184話
馬車に揺り揺られ、柔らかなクッションが身体を支えるように包み込みながら第一皇子から送られた手紙を片手に王宮へと向かっていた。
隣にはイザベルが座っており、2人で出掛けるというのはダンジョン都市アルク以来だろうか。
フェニとライラは白薔薇騎士団の屋敷へ留守番をお願いしてあるが2人にだけ来ていた手紙を羨ましそうにしていたので今度何処かでガス抜きでもしてあげようとは思っている。
貴族街を進み、暫くすると窓から遠くでも見えていた立派な王宮が顔を覗かせ、到着したのか馬車はゆっくりと停止した。
「イザベル様とコウさん到着しました」
「ジュディいつもありがとうね」
「ん...ありがとう」
御者をしていたジュディが扉を開けながら到着した旨を伝えてきたのでコウもお礼を挟みつつ、馬車から降りる。
そして馬車から降りて1番最初に目に入った光景は来る途中でも見えていたが、イザベルが所有する白薔薇騎士団の屋敷よりも圧倒的に大きい王宮の姿。
「でっか...」
ついつい口から目の前にある大きな王宮の感想が漏れてしまう。
「リディカート家の御令嬢とお見受け致します。王宮に御用がお有りでしょうか?」
門の近くには門番所があり、そこから門番が小走りで駆け寄り、馬車から降りたイザベルへと丁寧に話しかけてきた。
「第一皇子殿下から王宮へ招待の手紙を頂きました」
「拝見させて頂きます」
第一皇子であるアンドリューから送られた手紙2人分を門番へ渡し、中身の確認が終わると案内の者を呼ぶとのことだった。
暫く待っているとプレートアーマーを身に付けた茶短髪の男性が王宮から歩いてくるのでさっき言っていた案内人だろうか。
重量感のある音を立てながら門は開くと「ご案内します」と一言伝えられたので背中を追うように案内人へついて行く。
王宮の中に入ると土汚れすら付いていない真っ赤なカーペットが敷いてあり、その上を歩くと少しだけ汚れてしまったのでなんだか申し訳ない気持ちになる。
それにしても部屋数も多く何部屋通り過ぎたのかもう覚えていないが、こんなにも多かったら掃除が大変そうと思ってしまう。
「殿下。お連れしました」
「入っていいぞ」
案内人の足が止まり、装飾された扉へノックしながら中にいるであろうアンドリューへコウ達を連れてきた旨を伝える。
すると部屋の中から先日聞いた覚えのある声が聞こえた。
部屋の中へと入っていき、イザベルは片足を床に置いて頭を下げるのでコウも失礼が無いように動きを合わせる。
「あーこの部屋には俺と親衛隊しかいないし堅苦しいのはやめてくれ」
嫌そうな顔をしながら手をひらひらと動かし、目の前にある高そうなソファーへ座るように促されたので座って本題である褒美について話し始めた。
「で...褒美なんだが何か欲しいものはあるか?」
金品、魔道具、地位、出会いなんでもいいと言われるが選択式だと思っていなかったコウは悩みだし、隣のイザベルも同じようだ。
「では私は金貨でお願いします」
暫く腕を組みながら悩んでいるとイザベルは欲しいものが決まったようでアンドリューへ金品を要求していた。
「珍しいな。イザベルはお金が無いのか?」
「いえ...団員全員は戦争で頑張ったので労いをと思ったんです」
自分のためではなく、団員のために使うお金が欲しいというのはまさにイザベルらしい。
「コウさんは決まりましたか?」
「あーあんまり思いつかないんだよな」
別にイザベルと同じ様に金品でも良いが第一皇子という遥か上の立場の人に褒美を貰える機会はあまり無いので別の物が欲しいとこではある。
「あっ...Bランクに上がりたい」
「ん?お前はBランクじゃないのか?」
「まだCランク冒険者だ...です」
慣れない丁寧語で答えるコウは元とはいえAランク冒険者を捕らえているので、てっきり天才的なBランクだと思っていたらしい。
しかしまだCコウがランクの冒険者だったことに驚いたようで物珍しそうな目でこちらに目線を向ける。
と言ってもコウのぐらいの年齢でCランクやBランクの冒険者は数が少なく、滅多にいるものでは無いのだが...。
「最近の冒険者はCランクでもこんな強いのか?」
「いえ...ランク詐欺はコウさんぐらいだけだと思います」
「うーむ...まぁ時には例外という物もあるしな」
驚きつつもアンドリューは机の引き出しから上質な紙を1枚取り出し、サラサラと羽根ペンで文字を走らせると最後に右下へ署名する。
書き終わったのかコウ達に届いた手紙の封筒と同じ物に入れて王国の紋章が入った封蝋をして手渡された。
そして親衛隊がアンドリューに耳打ちする様に「そろそろ時間が」と言っていたので次の予定が詰まっているのだろう。
「悪いな時間が押してるみたいだ」
「貴重な時間をありがとうございました」
イザベルはソファーから立ち上がると頭を下げながらお礼を言うので真似るように身体を動かし、王宮を出るため後ろで待機していた案内人についていく。
「あぁそうだ。最後に聞きたいんだが騎士団に入る気はないか?」
「俺が騎士団にすか...?」
部屋を出る途中でアンドリューから呼び止められ、話に耳を傾けると騎士団へのスカウトのようだ。
「なるべく良さげな人材は確保したいんだ。どうだ?」
年齢や実力を見る限り、これから更に伸びる可能性があるため欲しいところである。
しかしコウからすれば現状の冒険者生活は自由気ままであり、縛られるような生活をする騎士団はあまり好みでは無い。
「申し訳ないけど今は冒険者のが楽しいのでやめときます」
騎士団の誘いをきっぱり断ると残念そうな表情を浮かべるがすぐに諦めたようで引き留められずそのまま部屋を出て行く。
そして王宮の外にはジュディが待機していたようで馬車に乗り込み、そのままコウとイザベルは帰路に着いた。
■
後日談。
コウはライラとフェニの不満を消化するために王都内を観光して回ってガス抜きも終わったので、その数日後にはローランへ帰ろうとしていた。
王都から出る受付はもう済ませたし、馬車はありがたいことにイザベルが手配してくれていた為、後は乗り込むだけである。
「今度来る時はまた手紙でも下さいね」
「あぁ今度は早めに送るさ。またなイザベル」
城門の前まで見送りに来てくれたイザベルと別れの会話を済ませ、馬車の中でライラとフェニが既に待っているのでコウも馬車へ乗り込んでいく。
「また会いましょ〜!」
「キュイキューイ!」
馬車が動き出すと1人と1匹は小窓から顔を出し、イザベルが見えなくなるまでライラは手を振っていたのであった...。
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