199話
土埃が舞い上がる中から出てきたリアムの両手両足は人のそれと違い、ネコ科の手足に近しい姿へと変わっていた。
金色の美しい毛並みに黒い宝石を削り出し研いだ様な爪、そして少しだけちらりと見せる愛らしい肉球。
ただ大きさは熊並みの手足であるため大きなコスプレの手袋をしている様にしか見えない。
「すぐに終わってくれるなよ?」
見た目は愛らしいが背中がぞくぞくと寒気がし、リアムから目を離さず様子を窺っていると一言残して低い姿勢に構える。
一瞬の出来事であった。
リアムが更に膝を折り曲げてグッと足に力を込め、地面を蹴るとその場からまるで煙のように消えてしまう。
コウは決して目を瞑ったりして見逃したわけではない。
ただリアムがいた場所に残されたのはネコ科の足跡のみだった。
「何処を見ている?」
足元から声が聞こえ、視線を下に向けるとリアムの柔らかそうな肉球から繰り出される掌底打ちが顎に目がけて迫ってくる。
(避ける?無理?何か方法は?)
ぐるぐると頭の中でなんとかする方法を考えるが思いつかず、迫りくる掌底打ちは止まるわけもない。
意識的に危機を感じたコウの中で何かがはち切れるような感じがし、無意識のうちに手に氷を纏わせて掌底打ちを防ごうとするも間に合わなかった。
(人族が何故"亜技"を?)
リアムはコウが無意識のうちに手に氷を纏わせ防ごうとする行動に内心驚きつつも掌底打ちを止めることはなくそのままコウの顎を捉えた。
顎に掌底打ちを喰らったコウはぐわんぐわんと脳を揺らされてしまったため世界はぐるぐると回り、目の焦点は合わなくなる。
そしてついに意識を失ってしまったコウはその場でふらりと仰向けに倒れてしまった。
「コウさん〜!」
「キュイキュイ!」
手合わせの決着がついたためライラとフェニは倒れているコウに駆け寄り、身体をさわさわと触って怪我をしていないか確認していく。
「我は加減したゆえ大きな怪我はさせとらん」
確かに大きな怪我はなく、軽い打撲はあるが問題無さそうなのでライラは安心したのかほっとしてその場に尻もちをついた。
「では私がベッドまで運びましょう!」
「ダメに決まってます〜私が運ぶので問題ないです〜」
レオンがコウを運ぼうとわきわきとさせながら手を伸ばすがライラが迫りくる魔の手を叩いてはらう。
「よいしょっと〜どの部屋を使っていいんですか〜?」
コウを背負いつつ、ライラはレオンに聞くが先程、手を叩かれてしまったことを根に持っているのか返事はなかった。
まぁコウは意識を失っているだけで急を要している訳ではないがあまり良い行為ではない。
「...レオン!」
「むぅ...畏まりました」
見兼ねたリアムが強い口調で指示をすると渋々レオンは王宮内にある部屋の一室へ案内するのであった...。
■
「いてて...ここは何処だ?」
コウは意識を取り戻すと痛みを身体に走らせながら上半身を起こして周りを確認する。
綺麗な部屋であるため王宮内の一室だろうと理解するのはさほど時間はかからなかった。
足元ではフェニが座り込んで寝ていたがコウが起きたことによって手元に近づいてくる。
窓から月明かりが差し込み、照らされた自身の身体を見ると清潔そうな布がぐるぐると巻かれており、リアムと手合わせしていたことを思い出した。
(あぁ...俺は負けたのか)
今まで負けたことのあるのはハイドと行った模擬戦ぐらいであり、リアムに負けてしまったのはなんだか悔しさが込み上げてきた。
リアムには手も足も出なかったため、どうすれば勝てたんだろうかと考えながらフェニを撫でていると部屋の扉が開く。
「ライラか」
「起きたんですね〜大丈夫ですか〜?」
「あぁ身体は痛いけど大丈夫だ」
軽い打撲程度なので問題ないと肩をぐるぐると回していたら腹の虫が思い出したかのように ぐぅと主張する。
「...腹減ったな」
「じゃあ食堂に案内しましょうか〜?」
王宮内にある食堂の場所をライラは知っているようで案内してくれるらしい。
「なんで食堂の場所を知ってるんだ?」
「そこで食べてきたからに決まってるじゃないですか〜」
どうやら既にライラは食事を済ませているようでリアムからは王宮にある施設は好きに使って良いと許可を得ているらしい。
ここまで手厚くもてなされてしまうと逆に申し訳ない気持ちになってしまう。
「あとでお礼を言わないとな。じゃあ食堂まで案内してくれ」
「任せてください〜!」
コウはベッドから降りると近くに掛けてあった外套を羽織るとライラについていく。
食堂に到着すると真っ白なテーブルクロスが敷かれた長机が置いてあり、ちらちらと優しい光が灯る魔道具なども置いてある。
「ベルを鳴らすと使用人の方が来てくれるんです〜」
長机の上には金のベルが確かに置いているので手に取って鳴らすとものの数分で使用人が来てくれた。
使用人へ食事を頼み、椅子に座って待っていると待望の食事ではなく、今度はリアムが現れる。
「いちいち立たんでもよい」
コウ達は椅子に座っていたが、このロスガニアで1番偉い人物が現れたということで椅子に座ったままだと失礼と感じ立とうとするが制止された。
「我がここに来た理由はコウに聞きたいことがあったからだ」
「聞きたいこと?」
「コウはなぜ亜技を使えたのだ?」
亜技...?はてなんのことだろうか。
コウは問いの意味がわからず首を傾げているとリアムも同じように首を傾げ出す。
「ふむ...無意識であったか。では亜技について説明が必要であるな」
食事が運ばれる前にリアムから亜技について説明され、亜技とは魔力を持つ亜人が使えるものであって人族には使えないものだとか。
種族によって使用した際の違いがあるらしく獣人ならば見た目が変化し、身体能力が飛躍的に上昇するらしい。
少し前に戦った血針のルッチも良い例であの真紅の鎧も亜技だったりする。
「じゃあなんで人族の俺が使えたんだ?」
「それは我にも分からん」
何故、自身が使えたのか何となくコウは察していたが口には出さない。
自身の身体は作られたものであり、何かしらの原因で使えるのだろう。
とはいえ自身が更に強くなれることは良いことではある。
ただ亜技をどうすれば使えるようになるのか分からないので誰かにコツが何かを教えてもらうしかない。
しかし亜技を使える人物といったら目の前にいるリアムぐらいであり、どうにか教えてくれないだろうか。
「我が亜技を教えてやらんでもないぞ」
「本当か!?」
コウの考えていたことを見透かしているかのようにリアムは言うが口元はニヤリと笑っている。
そんなリアムから亜技について教える代わりにコウはとある1つの条件を出されるのであった...。
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