191話
東の渓谷には様々な魔物が生息し、大体はCランク以上の魔物が多い。
例えばよく見かける魔物としたらオーガやロックドラゴン辺りが主になるだろうか。
そんな危険な魔物達が蔓延る大規模な渓谷をコウ達一行は進み続ける。
因みに獣人国であるロスガニアは渓谷にある大きな川沿いをひたすら進めば到着するとジールから聞いていたので進み方的には問題ない。
「やっぱりここは足場が悪いな」
「渓谷ですからね〜」
足元は大小様々な石が転がっており、舗装された道などはないため馬車などは使えず勿論、徒歩での移動となる。
暫くの間、川沿いを歩き続けると耳をつんざくような轟音が前方から木霊してくる。
轟音の音の正体は大量の水が崖上から落ちる巨大な滝であった。
普通に村人として生活していたら見られないような大自然が織りなす、絶景な光景だ。
大量の水が崖から降り注いでいるためか、水が細かな霧へと変わり周囲はひんやりと湿った空気となっていて心地よい。
「わぁ〜綺麗ですね〜!」
「前も来たことあったけど改めて見ると景色がいいな」
「キュイ!」
確かにコウは過去に1回だけこの場に来ている。
その時はローランでスタンピードが起こる前であり、巨大な魔石を捜索している時であったが、今回のようにじっくりと眺めている場合ではなかった。
「そういえば滝の裏にあった魔石ってどうなったんだろうか?」
スタンピード後は巨大な魔石がどうなったのかという話は一切聞いていなかったのをふと思い出す。
少しだけ気になったので滝の裏側が見える場所まで移動し、中をちらりと覗く。
「おっ...なくなってる」
巨大な魔石の姿は跡形もなかったが、その代わりとして巨大な魔石があった位置の岩壁にはぽっかりと穴が空いていた。
ぽっかりと空いていた穴の場所まで岩壁から突起している部分を足場として飛び移りながら向かう。
「おぉ...冒険って感じだな」
到着するとその穴は奥底まで真っ暗であったが、そこまで奥は深くなさそうである。
「だけど何もなさそう...ん?」
一瞬だけ爬虫類の眼のようなものがぎょろりと周りを見渡してつい目が合ってしまった。
「カロロロロ...」
目が合った魔物にどうやら外敵と判断されたようで突然暗闇だった穴の中、全てが橙色に照らされ、目の前には灼熱の火球が作り出されていた。
「やばっ!」
灼熱の火球がコウに向かって撃ち出されると岩壁の穴から逃げるように飛び出た。
火球は真っ直ぐ飛んで崖上から降り注ぐ大量の水にぶつかり水蒸気爆発のように大きな音を立てて爆発する。
滝の地形は爆発の影響で多少なりとも変形し、滝は岩壁にあった穴の周りを避けて水が流れてしまう。
「も〜何をしたんですか〜?」
「キュイ〜」
「悪い!藪蛇だった!」
ライラとフェニがゆっくりしている場所まで下がると文句を言われるが素直に謝る。
滝の水に隠されていた岩壁の穴からのそりのそりと徐々に外へ出て、その魔物は姿を現す。
「ワイバーンですか〜」
ワイバーン。竜種の中でも下位に位置する魔物であるが竜には変わらない。
前肢は退化しているが大きな翼膜が発達しており、全身は強靭な茶色の鱗で守られている。
討伐として推奨しているのはBランクであるが群れを成すとAランクに格上げされる。
とはいえ今回は群れではなく、単体であったのが唯一の救いだろう。
「カロロロロ!」
「やる気満々ですね〜」
「興味本位で行くもんじゃなかったな」
ワイバーンはコウ達を見つけると翼膜を大きく広げ、大空へと飛び立つので各々は戦闘態勢を整える。
「フェニ!今回は相手が悪いから隠れてろ!」
「キュイ!」
流石にワイバーンの相手ともなればフェニには荷が重いということで下がるように指示するとちゃんと理解しているのか身を隠す。
大空をぐるぐると旋回し、ワイバーンは狙いを定めたのか翼膜を折り畳む。
そして一気に上空から全身をドリルのように回転させながら急降下してコウに向かって突進してくる。
「よっと!」
コウは突進を避けながらサンクチュアリを軽く振り、反撃を行うも回転しているためか攻撃は通らず弾かれた。
突進された通り道を見るとがっつりと地面が抉られているので正面から受け止めたりするのはやめておいた方がよさそうだ。
そして再び上空までワイバーンは戻り、先程と同じように突進の態勢を整えているのが見える。
コウの反撃として軽く振った攻撃はそこまでダメージはなかったので同じく突進しようとしているのだろう。
「今度は私も殴りますね〜!」
「一気に決めるぞ!」
ドリルのように回転しながら突進してくるワイバーンの両サイドへコウとライラは挟み込む形でひらりと回避する。
「今だ!」
「いきますね〜!」
コウはサンクチュアリを上から振り下ろしながら魔力を込めると刃の穴から水が勢いよく噴き出し、振り下ろしが一気に加速する。
反対側のライラも同様に片手の拳へ魔力を込めると手袋に装飾されている十字架は白く光輝き、叩き落とすように殴りつけた。
「カロロロロ!?」
息を合わせて放った2人の一撃は身体をしっかりと捉えたのか回転しながらの突進は止まり、ワイバーンは地面へと打ち落とされる。
予想外の一撃にワイバーンは混乱してぶんぶんと首を振るうので更に追撃を加えていくも強靭な鱗がある外皮は硬い。
ただ硬いといってもサンクチュアリへそれなりに魔力を込めれば刃は通るようだ。
「カロロロロ!」
「逃すかよ!」
上空へ逃げようとするワイバーンに対して翼膜の付け根を狙うもコウ達を風圧で振り払って逃げられてしまう。
「仕留めきれなかったか!」
逃げられたとはいえ致命傷ではないにしろかなりの痛手を負っているはずだ。
その証拠に飛んでいるワイバーンの翼膜はぼろぼろになり、ゆっくりと飛ぶぐらいが限界だろう。
流石にワイバーンも近接は危険だと判断したのか今度は上空から火球を乱れ打ちしてくる。
攻撃の仕方からして、そう簡単に降りてくることはなさそうである。
「ちっ...!氷槍!」
コウも降り注ぐ火球を避けながら魔法で反撃するが残念ながら上空にいるワイバーンの位置まで射程外のためか届かない。
「くっそ!近づけさえするば首を切り落とせるのに!」
「ワイバーンまで近づければいいんですよね〜?」
「そうだけど...何か策があるのか?」
「ふっふっふ〜!私にまかせてください〜!」
上空にいるワイバーンに対抗できるというライラの秘策になんだか不安を覚えるがそれしか手はなさそうなので任せてみるのであった...。
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