208話
ツェリとの食事から数日後、あれからというもの亜技を使えるようになるための訓練を繰り返す日々であったりする。
とはいえそんなすぐには亜技を自由自在に使えるようになる訳もないのでまだまだ訓練は必要だろう。
ちなみにここ数日を振り返ると色々なことがあったりする。
例えばリアムとツェリの2人はこの間の食事以降、仲良くしているようだ。
また仲良くすること以外にはツェリが模擬戦をリアムにお願いして鍛えてもらったりしているらしい。
これでは師匠と弟子のような関係になってしまい恋人になれないのではないかと思っているのだが、リアムが楽しそうにしているのでまぁいいだろう。
コウはレオンとの約束を果たすために食事へ一緒に行ったりもしたがそこまで話すようなことは無かったため、ここでは割愛させてもらうとしよう。
そんなこんなで色々とあったロスガニアの旅であったが、ジールから受けたお使いの依頼も終えているということでコウはローランへ帰る旨を旅立つ前日にリアムへ話していた。
すると別に永遠の別れというわけでもないのに残念そうに項垂れていた。
まぁBランクの魔物が彷徨く危険で険しい渓谷をまた超えないと会うことは出来ないのだが...。
そしてロスガニアを旅立つ日の当日、リアムから発つ際は中庭に来いと前もって言われていたため、中庭に向かうとレオンはおらずリアムだけが待っていた。
別れの際なのでてっきりレオンのことならこの場に居てもおかしくはないと思っていたのだが、今日は居ないらしい。
「レオンさんは居ないみたいだな」
「我が頼み事をしておるからな」
どうやらこの場にレオンが居ない理由はリアムが頼み事をしているからであったようだ。
「少しだけ待つが良い」
リアムの言っていることの意味が分からずコウ達の頭の上にクエスチョンマークが浮かぶもすぐにその意味を理解することが出来た。
リアムは胸元からレオンを呼び出すために使っている鈴を取り出してちりんちりんと振り鳴らす。
少しすると大きな影がコウ達を覆うように現れ、上空を見ると大きな翼を持ったワイバーンが降ってくるではないか。
何故こんな場所に魔物であるはずのワイバーンが?と思いながらもコウ達は武器を構え、戦闘態勢を整えるが前戦ったワイバーンとは少し様子が違う。
風を撒き散らしながらリアムの後ろへと砂埃を舞わせ降りたワイバーンの背には大きな鞍が取り付けられており、その背には御者のようにレオンが乗っている。
「カロロ!」
そしてリアムに懐いているのかぐるぐると喉を鳴らしながら顔を押し付けると心地よさそうに撫でられている。
「此奴は賢くてな。これでコウ達を送ろうと思う」
賢いとは言っても御者がいなければローランの場所がわからないということで多少は言うことを聞くレオンを御者として乗せているとのこと。
「陛下。いつでも送迎の準備は出来ています」
「ご苦労。では頼んだぞ」
中庭に来いと前もって言われていた意味はロスガニアからローランまで帰るには流石遠いだろうということでリアムのペットであるワイバーンに乗せてコウ達をある程度の場所まで送ってくれるということであったのだ。
前日からワイバーンの機嫌を取って送迎できるようにしてくれたらしい。
まさか魔物であるワイバーンに乗ってローランの近くまで送ってもらえるとは思っていなかったので予定よりもだいぶ早く到着することができるだろう。
そしてワイバーンの尻尾がコウ達の身体にぐるりと巻き付くとそのまま持ち上げられて背中の鞍の部分へと乗せられる。
「少し寂しいがまた会おう我が友よ!」
「あぁそうだな!また遊びに行くからな!」
ワイバーンが大きな翼を上下に動かすと砂埃を巻き上げながらふわりと浮き上がり、リアムが下から手を振るのでコウも同じように手を振り返し、別れを告げるとワイバーンは上空まで一気に上昇してリアムの姿は豆粒ほどの大きさになっていく。
「おっとと」
「コウ君。落ちない様にしっかりと捕まってね」
鞍などに乗ったこともないので慣れておらず、少しだけ体勢を崩しかけるとレオンが心配したのか声をかけてくれた。
「あぁわかった」
コウは付いている持ち手をしっかりと掴むと後ろに乗っているライラは掴む部分がないのかコウの腰に手を回し密着される。
酔ったライラを担いだときは何も意識していなかったが、起きている人間に手を回されたり密着されたりすると何だかくすぐったい。
そしてある程度、上空まで飛び上がるとワイバーンはローランの方角へと進み出し、ロスガニアという国から発つのであった...。
■
ワイバーンに朝から乗ってもう昼ごろになるだろうか。
いつの間にかフーローの村さえも超えてしまい、ワイバーンに乗って移動すればコウ達が4日間一生懸命歩いた峡谷や渓谷の移動は一瞬であった。
最初、空を飛んでいる時の風圧が凄いのではないかと思っていたが、実際のところワイバーンが風魔法を使って風除けをしているため、楽しい空の旅を満喫することができていた。
またワイバーンということもあって天敵もあまりいないのか他の魔物に襲われることもなかったりする。
「ワイバーンはやっぱいいなぁ空も飛べるし...」
「キュッ!?キュキュ!」
コウがそう呟くと自身の立ち位置が揺らいだと思ったのか外套の胸元から顔を出していたフェニの首がぐりんっと動いて振り向くと文句を言うかのように嘴でツンツンと突かれた。
「悪かったって。じゃあフェニが大きくなったら乗せてくれよ?」
「キュイ!」
フェニが大きくなることに期待して言うもまだまだ小さくコウの胸元に収まるほどなのでそれは一体いつのことになるのか分からない。
暫くすると渓谷から景色は姿を変えて平原になっていき、ワイバーンは徐々に高度を下げながら何もない緑の絨毯が敷かれた大きな平原へと降りていく。
ローランの近くまでワイバーンに乗って行くと流石に騒ぎになってしまうために配慮としてここで降ろしてくれたのだろう。
まぁここまでくればあとは歩くだけですぐにローランへ到着することができるだろう。
「またロスガニアに来る際は是非また王宮に来てほしいかな」
「いつになるか分からないけどまた遊びに行くよ」
「では!また会おう私のコウ君!」
レオンとの別れの挨拶を済ませるとワイバーンは砂埃を巻き上げながらロスガニアの方角へと飛び立っていき、すぐに見えなくなっていく。
「じゃあ俺らも帰ろう」
「そうですね~早く帰ってゆっくりしましょ~」
「キュイキュイ!」
最初はただの忘れ物を届けるという依頼だったがコウ達にとっては様々な出会い、そして多くの縁を結べたということで実りのある依頼であったことは間違いない。
色々と多くの出来事があったが、旅の思い出を振り返るように話をしながらコウ達はローランへと歩き出すのであった...。
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