険者ギルドなどに登録できない犯罪者や流れ者などが身をおくようなところである。
コウも過去にその裏ギルドの1つである暗殺ギルドへ所属している者達に襲われたことがあったりしたが、その際は返り討ちにして色々と情報を聞き出した記憶がうろ覚えとしてはある。
情報を聞き出したといっても今となっては思い出せず、そこまで有益な情報はなかったような気がする。
ただ返り討ちにした暗殺ギルドに所属していた者達からそれ以降は襲われたりの被害はない。
また返り討ちにした者達は実は心優しい者達?であったため靴の魔道具を迷惑料として奪っ...譲ってもらいルーカスへそれなりの価格で売れたのが今でも記憶に覚えている。
「よく知ってたな。とりあえずはそいつらが問題を起こしてる」
「じゃあ何でそんな奴らが女冒険者達を狙うんだ?」
「まだ狙う理由がわかっちゃいねぇが王都に集められてるらしい」
王都に集められているといっても王都へ入る際には必ず検問があるのでそれらの目を掻い潜りながら王都内へ入るには非常に難しいはずである。
つまりは王都内にいる貴族なども関わっている可能性は大いにあるだろうが、それは王都のギルドマスターに調査を任せる他はない。
そういえば王都といえばイザベルのギルドである女性のみで作られた白薔薇騎士団があるのだが、女性の冒険者を狙うことをしているということならば裏ギルドから見れば鴨が葱を背負っているようなものであり、手紙などの連絡も何も無いが大丈夫なのだろうか。
「俺にそんな大事なことを話してよかったのか?」
「ん?あぁいずれこれは他の信頼できる冒険者にも話す予定だったから問題ない」
この話をしてくれたということはコウはジールにとって信頼できる冒険者ということになるのだろうか。
もしかしたら何かしらの依頼としてお願いされたりするかもしれない。
「あ...話は変わるんだけど依頼は達成したからな」
「おう ご苦労さん。じゃあ欲しいものは思いついたか?」
「良さげな寝具が欲しいんだけど」
コウが今欲しいものといえばなんだろうと最終的に思いついたのは寝具であった。
何故寝具なのか?それには深い理由があってコウがロスガニアへ依頼として向かった際、長距離の旅ということで当然外で野宿することとなる。
その時には寝袋などの簡易的なもので睡眠を取って夜を過ごしていたのだが、寝袋は固い地面に置いて寝ていために身体の疲れは取れず、無駄に疲労が溜まったりしていたのだ。
しかしコウはその固い地面で寝るのが嫌だということで考えた結果、思いついたのだ。
自身には収納の指輪があるのでもしベッドなどを持っていれば外で野宿することになっても質の良い睡眠が取れるはずであるのではないかと。
ということでジールからの報酬としては質の良い寝具を要求することにしたのだ。
「わかったそいつを今度用意しておこう。そういえばお前さんの相方は何してるんだ?」
「あっ...そういえば1人で行動してるかも」
現状ローランでも起きているということは今1人で行動しているライラも女性の冒険者であるため、狙われる可能性はゼロではない。
しかしライラ自体の実力は折り紙付きであり、実力が中途半端な者達で誘拐しようにも逆に返り討ちになってしまうかもしれないということで襲われたりするのは低いだろう。
とはいえ1人にするのは色々と危険であるのは間違いないので一緒に行動を共にしたほうが良さそうだ。
「もう話すことは話したし相方を探しに行ってもいいぞ」
「わかった。あっ!これお土産だから!」
コウはロスガニアのお土産であるロックバードの丸焼串を収納の指輪から取り出し、ジールなら気を使わずに渡してもいいだろうと思ったのか押し付けるように手渡してギルドマスターの部屋から飛び出ていってしまった。
「おぉう...ありがてぇけど腹は減ってねぇな...」
お土産を押し付けられるように手渡されたジールは1人ぽつんと部屋に残され、手元にある串焼きを見てぽつりと呟く。
今は腹が減っていないがコウからのお土産ということで捨てたりするのは出来る訳もなく、仕方なく手に持っている串焼きをモソモソと食べ始めるのであった...。
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