197話
「あたしは冒険者ギルドによくいるから用があるにゃら来るといいにゃ!またにゃ〜!」
王宮前へ到着するとツェリは一言だけその場に残し、コウ達が別れの言葉を言う前に離れていってしまった。
「なんだか面白い子でしたね〜」
「あんな性格だから変なのに好かれるんだろ」
話してみると分かるがツェリは人懐っこくベタベタとスキンシップが激しいためか勘違いしてしまう男が多いのだろう。
コウもライラやイザベルなど圧倒的に容姿が良い人と関わっていなければツェリに墜ちていたかも知れない。
「まぁとりあえず依頼を終わらせないとな」
「依頼を早く終わらせてゆっくりしましょ〜」
収納の指輪の中に仕舞っていた紹介状を取り出して王宮の入口に立っている門兵へと渡しに行こうとする。
「おや?その後ろ姿はコウ君じゃないかーい!待っていたよ!」
すると背後から少し前に聞いたことのある声に声掛けされ、コウとライラの2人は げっ!とした表情を浮かべ振り返る。
その人物とはつい先日、ロックドラゴンの群れから助けてもらい知り合ったレオンであり、ライラの中では要注意人物と認定されている獣人であった。
そしてレオンはコウを見るや否や、熱い抱擁をしようと助走をつけて飛びつくように走ってくる。
「はぁ〜い!これ以上は駄目ですよ〜!」
「くっ!コウ君との感動の再会を邪魔しないでくれるかなぁ!」
しかし残念ながらライラがコウの前へボディガードのように立ち塞がり、飛び込んでくるレオンと両手をがっちり繋ぐと取っ組み合いが始まる。
お互いに一歩たりとも引く様子はなく、ライラに至っては若干魔力を手袋に流しているのか装飾された十字架が少しばかり光っていた。
まぁあの硬い外皮包まれたロックドラゴンを一撃で仕留めることのできる人物のため、抑え込むにはそれなりに力を込めないといけないのだろう。
今思えばツェリもこんな気持ちだったのかもしれない。
「あれだ...久しぶりだなレオンさん」
「君ならさん付けはいらないさ!食事の約束を守りにきてくれて嬉しいよ!」
抑え込まれているレオンへ話しかけると笑顔になり、しなやかな尻尾はピンと真上へ立てている。
レオンの言う通りロスガニアに来た際、食事をする約束をしていたりしたがコウはレオンとは会わずにそのまま依頼を終わらし、観光してローランに戻るつもりで計画していた。
「まぁそれは後にして...人に会いに来たんだ」
「ふむぅ誰に会いに来たんだい?」
「この王宮で勤めている人らしいんだが...」
話を進めるためライラに抑え込ませるのをやめさせ、コウは手に持っている紹介状を手渡す。
すると食い入るように書かれている内容を見ていくとともにレオンの口元が緩んでいった。
「これ私のことだね。忘れ物を届けに来てくれたんだ」
どうやらジールの知り合いというのはレオンだったらしい。
つまり会わないように計画していたとしても結局は会う羽目になっていたのでコウの立てた計画は無意味であったようだ。
「とりあえずゆっくり話せる場所に案内するよコウ君」
「あー...ありがたいけど」
「私もいるんですけど〜」
ライラのことを無視するようにコウの肩に手を置き、王宮へと案内しようとするレオン。
そして無視をされたために若干の苛立ちを声に乗せるライラ。
完全に犬猿の仲の状態である。
「あぁ君もいたんだ。えーっと...ライなんちゃらさん」
「私の名前はライラです〜!」
「はぁ...落ち着けライラ。ペースに飲まれるな」
ため息をつきながらも荒ぶるライラを宥めつつ、コウ達は広い王宮を迷わないようにレオンの後ろへ付いていく。
アルトマード王国の王宮よりかは見た感じ、内装は劣ってしまうがそれでも価値のあるであろう美術品があちらこちらに飾られていた。
どうして権力を持つ者達はこのように価値ある物を飾るのか不思議でしょうがない。
「そういえばあの獣魔は今はいないのかな?」
「フェニのことか?だったら外套の中だ」
コウは胸あたりを人差し指でトントンと軽く突くと首元からひょっこりフェニが顔を出す。
「キュイ?」
「ほら前に助けてくれたレオンさんだ」
「キュイ!」
そして寝起きのフェニはレオンの顔を見ると軽く鳴いて挨拶し、再び外套の中へと戻っていく。
「それは暑苦しくないのかな?っと...ここが私の私室だよ」
ゆっくりと話せる場所とはレオンの私室であったようで中に入ると几帳面な性格なのか意外にも綺麗に整理整頓されている。
部屋の中に置かれた家具も洒落た物が多く、基本的にオーダーメイドで作られた物なのだろう。
「好きなところへ座るといいよ」
2人ほど座れるソファが部屋の中央に置いてあったので座るとコウはジールから預かっていた高級感溢れる綺麗な木箱を収納の指輪から取り出して手渡す。
「ん...忘れ物はこれだな」
「いや〜ありがとう!あとは陛下に渡すだけだ」
レオンが忘れた物はこのロスガニアを治めている王様への貢物だったようでそんな大事な物を何故忘れてしまったのだろうか。
「はいじゃあこれが証明書だね」
レオンは棚の引き出しから一枚の綺麗な紙を出すと直筆のサインと受け取ったという一筆を添えて、コウへと渡す。
「これで依頼達成だな。そういえばさっきは何で外に出てたんだ?」
「あぁそれは街中で乱闘が起きたらしくてその対応をちょっとね」
「ふぅん大変なんだな...あーさっきの忘れ物は早く渡さなくていいのか?」
乱闘騒ぎ自体はコウ達にあまり関係していないが、乱闘騒ぎになってしまった原因については関わっていなくはないので墓穴を掘らぬように話の流れを変えていく。
とはいえバレたところで全面的にあの獣人の男が悪いので問題はないのだが。
「確かに早めに渡しておこうかな」
「じゃあ俺らも一旦街をぶらつ...「あっ!待って待って!」
街中を観光するために部屋を出ようとするとコウが歩こうとする方向を遮るように前へ立った。
「まだ何かあるのか?」
「いや陛下がコウ君に興味を持ってね。1回だけ会ってくれない?」
「礼儀だとか何も知らないんだが」
「大丈夫そこまで気にする方じゃないから」
偉い人に呼び出されたともなれば拒否するのは失礼にあたるのではないかと思いコウは諦めることにした。
まぁ断ったことによる罰はないがそれでも断られた相手は良い思いをしないだろう。
ということでコウはレオンに案内されながらまた偉い人に会うのかと思いつつ、このロスガニアを治めているという王の元へ向かうのであった...。
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