198話
「コウ君。ここが謁見の間になるからね」
コウ達は王宮内をレオンに案内され、辿り着いた場所は大きく真っ白な板の上に金の装飾が施された扉の前であった。
今まで通り過ぎてきた部屋達の扉とは違って明らかに高級感溢れる作りとなっており、国を治める人物が中にいるには相応しい扉だろう。
扉の前に立つと ガコッと何かが外れる音がするとともに扉は開き始めるがレオンは何故かそわそわとしている。
そして扉が完全に開ききると目の前に立っていたはずのレオンはいつの間にか奥にある王座に向かって走り出していた。
「陛下ぁーー!レオンが戻りましたよーー!」
「真面目にしてろ!鬱陶しい!」
「ごふっ!」
レオンは玉座に向かって飛び込んでいくが、玉座に肘をついて胡座をかきながら座っていた獣人はその場で立ち上がると飛び込んできたレオンを空中で蹴り飛ばす。
そして蹴り飛ばされたレオンはそのまま玉座の隣にあった支柱へと顔面から勢いよくぶつかってしまう。
顔面からぶつかったレオンは つぅーっと滑りながら支柱から落ちていくも何事も無かったかのようすぐに立ち上がった。
そして無言で玉座の隣へ立ち真面目な表情をするも鼻からは血が流れ出ている。
「馬鹿が失礼した。部屋に入ってくるがいい」
なんとも言えない空気が漂っていたが玉座に座っている獣人は頭を片手で抑えつつ、話しかけてきた。
「我の名はリアム。言っておくが我の前で下手に出る必要はない」
コウ達は部屋の中央まで歩き立ち止まると頭を低い位置まで下げつつ、片膝を立て挨拶しようとするがリアムからそこまでする必要はないと釘を刺される。
玉座に座っていた獣人の名前はリアム。
王としてロスガニアを治めており、"獣王"の2つ名を持っているが年齢はまだ若くコウとさほど変わりない。
そこらの獣人と変わらず耳と尻尾は生えており、髪は獅子のように腰あたりまで伸び、近くの開いている窓から風が部屋の中へ流れ込むたび揺れ動いた毛の一本一本はキラキラと金色に輝いている。
オーバーサイズである麻の服を着ているため袖先からは指先しか出ておらず、首元や肩を見る感じ身体つきは細く見えた。
そしてまだ顔つきは幼いが言動は大人びているためアンバランスな印象である。
「じゃあ...俺はコウでこっちが相棒のフェニだ」
「キュイ!」
「私はライラと申します〜」
レオンの言っていた通りそこまで礼儀などには厳しくない人物のようでコウとしてはそこまで気を使う必要は無いためにありがたい。
「コウにフェニにライラだな覚えたぞ」
胡座をかいていたリアムは玉座から立ち上がるとその場から飛び降りるようにジャンプしてコウの前へ静かに着地した。
「ふむ...ふむふむふむ...」
そしてコウの周りをぐるぐると値踏みをするかのように歩き回り見られる。
「確かに面白いな。よし我は決めたぞ」
「決めたって何を?」
「コウ。我と少し手合わせをせんか?」
「...は?」
一国の王であり、出会ったばかりの人物からいきなり手合わせをしようと言われるとは思ってもいなかったためコウはついつい不躾な返事をしてしまう。
「我はコウの力を見てみたくなったのだ」
「いいけど...じゃあフェニは離れてろ」
「キュ!」
確かにレオンを蹴り飛ばした時の体捌きは見事なものであったが見た目は自身とあまり変わらないし一国の王であるため、もし怪我などをさせたら不味いのでは?と思ってしまう。
本当に大丈夫なのかちらりとレオンに視線を送ると何故かグッドサインをしているだけで役には立ちそうにない。
とりあえず手合わせなら一対一だろうしフェニはライラの元に預けることにした。
「了承は得た。ほれいくぞ」
外套の首根っこをリアムに掴まれるとコウは ぐえっ!と声を出し、そのまま部屋の開いている窓に向かって放り投げられた。
「強引な王様だな!」
窓の外に出されると青い空が目の前に現れたのでコウは十字架のブレスレットに魔力を流すとサンクチュアリを手元に出して地面に突き刺し、勢いを殺す。
どうやら窓の外は中庭のようだが、戦う前から荒れているのである程度は暴れていても良さそうではある。
「我から目を離している余裕があるのか?」
いつの間にか目の前までリアムは迫ってきており、両手を握って振り上げるとコウに向かって振り下ろす。
「むぅん!」
「くっ!」
ずしん!と地響き起こり王宮が揺れ動く。
その地響きの正体はサンクチュアリの持ち手部分でリアムの一撃を受け止めたため起こったものである。
リアムの見た目に反した力強さのためコウが立っていた場所の地面がべっこり凹んでいた。
「横腹がガラ空きだぞ!」
リアムの足がしなやかな鞭のように横から迫ってくるので何とかして受け止めるため横腹に薄い氷を作り出す。
しかしそんな急ごしらえの氷ではリアムの蹴りをまともに受け止められ筈もなく、氷は砕け散って横腹へ足がめり込むと横に吹き飛ぶ。
体制を立て直しつつも横腹への一撃が思った以上にもダメージがあり、コウは片手で横腹を押さえてしまう。
「いっ...てぇ!舐めるな水球!」
横腹を押さえ痛みに耐えつつも水球を周りに浮かべ次々と作り出してはリアムに向かって撃ち出していく。
「ははっ!我は水遊び嫌いではないぞ!」
リアムは擊ち出され向かってくる水球を全て両手両足で地面に叩き落としながらコウに向かって走ってくる。
「素手で魔法を潰すとかおかしいだろ...」
とはいえ水球では仕留めるのは厳しいと感じたコウはサンクチュアリを握りしめ、近づいてくるリアムを迎え撃つ。
「はぁっ!」
サンクチュアリを自由自在に操り様々な角度から振るうも刃に触れないよう刃の面を拳で軽く小突き、軌道を変えられてしまう。
水球程度ならば素手でどうにかなってしまい近接は曲芸の様に軌道を変えられるということでコウは一気に後ろへ飛び退く。
「どんな曲芸だよ!じゃあこれならどうだ氷壁!」
今度は大量の魔力を込めた巨大な氷壁を作り出すとリアムに向かって押し潰すよう倒れていく。
リアムの戦い方は全ての攻撃を避けるのではなく、受け止めていたので今回の氷壁も避けるのではなく、受け止めるのでないかと読みコウは氷壁を作り出したのだ。
そして巨大な氷壁でリアムの姿は見えないが様子を窺っていると ずしん!という地響きと共にピキピキと氷壁へ亀裂が入り始めた。
コウの読み通り、リアムは氷壁を真っ向から受け止めたらしい。
「おいおいまじか」
作り出した氷壁は亀裂が全体に入ると限界を迎えたのかガラガラと崩れ去り、周囲は土埃が舞い上がる。
そしてその土埃が舞い上がる中から出てきたのはリアムだが、彼の両手は獣と変わらない手へと変化していた...。
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