178話
「慢心ですねこれは」
リィンの作り出した毒で痺れてしまい身体が動かせないため、イザベルは地面に伏せ倒れた状態で自身が慢心していた事を恥じていた。
「目一杯に反省すると良いっすよ~!そろそろ部屋の毒は外に出たっすかねぇ?」
カラカラと笑うリィンの言う通り、確かに身体は動かせないのは普通ならば諦めるしか無いだろう。
声を出して助けを呼んだところでこんな場所に戦える人間はおらず、殆どは前線に出てしまっている。
そんな絶望的な状況だが、イザベルの瞳には諦めているような様子はない。
「因みに毒が抜けるのは最低でも30分は掛かるっすよ~まぁその前にこれも飲んでもらうっすけど」
リィンは追加として今度は腰元から新たな黄色の液体が入った小瓶を出すとイザベルへ一歩一歩近づいていく。
確かに身体は動かせない。ただそれだけであって魔力は動かすことが出来る。
魔力が動かせるなら魔法が使えるがこんな狭い場所で使ったとしても瓦礫の下敷きになってしまう可能性があるし、最低でも相手を視認できる状況でないといけないだろう。
「あまり使いたくはないですけどしょうが無いですね。"風域"」
屋内はイザベルを中心に風が吹き荒れ、大きな爆発とともに建物ごとその場にある物全て吹き飛ばし、まっさらな土地になったその土地は快晴な夜空に浮かんだ明るい月夜が周囲を照らす。
「そんな...あり得ないっす!」
あんぐりと口を開けて夜空を見上げ、何故か快晴で雲一つすら無い空の筈なのにリィンには影が被さるように差す。
そんなリィンが見る空の先には先程まで地に伏せていたイザベルが空にふわりと浮かんでおり、周囲には丸い風の結界に覆われる様に出来てヒュンヒュンと風を切るような音が鳴っていた。
「奥の手というやつですね」
「空を飛ぶとかありっすか~~~~~!?」
リィンが驚くのも無理はない。空を飛ぶことが出来る者は実際には存在はするのだが、ごく少数であるため半信半疑で噂されるものである。
実際には高度な魔力操作と膨大な魔力量が無ければ飛ぶ事が出来き、目の前にいるイザベルもその1人であるのだ。
「とても驚いたっすけど身体が動かせないことには変わりないっす!」
イザベルのレイピアは地面へと刺さったままであり、身体を動かせないならば空を浮かんでいるだけであって空を飛び回りながら一方的に武器を振るわれる事もない。
先制攻撃とばかりに腰袋へ手を突っ込み、飛び道具をイザベルに向かって投げつけるが残念なことに風の結界へ阻まれてしまい弾かれた。
「飛び道具すら効かないのは聞いてないっす!」
こうなってしまうと有効的な手段を持ち合わせていないリィンは何も出来ないので膠着状態に陥るだろう。
イザベルが何も出来なければの話だが...。
「あぁ...言っときますけど何もできないわけでもないですよ?」
武器を持っていないイザベルが何をしてくるのか分からない為、様子を見ながら身構えているとリィンの足元に小さな風の渦が出来始め次第に大きくなっていき、夜空を貫く様に小さな竜巻が空に向かって昇る。
「うわっす!」
調薬のお陰で身体能力が上がっているリィンは間一髪避けることが出来たのでかすり傷一つも無く済んだが、当たると無事で済まないだろう。
「これは逃げるが勝ちっす!」
そのままぐるぐると街中を逃げ回るリィンを空中から確認しつつ、通る道を予測しながら小さな竜巻を作り出すが毎回避けられてしまい掠りもしない。
当たりさえすればそのまま空へと打ち上げて追撃できるというのに。
「そんなのじゃ当たらないっすよ~!」
リィンが煽りながら通り過ぎた場所には小さな竜巻が次々と作り出されてはその場に残った状態となっていた。
現状イザベルに対して有効手段を持ち合わせていないとリィンは理解しているため、今度は魔力切れにさせることを狙いに切り替えて逃げ続けることにしたのだ。
これは正しい判断だ。現状イザベルは膨大な魔力を使用し空中に飛びつつ、更にはリィンに小さな竜巻を作り出して攻撃しているのだから。
「って!逃げ場が無いっす!」
見知らぬ土地を常にぐるぐると逃げ回っているといつの間にか小さな竜巻が自身の周囲を囲んでいることに気づいた。
「地面を走ってると建物が多くて周囲の状況に気づかないですよね」
空を飛んでいたのも魔法を使う為であったが一番の目的はリィンの位置を把握してその場所へ誘導するためだった。
逃げ回って当たらないのならば逃げ場を無くせば良い。
「しょうが無いっす!こっちも切り札っすよ!」
逃げ場もないため諦めたのか腰元にある最後の茶色の液体が入った小瓶を取り出して一気に飲み干すとリィンの青白いを隠す様に茶色で硬そうな岩肌を纏わせて体を丸めて防御態勢を整える。
これではまるでアルマジロにしか見えない。
そんなリィンを中心として逃げ場を無くしていた小さな竜巻は徐々に移動を始めて中心へ群がるように向かって進んでいく。
「さぁ終わりです!多重渦竜巻!」
小さな竜巻は近づくに連れて重なり、次第に大きな竜巻へと変化して周囲に強風を撒き散らしながら建物破片やその場にある全てのものを飲み込む。
勿論、リィンもその大きな竜巻へと飲み込まれているが中はどうなっているのかわからない。
「ふぅ...流石にこれを耐えられたら終わりですね」
ふわりと地面に降りてまだ身体は痺れているため、壁際にもたれ掛かると竜巻に飲み込まれて空高くまで吹き飛ばされたリィンが目の前に降ってきた。
大きな竜巻によって纏っていた岩の様な肌は所々剥がれされているために青白い肌が一部見えているのを見ると流石に耐えきれなかったのだろう。
「息はありそうですね。とりあえず動けないでしょうし良いでしょう」
リィンは呼吸はしているようだが、その場で白目を剥いて気絶しており、イザベルも無事とはいえないが勝利を収めたので身体にある毒が抜けきるまで身体を休めるのであった...。
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