202話
最近手に入れたばかりの時計の魔道具は指針を丁度真上を示すので今は昼頃だというのがわかる。
ロスガニアの街中は獣人達の賑わいと活気で溢れ、その間を縫うようにリアムとコウは走り抜けていた。
「コウよ!とりあえず休憩するぞ!」
「わかったわかった!」
最初はコウがリアムの手を引っ張りながら王宮から出ていき、ロスガニアの街を観光していたがいつの間にか逆転してコウの手が引っ張られる形となっていた。
リアムに色々な場所を案内してもらえるのは楽しいが1番楽しんでいるのは実はリアムだったりする。
因みに今まで案内された場所はロスガニアを一望できる見晴らしのいい場所、謎のオブジェが建っている場所、獣人達が行っているサーカスなど様々であった。
また夜に名物料理を出している大きな大衆料理店もおすすめとして紹介されたのでいずれ行きたいものである。
「それにしても腹減ったな」
人混みの間を縫って到着したのは噴水広場であり、座れそうな場所に腰掛けて周りを見ると近くにずらりと屋台が並んでいた。
きっとこの噴水広場で休憩する者達をターゲットにしているのだろう。
並んでいる屋台は噴水広場に向かって扇ぎながら料理を作っているためか美味しそうな匂いが漂ってきた。
そして丁度昼ごろということで腹の虫が鳴き出す時間でもある。
「どれがおすすめの料理なんだ?」
「ふむ...我のおすすめはロックバードの丸焼き串だ」
リアムが指をさした屋台は一口サイズの七面鳥の丸焼きを串に打ち、焼いているものであった。
ちなみにロックバードとはロスガニアの周囲だけに生息する鳥の魔物である。
鳥といっても空は飛べず走るだけであって子供でも簡単に捕まえて討伐できる程度であるため小遣い稼ぎのように捕まえられてしまう。
また繁殖力はゴブリン並みとかなり高いため、そこらで見かけることができるのが特徴である。
「おっちゃん。それを4本くれ」
「あいよ!友達とお出掛けかい?仲良く分けて食えよー!」
出来立ての串焼きを受け取り、早足でリアムの元へ戻ると片手に持っている2本を食べながら手渡す。
「む...?食べてもよいのか?」
「友達だし当たり前だろ?案内もしてもらってるしな」
「友達...ふふっ...そうであったな!有り難くいただこうか」
噴水広場で座れる場所に腰を掛け、2人して出来立ての串焼きを一口で頬張る。
串焼きの味はとても良くパリッと焼かれた皮目にピリッとしたスパイス、そして噛めば噛むほど肉汁が口いっぱいに溢れ出す。
また骨は煎餅のようにバリバリとしており、噛み砕いて食べれる程度なのでいちいち口の中から取り出さなくても良いのは素晴らしい。
「ふぅ美味しかったな」
「久しぶりに食べたがやはり美味い」
昼食にしてはそこまで量もなく、腹一杯というわけではないが夕食までの繋ぎとしては十分だろう。
「コウよ。次行きたいところは何かあるか?」
「次?んーそうだな...」
リアムがおすすめしていたロスガニアの観光場所はある程度、巡ることができたので次は個人的に行きたい場所を考えていた。
「お土産を買えるところってないか?」
「土産か...どんな物を買いたいのだ?」
「うーん装飾品とかかな」
ロスガニアに来たならいつもお世話になっているイザベルなどにお土産の1つぐらい買っておいた方がいいだろう。
勿論、今回は聖都シュレアの時の反省を活かすため、イザベルの隣へ小判鮫のように引っ付いているエリスにもお土産は忘れない。
「装飾品とは...さては想い人であるな!」
「違うって!」
想い人と言われイザベルの顔が頭に浮かぶもぶんぶんと頭を横に振りながら否定する。
「ふむ...ではライラが...」
「それも違うわ!」
確かにライラとはなんだかんだでパーティを組み、関係は良好であるがまだ恋仲といえる関係ではない。
とはいえコウもそこまで鈍感ではないため、何となく2人の気持ちは察しているがどちらかを選ぶという決断はまだできないし、そんな勇気もないのだ。
この今の距離感がコウにとって心地よく、今の3人の関係を壊したりはしたくない。
「というかリアムはどうなんだよ」
「我か?確かに世継ぎを作るのは王たる我の仕事であるが...」
「そうじゃなくて...気になる女性はいないのか?」
これ以上、茶化されないように今度はリアムの恋愛事情に話を切り返すことにした。
「いないこともないが一目惚れで名も知らぬのだ」
「意外だな。どんな人だったんだ?」
「冒険者のような見た目をしていたがわからぬ...ほら着いたぞ」
軽く恋話をしながら歩いているとお土産が売っているという場所へ到着した。
店に入って見て回るとネックレスや指輪などの装飾品以外にも日常で使えるであろう小物も置いてあるようだ。
「手紙とかよく書くだろうしこれにするか」
コウが手に取ったのは木彫りで出来た猫の羽ペンスタンドであり、獣人の国らしいデザインのものだ。
金額も銀貨2枚とそこまで高くはないので店主に銀貨2枚を支払い購入する。
「あとはどうするかなぁ」
冒険者ギルドのサーラやミラ、白薔薇騎士団のジュディ、エリス、ミルサなどにお土産として装飾品を持っていくにはそこまで深い関係ではないので重い男になってしまう。
「まぁいいや。さっき食べた料理なら大体喜ぶはず」
ロックバードの丸焼き串であれば帰る際に買い占める予定なのでお土産にもなるだろう。
食べ物では誰でも喜ぶ筈のため問題はない。
「もういいのか?」
「あぁもういいかな。というかそろそろ魔石に魔力が溜まってたりしないか?」
既に街へ繰り出して数時間は経っているため魔石に魔力が供給されている筈なのでもう一度王宮に戻ってリアムに引き出して欲しいところではある。
「試してみないとわからぬが...とりあえず王宮にもどるか?」
「そうしようかな」
魔石に魔力が溜まっているかどうかを試すためリアムと一緒に王宮へ戻る最中に偶々、冒険者ギルドの横を通り過ぎることなった。
すると冒険者ギルドの出入り口にある木製の扉が大きな音を出して開き、中から見覚えのある人物が飛び出てきた。
「ツェリじゃないか」
「にゃ?コウじゃにゃいか!あぁ早くこの場から離れた方がいいにゃ!」
「なん...「ツェリィ!」
何で早く離れた方がいいのか事情を聞こうとすると冒険者ギルド内から苛立ちを含むような大きな声が聞こえた。
その声は聞き覚えがあり、冒険者ギルド出入り口に視線を移すと中から出てきたのはこの前ツェリに絡んでいた自称Bランクである獣人の男であった。
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