183話
太陽が西の大地から顔を出し、朝日がまだ凍りついた大地を照らして光がキラキラと乱反射している。
「なんか様子がおかしくないか?」
「一切攻めてくる様な気配がないですね」
大規模に広げられた野営地はまだあるが、人の動きは少なく、もう朝だというのに陣形すら組んでいないのは何かがおかしい。
そのため何かしら油断を誘う作戦なのだろうと勘繰ってしまいこちらからアクションを起こしづらい状態であった。
援軍さえ来れば数的有利が作れるので一気に攻勢へと出ることが出来るのだが...。
実際にはモーガスが敗戦濃厚だと感じた為、追撃されない様に野営地をそのまま放置した状態で本隊を下げているがそれに気づけるわけがない。
暫く王国軍は帝国軍の動きを静観していると東と西から多くの人影が姿を表す。
最初は帝国軍の作戦による侵攻かと思ったがアルトマード王国の旗を掲げている為、すぐに味方の援軍だと分かり、王国軍の指揮はぐっと上がることとなる。
『援軍が到着した今!我々は一気に攻勢に出る!』
援軍と分かり次第、すぐに固く閉ざされていた城門が大きな音を立てて開き、そこには第一皇子であるアンドリュー・フォン・アルトマードが黒馬に跨り、騎馬隊を率いているのが見えた。
「む...攻めるなら氷を水に戻さないとな」
攻めるのはいいが自分の作り出した足止め用の氷で滑られてしまっては困るため、跳ね橋が降りている最中に凍った大地を元に戻す。
『全軍!野営地にいる帝国軍を蹴散らせ!』
第一皇子の号令と共に騎兵隊が先に突撃し、その後ろをついていく様に他の王国兵や冒険者達が手柄を立てる為、帝国軍の野営地へと向かって声を上げながら走り出した。
そして東と西からの援軍も途中で合流し、コウ達も遅れて帝国軍の野営地へ攻め込むが数が異様に少なかったのですぐに野営地の制圧は終わる。
相手は指揮官が不在のためか統率も取れておらず、殆どの者達は抵抗せずに武器を捨てて降伏の道を選んでいたので無駄な血は流さずに済んだのは良かっただろう。
中にはテント内でぐっすりと寝ていた者もいたりしたので何らかの罠と思えない。
降伏した者達の話を聞く限り、とある作戦のため待機しろと言われていたようだ。
「帝国兵が少ないですね〜もしかしてこの人達を囮にして逃げたとかですか〜?」
「可能性はありますね。ここまで来て何もないとなると...」
「ん?あれって第一皇子じゃないか?」
偶々、第一皇子が近くにいた様で野営地に放置してあった机の上へ地図を広げ、斥候と思われる部隊に指示を出し、帝国軍の追跡をしようとしているのが見えた。
暫くすると斥候が帰ってきたようで聞き耳を立てるとここから東へ10km先に帝国軍の本隊を見つけたが、自国へ逃げる様に下がっていたとのことだ。
追撃はまだ間に合う距離であるがこれ以上深追いしても利益はないと判断した第一皇子は風魔法に声を乗せて勝鬨を上げる。
『帝国軍は我々を恐れて敗走!我らの勝利だ!』
その場にいた全ての王国兵と冒険者達は第一皇子の宣言を聞くと歓喜の声を上げ、周囲の空気は震え響き渡ったのであった...。
■
後日、戦後処理として王都は目まぐるしい程に忙しく城壁の補修や遺体の埋蔵などの対応に追われていた。
コウは王都の冒険者ギルドで城壁の補修依頼を受けて材料の運搬などを行なっていた。
収納の指輪があるため一度に大量の材料を運べるのでかなり重宝されており、報酬は割増で貰えているのでコウ的には満足いく仕事である。
今日も1日分の作業を終え、まだお世話になっている白薔薇騎士団の屋敷へと戻るとイザベルから神妙な面持ちで一枚の綺麗な封筒を渡された。
「なんだこれ?」
「王宮からの呼び出しですね」
「なんも悪いことした記憶ないんだが...」
何か悪いことをしたのではないかと考えるが思い当たる節もなく、頭を悩ませているとイザベルはそんなコウの様子を見てくすりと笑う。
「ふふっ 多分ですが褒美の件だと思いますよ」
「真剣な表情をするから何かしたかと思ったじゃないか」
イザベルは舌をちろっと少し出して悪戯が成功したかのような表情をするのでいつか仕返ししてやろうと心に誓う。
王国の紋章が入った封蝋を丁寧にナイフを入れて剥がし、右下に第一皇子のサインが書いてある手紙の内容を確認すると明日の昼前に王宮へ来るようにと簡単に書いてあった。
「ちなみに格好はちゃんとした感じで行かないと不味かったりするか?」
「ん〜アンドリュー殿下は確か些細な事は気にしない方でしたので問題ないかと」
流石に冒険者の格好で行くのはあまりよろしくはないのではと思っていたが、呼び出してきた第一皇子は気にしないような人物らしい。
たとえまともな格好を求められたとしても元々コウは正装を持っていないし、そんな服を見繕ってくれる店も知らない。
そもそも明日の昼前ともなればそんな正装を用意する時間も無いのでラッキーではある。
「そういえば何を貰えるんだろうな」
「私は正直欲しいものは無いんですけどね」
褒美をやるとは言っていたが、何をくれるのか手紙を見直しても何も書いていないので分からない。
とはいえ褒美と言われて分かりやすい物で言えば金品類だろうか?
最近は出費がそれなりに出てしまっているので金品を貰えることに越した事はない。
第一皇子ともなれば褒美を期待しても良いだろうと思いつつ、コウは胸を膨らませるのであった...。
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