192話
ワイバーンは火球を常に出し続けるのは厳しいようで空中浮揚しながら上空で休息中である。
こちらからの攻撃が届かないとワイバーンは理解しているのか油断しているようでこれは好機といえる。
「なぁ...ライラ。これ本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ〜!」
コウはライラの秘策とやらに任せていたが、実際に行動を移すとかなり不安要素のある方法だった。
その方法とは至ってシンプルであり、ライラがコウをワイバーンに向かって全力で投げるというものである。
そんなコウはライラが肩の位置まで上げられた手のひらの上へちょこんと座っていた。
コウの体重は約40㎏なのだが、傍から見たら大道芸にしか見えないだろう。
一応、他の人にとっては重くなってしまうサンクチュアリは収納の指輪の中である。
流石のコウも不安を覚え、大丈夫かと問いかけるがライラ本人からは自信満々な返事が返ってきた。
「その自信はどこから出るんだ...」
確かにライラが手袋を装着している状態ならばオーガの比にならない程の膂力となるのでワイバーンの位置まで届くかもしれない。
ただ正直、まだ心の準備が出来ていない。
「いきますよ〜!」
「ちょっと待って...」
「それぇ〜〜〜!」
コウが別の方法を考えるためライラを止めようとするが時既に遅し。
コウの言葉などライラの耳には入っておらず、砲丸投げをするかのような体勢に入っていた。
「ライラあぁぁぁぁぁぁああ!!!」
ライラの名前を叫びながらワイバーンに向かって一直線に放り投げられたコウは一筋の流れ星のようだ。
そして投げられ、空中を舞うコウは心の底で地面のありがたみを感じていた。
「もうどうにでもなれ!」
諦めるように空中で収納の指輪へと仕舞っていたサンクチュアリを取り出して魔力を流すと大きさを変化させていく。
「カロロロロ!?」
ワイバーンが驚くのも無理はない。
圧倒的に優位な場所だった空高くまで一気に近づいてくるのだから。
ワイバーンは自身に近づけさせないように口を大きく広げると急いで火球を作り出す。
そして向かってくるコウを打ち落とすように撃ち出した。
「水球!」
火球へ対抗するように撃ち出した水球はぶつかり合うと混ざり合い、前が見えなくなるほどの水蒸気が作り出され、その中へと突っ込んでいく。
しかし徐々に空を飛んでいくスピードは減衰していき、煙幕の様になっている水蒸気の中で止まる。
「ここまで飛んで諦めるかよ!」
サンクチュアリへ追加として大量の魔力を込めると刃の穴から大量の水が噴き出し、ロケットのように2段階目として更に空中を進んでいく。
煙幕の様にできていた水蒸気の中から一気に抜け出し、加速したコウはワイバーンの首に狙いをつけて飛んでいった。
「終わりだ!」
サンクチュアリを両手に持ちながら縦に振り下ろし、ワイバーンの首を捉え、硬い鱗や骨ごと断ち切る。
「カァ...!」
首を切り落とされたワイバーンは絶命し、そのまま地上へと落ちていくが同じ様にコウも落下していく。
(あれ...?これどうやって着地するんだ?)
ワイバーンを討伐することはできたが、地上からだいぶ高くまで離れているコウはこのまま落下すれば地面に激突してしまうだろう。
「やばいやばいやばい!」
着地のことまで考えていなかったコウは後の祭り状態である。
水球を撃つ?地面が抉られるだけだ。
氷槍は?どうせ刺さるだけだし意味がない。
あとどれくらい時間が残されているか分からない状況で頭を回転させるが打開策は思いつかない。
スカイダイビングのように身体をうつ伏せにして下を見ると大地がものすごい勢いで迫りつつある。
もう駄目だ!ぶつかる!と思い目を閉じると過去にも体験した走馬灯が脳裏に流れてくる。
「コウさ〜ん!迎えに来ましたよ〜!」
しかしその走馬灯は下から聞こえたライラの声によってすぐに掻き消された。
コウの落下点までライラは足場の悪い渓谷を駆け、追いつくとジャンプして空中でコウを見事にキャッチする。
「ほら〜上手くいきました〜」
「死ぬかと思った...生きてる...」
お姫様抱っこをされながらコウは自身が生きていることを実感し、ワイバーンの死骸がある場所までライラに運ばれる。
ワイバーンの死骸を回収して一息つくと心臓のドキドキもある程度収まり、なんだかどっと疲れた気持ちになった。
疲れたといっても身体的にではなく精神的にだ。
ワイバーンが倒されたということでいつの間にか隠れていたフェニは側に来ており、コウ達が怪我をしていないか全身を隈なくチェックしている。
「ここにいると他の魔物が寄ってくるな」
「ですね〜早く移動しますか〜」
地面にはワイバーンの血が流れ出ているためこの場で長居すれば他の魔物が血の匂いに誘われて寄ってくる可能性が高い。
流石に連戦は嫌なのでコウ達は早めにその場から離れ、川沿いを進んでいくのであった...。
■
時は過ぎその日の深夜。
コウ達は川沿いをひたすら進むが獣人国であるロスガニアはまだまだ到着しない。
川沿いの少し離れた、周りから身を隠せそうな大きな岩で囲まれている場所で1日目の野営をしていた。
魔物除けのランタンを使おうにもここら一帯はBランクの魔物が多いため逆効果の可能性が高く使いづらい。
たとえAランクの魔物の魔石があったところでフェニにも影響があるだろうし、便利なものだと思っていたが、この様な場面では使い道がなかった。
「先に仮眠するけど大丈夫か?」
「問題ないですよ〜」
夜は魔物が活発になる時間帯のため、見張りが必要になり、ライラと交代交代の仮眠になるだろう。
いつもより多少、仮眠時間が短くなってしまうのは致し方ない。
焚き火も魔物達に気づかれない様に鎮火させているが、ほんの少し火種が燻っている。
用意した寝袋に入り、横になって鎮火した焚き火を背に身体を休めていると岩上で監視しているライラから話しかけられた。
「私とパーティを組んでくれて〜ありがとうございます〜」
「ほぼ押しかけ女房だったけどな」
「冒険者として活動してから毎日が楽しいんですよ〜」
ちらりと横目で岩上を見ると一筋の月明かりに照らされたライラはまるで絵本などに出てくる聖女に見えた。
「孤児院にいる時、私は聖女候補になったんです〜」
返事はしない。ただぽつりぽつりと喋り出すライラに耳を傾ける。
「ただそれが嫌で少ないお金を持って逃げ出したんですよ〜」
だからあの時は路銀も何も持っていなかったのかとコウは思い出す。
もしあそこでライラはコウに出会っていなければ行き倒れか碌なことにはなっていなかった筈だ。
そう思うとある意味ライラは運が良い。
「まぁ逃げ出したおかげでいつの間にか聖女候補から外されたんですけどね〜」
確かに聖都シュレアに戻った際、ライラに干渉してくる人はいなかった。
逃げ出した際に聖女として相応しくないと思われたのだろうか?
「つい喋り過ぎましたね〜仮眠の邪魔してすみません〜」
ライラが喋るのをやめると再び静寂が訪れ、眠気が襲い始めたのか瞼が重くなっていく。
そして見張りの交代時間までコウは束の間の休息で身体を癒すのであった...。
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