189話
ローランへ到着する頃にはきらきらと輝く宝石が黒い布の上に散りばめられている様な満天の星が空を覆い尽くす。
「そこまで並んでないですね〜」
「ここに並ぶのも最後だな」
ローランに入るため、ライラとたわいない会話をしながら一般入口に並んでいる列の最後尾へ立ち並ぶ。
冒険者ギルドに報告してBランクになれば、今まで何度も並んでいた一般入口もこれから並ばなくなると思うと色々感慨深い。
「次の方どうぞ」
人がそこまで並んでいなかったおかげかスムーズに進み、コウ達は呼ばれたのでギルドカードを門兵に見せて問題なく、通過していく。
ローランに入ると少し早い夜の時間なのだが見える範囲の酒場や大衆食堂は依頼を終えたばかりの冒険者達で賑わっていた。
「とりあえず依頼の報告をしてからのご飯でいいか?」
「大丈夫ですよ〜」
「キュイ!」
一応、ライラとフェニに確認すると食事は後でも大丈夫とのことなので冒険者ギルドへ向かって歩き出す。
冒険者ギルドに向かう途中では既に出来上がった酔っ払いが絡もうと羽虫の様に寄ってくるもまともに相手をしていたらキリがないのでのらりくらりと躱していた。
冒険者ギルドに着いて中に入ると片隅にある酒場は盛り上がっているおり、受付には数人ぐらいの冒険者しかいない。
「コウさんじゃないですか。もう依頼が終わったんですか?」
「とりあえずは終わったぞ」
「でしたらロックドラゴンの牙をお願いします」
ロックドラゴンの討伐証明は牙なのだが、コウは解体せずにそのまま収納の指輪へと仕舞い込んでいるのを思い出す。
「しまった...解体するの忘れてた」
「ん〜では手間ですが解体倉庫で牙だけ取ってもらうのはどうでしょうか?」
サーラはコウが収納の指輪を持っているという情報を知っているため、隣にある解体倉庫の人に取って貰えばいいという提案をされた。
たしかに討伐証明である牙くらいならすぐ抜いてくれるだろう。
「そうだな。とりあえず牙だけ貰おう」
「お待ちしていますね」
「私もここで待ってますね~」
ということで、一旦解体倉庫へ向かうためにコウはライラを受付に残し、くるりとその場で反転して入口に向かって歩き出すことにした。
冒険者ギルドから外に出てすぐの隣に解体倉庫はあり、中に入るといつも対応してくれるオーバーオールの作業着を着た男性が出迎えてくれた。
「坊主が久々に来やがったな〜」
「坊主じゃないコウだ」
「そういや名前を言ってなかったな。レグルだよろしくな」
数回しかまだ会ったことはなく、自己紹介もしたこと無かったのでお互い名前を名乗り握手を交わす。
「今回は何を持ってきやがったんだ?」
「ロックドラゴンかな?」
「日に日に持ってくる魔物の質が上がりやがるな」
解体倉庫内を歩きつつ、持ってきた魔物を話すと普段よりも広いスペースへと案内された。
広い場所なのでここぞとばかりにコウは今まで溜めに溜めていた魔物の死骸を山の様に収納の指輪から吐き出す。
とはいえ全部の魔物ではなく、一部だけだ。
過去に倒してきた魔物達も収納の指輪の中にまだ眠っているのだが、今回はこれ以上出すスペースもないので諦めた。
「おいおい多すぎだろうが」
「とりあえずロックドラゴンの牙だけ欲しいんだけど」
「はぁ...わかった」
中にはオーガも出されており、山の様に積まれた魔物を見ながらレグルは頭を押さえつつもロックドラゴンの牙を手際良く解体してくれる。
「ほれ ロックドラゴンの牙だ」
「助かる」
「次からはもう少し魔物を減らしてくれよ?」
釘を刺されるように言われるが、とりあえず目的の討伐証明の牙を手に入れることができ、満足である。
レグルに魔物の死骸を丸投げし、解体倉庫から冒険者ギルドへ戻るとジールがサーラのいる受付周りに立って待っていた。
「サーラから話は聞いたぜ。ご苦労さん」
「大変だったんだからな」
コウは愚痴りつつもロックドラゴンの牙を受付の机に置き、サーラが手早く手続きをおこなってくれる。
「俺がギルドカードを更新してやるよ」
「あぁ ありがとう」
ジールがBランクのギルドカードにしてくれるということなので手渡すと受付の裏にある部屋へ向かう。
「これが今回の報酬になりますね」
机の上に出されたのは、ぱんぱんに詰まった小袋でサーラから渡される時に小声であまり見せびらかさない方が良いと言われた。
中身を確認すると金貨がぎっしりと詰まっているのでサーラの言うことには納得でき、すぐに収納の指輪へと仕舞い込む。
本来はBランクの依頼であるため報酬は今までとは違って随分と多い。
となればAランクやSランクの依頼はどれほどの報酬が貰えるのだろうか気になってしまう。
「待たせたな。ほらよBランクにしてやったぞ」
受付の裏にある部屋からジールは出てくるとコウに向かってギルドカードを放り投げられるのでうまく受け止める。
ギルドカードの色は半分が金色、半分が銀色へと変化しており、ついつい眺めているとサーラが驚きの表情をしていた。
「えっ!Bランク!?コウさんが!?」
「なんだお前さん。コウから話を聞いてなかったのか?」
「聞いてないですよギルドマスター!コウさんもなんで教えてくれなかったんですかぁ!」
「めんどくさそうだから言わなかった」
コウの一言によってサーラはいじけるように受付の机へと寝そべり職務を放棄し始めてぶつぶつと何かを呟き始める。
「コウよ。それはお前が悪いかもわからん」
「コウさん〜...流石にそれは〜」
「キュウ〜」
「あーわかってるって。サーラすまんな」
周りから責められたコウは頭を掻きながらサーラに向かって申し訳なさそうに謝罪を行うと多少、不貞腐れてはいたがすぐに顔を上げた。
「まぁいいですよ。でも次からは教えてくださいね!」
「わかった」
次といったらAランクであるため当分、先の話となるだろう。
個人的には街と外の行き来が楽になったので態々ランクをあげる気は起きない。
「とりあえずお祝いしましょうよ!お祝い!もう仕事が終わるんで待ってて下さい!」
「いいですね〜!私もやりたいです〜!」
サーラとライラは祝賀会をやりたいようで提案をしてくるがコウとしては少し気恥ずかしい。
「場所なら今から用意してやる!」
ジールも何故か乗り気なのか冒険者ギルドの片隅にある酒場へ向かうと既に飲んでいる冒険者達へ内容までは聞き取れなかったが話をしている。
すると謎の盛り上がりを見せ、片隅にある酒場にいる冒険者達全員から満面の笑みで手招きをされた。
とはいえ大体が強面の冒険者達なのでなんだか逆に恐怖を感じる。
「さぁ〜いきますよ〜!」
「おいライラ!押すなって!」
ライラに背中を押されながら慣れない祝賀会へとコウは参加して長い夜が始まるのであった...。
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