207話
鍛冶屋から出で少し離れた場所で何処かに隠れていながら様子を見ているであろうリアムを探すために意識しながら周りを見渡す。
すると何処からともなくコウの外套を羽織ったリアムが申し訳無さそうな顔をしながら現れた。
「すまぬ。つい隠れてしまった」
「いやいいよ。とりあえず王宮に帰ろう」
リアムと合流し、街中を歩きながら鍛冶屋内で起きたことをかいつまんで話していく。
今回の1番の収穫としてはツェリの好きなものといった情報ではなく、今日の夜にツェリとの食事の場を設けることが出来たことであろうか。
「うむむ...何を話せばよいのかわからんぞ...」
「夜までに話題でも考えればいいだろ」
「そうではあるのだが...」
そんなただの食事だというのに悩んでどうするんだと思うが本人にとっては大問題らしい。
そして頭を抱えつつ、悩むリアムを引き連れながらコウ達はツェリとの食事までまだ時間があるため一旦、王宮へと戻るのであった...。
■
時は過ぎていつの間にかツェリとの食事の時間になっていた。
場所はこの間、リアムに街中を観光案内してもらった際に知った夜にロスガニアの名物料理を出しているという大きな大衆料理店である。
料理の量も多いためか冒険者達に愛顧され、また値段も大衆料理店ということでそこまで高くないものとなっているらしい。
大衆料理店が近づくにつれてリアムは緊張しているのかソワソワとしだすのでコウは緊張をほぐす方法として手のひらを使ったおまじないを教える。
するとおまじないをすぐさま実行していたのでそれを見たコウ達は少し笑ってしまい、リアムはむくれるがそのお陰で若干緊張もほぐれたように見えた。
そして大衆料理店が見えてくると既にツェリが暇そうに入口の前で立ちながら待っていたため、これ以上待たせるのは良くないのでコウ達は足早に歩き出す。
「遅いにゃー!」
「悪い悪い。ライラの準備が遅くてな」
「キュイ!」
「え~!私のせいじゃないですよ~!」
因みに少し遅れた理由としては王宮から出る前、リアムの服装は大衆料理店に行くだけだというのにどこぞのパーティーに出るのだろうか?というぐらいの物物しい服装をしていたので止めて着替えさせたからである。
「とりあえず中に入るにゃ」
大衆料理店の中に入ると既に多くの冒険者達が席に座って飲み食いをしているが大きい店ということもあってまだ席が空いており、そこで働いている従業員がすぐに駆け寄り、席まで案内される。
「私がおすすめの料理を頼めばいいかにゃ?」
「そうしてもらえると助かる」
席につくともう料理を頼むらしく、ロスガニアの名物料理に関してはまだロックバードの丸焼串ぐらいしか食べていないのでこの店に詳しそうなツェリに注文を任せておいたほうがいいだろう。
「わかったにゃ!じゃあこれとこれとこれをお願いするにゃ!」
この店メニュー表の様なものは面白いことに木の机の中央部分に文字が彫られており、そこの中からツェリは指をさしながら選んでゆく。
暫くツェリがこの間受けた依頼の内容に愚痴を混ぜつつ、話すので耳を傾けながら聞いていると料理が次々と机の上に運ばれてくる。
意外にも早く作られて運ばれてきたので残りの美味いが揃えば早い安い美味いの三拍子が揃う。
最初に運ばれてきたのはコウもついこの間、食べたばかりのロックバードの串焼きであり、大皿へ山盛りに積まれている。
次に運ばれてきたのはトルティーヤの様な見た目で薄くもちもちとした生地に野菜や肉がくるくると持ちやすいように巻かれ、中には茶色のソースが掛かっているものだ。
そして最後に運ばれてきたのは外をカリッと揚げられた白く丸い団子のようなものであり、中身は何が入っているのかツェリへ聞くと食べてみてからのお楽しみだとか。
どれこもれも出来立てということでホカホカと白い湯気を立て、ロスガニアで使われる独特なスパイスの良い香りを漂わせるために口の中に唾液がじわりと出て食欲が湧いてくる。
「わぁ~どれも美味しそうですね~!」
「キュイキューイ!」
ライラとフェニは目を輝かせながらどの料理を最初に食べようかあちらこちらへと目移りしている。
コウはフェニ用としてロックバードの丸焼串を多めにとって別皿に取り分けると喜んでいの一番に啄みだし食べ始めた。
それを合図としてなのか全員が運ばれてきた料理に手を出し、食べ始める。
コウが最初に手を出したのは揚げられた白く丸い団子のようなものであり、フォークで刺して一口でぱくりと口の中に放り込んで噛みしめると中からは熱々の肉汁が溢れだし、コウはあまりの熱さに顔を真っ赤にさせながら口をハフハフとさせてしまう。
そんなコウを見ていたライラのフォークにも同じ様に刺さり一口で食べようとしていたが、熱いことを理解したのでちまちまと食べ始める。
そしてそんなコウの様子を見ていたリアムとツェリは笑いを押し殺していた。
「あ~面白かったにゃ~そういえば君はにゃんて呼べばいいんだにゃ?」
「うむ中々に面白い反応であった。我か?リアムで良いぞ」
「どこかの獣王様と同じにゃんだにゃ~顔も似てる気がするにゃ」
「熱かった...あぁツェリの言う通りリアムはその獣王様だぞ」
コウの一言で鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするとツェリの手からぽろりと食べかけの串焼きが地面に落ち、コウとリアムを二度見どころか三度見するかのように交互に首を動かしていた。
何度も首を動かしているので今度は串焼きではなく、首がぽろりと取れたりするのではないだろうか。
「ほ...本当の本当に本物にゃ?」
「うむ。コウの言うことは間違っておらぬぞ」
「私は失礼にゃことを言ってにゃいよね?」
心配そうにコウを見ながらツェリは訴えかけてくるが先程のお返しとして不安を煽るように首を横に振ると顔色が真っ青になっていくので今度はコウが押し殺すように笑い出す。
するとコウの冗談だと気づいたツェリはむくれてやけ食いするかのように串焼きを手にとって頬張りだした。
その後は獣王という偉い立場の者と自身の初恋相手ということで最初は気まずそうにしていたが、時間が経つに連れてツェリとリアムも何かしらの共通点を見つけたのか、打ち解けてきたようで獣人同士2人でまったり話していた。
「コウさん~!私達も語りましょうよ~!」
仲良く話している2人を邪魔するほどコウは野暮ではないため、そっとして1人で黙々と料理を食べていると、何故か上機嫌のライラが肩を組むように絡んできた。
片手には木で出来たジョッキを持ち、中からはアルコールの匂いがする飲み物を一気にグビグビと飲み干す。
「ぷはぁ~!」
「うわっ!酒臭!」
「女の子に~臭いなんて言っちゃだめなんれすよ~!」
コウに向かって注意するかのように言うもライラの呂律は回っておらず、急に瞼を閉じて寄りかかるように今度は眠りだした。
「これからはライラに酒を飲ませたら駄目だな」
酒を飲ませてはいけないということを知ったコウは寝ている酒臭いライラを支えながらまだ皿に残っている料理を手にとって黙々と食べてゆく。
そして楽しい時間はいつの間にか過ぎてゆくもの。
机の上に置かれた料理もなくなり、そろそろ解散するには良い時間帯にもなってきたので適当にその場を締めることにした。
「ツェリ。今日はありがとうな」
「今度は王宮にも遊びに来てくれ」
「今日は私も楽しかったにゃ!また遊びに行くにゃ!」
支払いも終わり、大衆食堂の出入り口の前でツェリと別れを告げるとお互いに別方向へ分かれるように歩き出す。
そしてコウは酒を飲んで酔いつぶれ、熟睡しているライラを背中に背負いながらリアムと共に王宮へと戻るのであった...。
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