210話
「ん〜っと...よく寝たなぁ」
昨日は早く寝たおかげなのかすっきりとした目覚めとなっており、柔らかなベッドの上で身体を起こしながら両手を上げて背筋を伸ばす。
そしてカーテンの隙間が少しだけ開いているためにその隙間から入り込む太陽の光が部屋内をうっすらと照らしていた。
「今何時だろう」
時計の魔道具を収納の指輪から取り出して確認すると指針は下を示していたのでいつもより早く目覚めたのかもしれない。
まぁ早起きは三文の徳という言葉があるのだからきっと何かしらいいことがあるだろう。
コウが起きたことによって木の椅子の上で寝ていたフェニも気づき、目を覚ましたようでコウの元へと飛んでくる。
「おはようフェニ」
「キュイ!」
「とりあえず朝食だけ食べようか」
いつまでもベッドの上でぐだぐだとしていてもしょうが無いので1階にいるであろうミランダに少し早いが食事を部屋まで運んでもらえないか聞くことにした。
コウはベッドから降りて部屋の隅にあるコート掛けに掛けていた外套を羽織り、部屋から出ると丁度ミランダがライラの部屋の前の廊下をモップがけしている途中であったので朝の挨拶ついでに朝食をお願いする。
そして朝食が部屋に届くまで暇だったので昨日、貰った金貨の枚数と銀貨の枚数を数えていると部屋の扉をコンコンと軽くノックされた。
食事が届いたんだろうと思いつつ、扉を開けるとそこに立っていたのはミランダではなく、なんだかいつもより眠たそうにしているライラであった。
「お~今日は早くに起きてたんですね~」
「なんだライラか」
「失礼します~」
「勝手に入るな」
ライラはコウの言葉をスルーしてそのまま部屋の中に入るとシーツ等がぐちゃぐちゃに乱れているベッドの上へダイブしていく。
「何しに来たんだ?」
「あ~そうでした~朝食を食べに行きませんか~?」
コウの部屋にライラが尋ねてきた理由は朝食を食べるために食堂まで行く際、部屋の前を通ったため、ついでとして誘いに来たとのことであった。
しかし既に朝食はこの部屋に届けるようミランダにお願いしてあるのでわざわざ食堂まで行く必要はない。
ライラの相手をしていると再び部屋の扉がコンコンとノックされ、外から「食事をお持ちしましたと」とミランダの声が聞こえた。
扉を開けると軽い朝食としてサンドイッチやを乗せたお盆を持って部屋に入るとベッドの横にある机の上へと置かれる。
量としては少しだけ物足りなさを感じるが朝食ということだから少なめに作ってあるのだろう。
「すいません~待ってください~」
朝食も運び終えたということでミランダが部屋から出ようとするとライラが引き止めるように声を掛けた。
「はい?何でしょうか?」
「私も朝食をお願いします~この部屋に届けてください~」
ライラはベッドの上で横になってしまったため動くのが面倒になったのかミランダへとコウが頼んだ朝食と同じ物をお願いしていた。
しかもこの部屋に届けてと言っていたのでライラはもうこの部屋から移動する気がないようである。
まぁライラがこの部屋にいたとしても特には困らないので追い出すようなことはせず、とりあえずライラの朝食を待つ間は今日の予定を決めたり、話し合うのであった...。
■
朝食を終えたコウ達は依頼を受けに冒険者ギルドへ...ではなくそれなりに纏まった収入を得て、懐の余裕ができたということで今日1日は休日として各々は自由行動にすることにした。
ライラとフェニは既に外へと出掛けており、コウも久々にローランを散歩するようにのんびりと歩き回っていると路地裏に入っていくジールに似た人物が見えたのだ。
「あれって...ジールさん?」
冒険者ギルドの受付嬢であるミラの話ではジールは何かしらの用事でローランにはいないはずなのだ。
他人の空似と言いたいところであるがあんな熊のように大きなガタイを持つものはあまりこのローランでは見当たらない。
もしかしたら飲み歩くための口実として用事があると嘘をついたのではないだろうか?
「気になるし後をつけてみようかな」
コウはジールに似た人物が入って行った路地裏へこっそり後を追うように入っていくが奥に行くにつれてそこはいつもの明るい雰囲気のローランではなく、何だか空気が重い場所へと変わっていく。
道の隅に空の酒瓶を片手に持って座り込んでいる浮浪者や明らかにカタギの仕事をしていないであろう人達が彷徨いていたりする。
決して女子供や一般的な市民が入って歩き回るような場所ではない。
しかしこんなスラムのような場所にギルドマスターという偉い立場の人間であるジールが入って行くのは逆に違和感を感じる。
「どこにいったんだろ」
「雑な尾行をされていると思ったらコウだったか」
後ろから聞いたことのある声で話しかけられたので振り向くとそこにはよく見知ったギルドマスターであるジールが立っており、やはり路地裏へ入っていく人物は本人で間違いなかったようだ。
「びっくりした。ジールさんはなんでこんなところにいるんだ?」
「そいつは俺のセリフだ。なんでこんなゴミの掃き溜めにまで着いてきたんだ」
「何してるのか気になった」
「...要するに暇だったんだろ?」
気になったというのが1番の理由ではあるが、暇だったからジールを尾行していたという理由もなくはない。
ジールは頭をガシガシと片手で掻き、ため息をつくと路地裏へ来た道を戻るように少し歩き始め、すぐに足を止めてコウに向かって振り返る。
「はぁ...詳しい話をしてやるからついて来い」
何故、ジールがこの掃き溜めのような場所にいるのか説明してくれるということであったが表情が重いので何かしら面倒事なのだろう。
またジールが話す内容についてはあまり他の人に聞かれたくないらしく一旦、落ち着いて話ができる場所まで案内してくれるということなのでコウはジールについて行くのであった...。
いつも見てくださってありがとうございます!
評価やブクマなどをしてくださると嬉しいですm(_ _)m
次回の更新は7月20日になりますのでよろしくお願いします。




